スカウトされました
「ボス・・・」
「わかってる。」
お二人は何やら真面目な顔をしている。
「オーダ、お願いがあります。」
「何ですか?」
「ぜひ、私のパーティーに入って頂きたいの」
「いやいや、私、冒険者とか興味ないですし・・・」
「名目上で良いの。そうね、後方支援員ってことにしましょう。あなたに望むことは、私の必要に応じて、料理を作ることだけ。当然、賃金もはずむし、食材の採取も可能な限り協力します」
「はぁあ・・」
専属料理人になるってこと?
「あはは。オーダにとっても悪い話じゃないよ~。ボスがオーダの後見人になるってことだから。だって、オーダは天魔法の使い手だし、これから色々な人が集まってくるもの。でも、全てが善人とは限らないよ~」
「・・・?」
だって、天魔法の使い手は貴重だとしても、町には治療院もあったし、さっきだってあの冒険者が『医者をよんでくれ~』って言ってたしね。
丸めこもうとしてるのかな・・・?
「あはは~。オーダ、今丸め込もとうしてるって思ってるでしょ?顔に出てるって~」
ぎく。
「いや・・でも、医者は普通にいますよね?」
「うん。そうだね~。でも、全員が何らかの有力者の後ろ盾を持ってるよ~。そうじゃないと、大変なことになるもの。ただでさえ、オーダは戦闘力無いし、世間知らずだから。このままじゃ、最悪、奴隷扱い。無知は搾取されるのみだよ~」
むむむ。世知辛い。どこの世界でも、無知は搾取されるのか。
「私が天魔法の使い手だから囲いたいってことですか?」
「あはは。名目上はね。オーダに期待するのは、純粋に料理のみってこと。だってうちのパーティーはすでに天魔法の使い手いるからさ~」
そうなのか・・・。
じゃあ、そんなに悪い話じゃないのかな?
「わかりました。必要に応じてって言うのが、曖昧で怖いんですけど、料理を提供するってことなら了解です」
「そうね、それでは、基本的に、週に一度、毎週水曜日はどうかしら?賃金については、材料費とは別に、月に2000ロデム。その他、ダンジョンに潜る際の食事をお願いするけれど、それは別途支払うということで。とりあえず、これでどうかしら?」
そんなに貰えるの?
新卒のお給与くらいだよね。
「有難いんですが、それでは、貰いすぎじゃ・・・」
「良いのよ、あなたの料理にはそれだけの価値がある」
「あはは~。この額は適当だと思うよ~。オーダがこの条件で受けてくれないと、ボスが後々、面倒事にまきこまれるからね。ね~ボス?」
苦笑するテンペストさん。
「・・・?」
「あのね~、オーダが言ってた役場のおばちゃん達はさ、みんな凄腕の冒険者だったんだよ~。とくに、パーマをかけたおばちゃん。あの人、元Sランク。ちなみに、オーダが立ち寄った『イセコシヤ』のおばちゃん達も冒険者。確か、現役でBランクだったかな~。あの人たちの事だから、抜け目ないし、オーダのこと絶対鑑定してるはず。で、オーダを自分と縁のある冒険者パーティーに紹介したいとか考えてるはず。例えば、息子のパーティーとかね。それなのに、ボスが、オーダを安く見積もったりすると、おばちゃん達が放って置くわけない。引き抜こうとやっきになる。あそこのおばちゃん達全員を相手にするの、さすがにボスでもあり得ないからね~」
「ええええ!あのおばちゃん達そんなすごい人だったの?」
「あはは~。めちゃめちゃ有名人だよ~。オーダは、赤ちゃんみたいにモノを知らないね~。これから私が色々教えてあげるね~」
この国では、役場やギルドの職員をはじめ、大きなお店の店員さんは、高い戦闘スキルをもっているらしい。やはり、ここはダンジョン都市。一定数、傍若無人の荒くれ者達がいるわけで、そういう人達がそれなりに面倒事を起こすのらしい。それらを手っ取り早く捌くには、それなりの力を持っていないといけないってことみたい。それで、必然的に冒険者(元も含む)が多いらしいのだ。
「これ渡しておくわ。団員の証。私たちのパーティー名は『犬と月』。これから外出するときは、そのブローチを必ず見える位置につけとくこと」
渡されたのは、小さな木のブローチだった。埋め込まれた赤い石で月を描き、その下に月を見上げる犬のシルエットが彫られている。
「ありがとうございます」
「オーダは、これからスパイスを見て回りたいのよね?ミシャ案内してあげて」
「了解っス」
その後、ミシャさんに案内されオススメの冒険者専門店へ行った。
スパイスやにんにく、乾燥ハーブ、ドライフルーツ。それに重曹があったので、次々に購入した。。
テンペストさんだけではなく、ミシャさん自身も、かなりの有名人みたいで、あちらこちらから声をかけられていた。アイドル的な人気だね。
それにしても、さすが魔性のネコ科だ。
ミシャさんのお蔭で、かなり割引してもらったのだ。
なんせ、彼女が、潤んだ瞳で見つめるだけで、どんどん値崩れ起こすからね!
何度、生温かい目で店主を見つめたことか・・・。
この世界の男性も、可愛い女の子の上目使いに弱いんだね。
私も、ミシャさんの爪の垢でも飲んで、男心をくすぐるすべをマスターしたいと切に思った次第。
とにもかくにも、とても良い買い物が出来た。
ミシャさんには、何かお礼をしなきゃね。




