ケガ人に遭遇
サブタイトル変更しました。
コゲラの鳴き声がきこえる、のどかな小路をぬけて、船着き場へ。
ダンジョンまでの切符を買い小船にのる。
乗合馬車の方が安かったのだけれど、トルダ川クルージングに惹かれ、水路をいくことにしたのだ。
今日は、冒険者専門店へ行くことにした。
目当ては、もちろんスパイス。スーパーのおばちゃんの教えによると、手に入るってことだからね。
乙女な私としては、ちょっと心配だったのだけどね。
ダンジョン近くにあるってことで、冒険者がいっぱいいるエリアなんだろうし、そうなると、荒っぽいとかさ、治安も良くないんじゃないかとかね。
でも、実際そんなことはないらしい。おばちゃんも買い物によく行くわ~って言っていたしね。
ガイドブックによると、ダンジョンの一部は観光地としても開放され、とても人気があるそうだ。日帰りダンジョンツアーなんてものまでやっているそう。
冒険者だけではなく、一般の観光客も大勢集まっているんだって。
だから、安心して楽しもうと思っている。って、昨日も楽しんでいたけどね~。
小舟は、想像以上のスピードでトルダ川を進む。
川に沿って、民家が建てられていて、風が洗濯物を揺らしている。
ふんわりと膨らむシーツ。
そんな当たり前のことが、体温を感じさせてとても温かい気持ちになった。
おとぎ話の中にいるような美しい町は、とっても素敵だけど、どこか夢みたいでリアルを感じられなかったのだ。
でも、人々は確かに息をし、暮らしている。
行きかう何艘もの船。向こうでは、魚がはね、水鳥達が魚をついばむ。
そんな次々変わる風景を楽しんだ。
※※※
そんなこんなで、ダンジョンストリートへやってきた。(正式名称は、プラタナス通り)
褐色の肌のエルフ、私の腰あたりまでの背丈の人(小人族?)、動物のお耳がついている人(猫耳もいたよ!)。様々な人が行きかっている。
ドワーフもいるのかな~。
挙動不審に思われない程度に、人間ウオッチング。
「エルフの御嬢さん、落し物ですよ」
振り向くと、ドワーフの青年が、ハンカチを差し出す。
「・・・ありがとうございます」
ハンカチを受け取ろうとして触れ合う指と指・・
「あっ」
見つめあう2人。
絡み合う手と手。
二人だけの世界へ・・・もう他に何もいらない。
彼は聞く。
「ドュー ユー ラブミー?」
私は答える。
「イエス!フォーエバー!」
キャー!!!
な~んて妄想が爆発しながら歩いていたら、
「キャー!!」
リアル悲鳴が聞こえる。
「キャー!!」
「誰か!医者を呼んでくれ!」
(何だろう・・・?)
後ろから覗きこむと、倒れている男性がいた。
服は切りさかれ、背中から大量に血を流している。
友人らしき男性が必死に叫んでいる。
「ダンジョン帰りらしいな」
「これから医者に向かう途中だったんだろうに、気の毒に」
「この様子じゃ、間に合わないだろうな」
そんな声が聞こえてくる。
大きな騒ぎになることもなく、みんな自然体である。
冒険者の町ということで、みんなケガ人には慣れているようだ。
「そこをどいて!」
人々の群れに割って入る、一人の女性がいた。
颯爽と現れたのは、商業ギルドの受付にいた、ア○・ハサウェイ似の美人エルフだった。
(あっ・・麗しのTHEエルフ!)
「とりあえず見せて。ずいぶんざっくりやられたわね。それに、毒・・。何にやられたの?」
「・・・・ポイズン鎌鼬だ」
「護符は?」
うなだれる男性・・・。
「まさか持たずに向かったの?自業自得ね」
周囲の空気が10℃くらい冷え込むようなそんな冷たい声だった。
やじ馬たちも一気に押し黙り、だまって見つめる。
ひよどりの鳴き声だけが辺りに響き渡る・・・
麗しのTHEエルフは、氷を解かすように、ふ~とため息をつくと、
「こういう浅慮な冒険者でもこのまま放置したら死ぬだろうし、そしたら目覚めが悪いわ・・・仕方ないわね」
そう言いながら、優美な所作で空間から小瓶を取り出すと、男性の傷口に水色の液体をかけた。白い光につつまれ、傷口が見る間に消えていく。
「あれ、ポーションだぜ~」
「うげ~。超高け~のに」
「さすが、ダンジョンの美神だな」
「よかったな。これで助かるんじゃねーの?」
「これで傷は治したわ。あとは時間勝負」
「傷は治したって?助かるよな?」
「正直わからないわ。毒が回るか医者が間に合うかどっちかしら?・・・5分5分ね」
「そ・・そんな・・・。あんたなら何とかしてくれるだろ?」
すがりつく男性。
その手を上品に振り払う。まるで羽虫を払うかのように。
「何とかしてくれるですって?ずいぶん甘いのね」
先ほどの絶対零度の声音。
底冷えするような静けさと冷たさが満ちていく・・・
「無理よ。ポイズン鎌鼬の毒は、解毒ポーションでは効かない。一種の呪いだから。天魔法をかけるしかない。冒険者なら常識でしょ?護符さえ持っていれば毒に置かされることはなかったわ。ポイズン鎌鼬がいる10階へ足を踏み入れておきながら、護符を用意しておかなかった、貴方方のミス。医者が間に合わなければあきらめて」
「うおおおおおおおお」泣き崩れる男性。
「とりあえず、そこの商業ギルドに運んで。このままじゃ迷惑。わかるわよね」
「迷惑って・・」
「わからない?ここで彼が息を引き取ったら、面倒なことになるでしょ?」
「ああ・・・」
友人らしき男性は、ケガ人を抱き上げ商業ギルドへ消えていった。
「ムッシュウ、そういうわけだから、頼んだわ」
初老の男性がうなずく。向かいにある冒険者専門店の店主らしい。
「やじ馬も解散。この町じゃよくあることよ」
そう言い歩き出す。
(どうしよう・・・。私、一応天魔法使えるんだよね?
でも上手くいくかわかんないし・・・。でも、上手くいくかもしんないし。
お医者さん間に合わないかもって言ってたよ。
あの人たち、いなくなっちゃった。
あ~!!もう!!)
気が付いたら、足が動いていた。
必死で追いかける。
「あの!私・・・・・」
THEエルフに声をかける。
(うううううう。何て言おう・・・)
「あなた・・・オーダね?」
「あっ。はい」
「あの、私。天・・「ついてきて」」
途中で遮られ、腕をつかまれ連れて行かれる。
「急いで!!」




