実習、そして、実習。
2話目にして、主人公登場せずの巻。
「お疲れー。」
「おっつー。」
撮影スタジオのような光のコンソールを動かしていた亜麻色のくせ毛の幼女が、葉っぱでできたようなヘッドギアを首にかけ疲れたと言わんばかりに手でパタパタと力なく自分の顔を扇ぎながら、紅茶色のロングストレートの髪の毛の幼女と言葉を交わしている。
広い空間だが、光のコンソールの前に座ったままくせ毛の幼女801号はすぐ横に立つロングストレートの幼女830号にむかって笑顔でジュースを差し出す。
「うちら初めての転生にしては、上手くやったんじゃない?!」
ドヤ顔である。
「!!‥そうよね。上出来よ!」
801号を見て、少し不安な様子を見せていた830号が顔を明るくして勢いよく応える。
「さっきの、優希って言ったっけ?あの子、能力付与の希望のときに意外としつこく食い下がってきてたわよね。世界神様の目が無ければ、あたし無かったことにして記憶消してさっさと終わろうかとも思っちゃったよ。」
「だよねー。それうちも思った(笑)。」
801号と830号は見た目6、7歳くらいの幼女だが、非常に長い年月をかけて世界神候補養成学校をこの前卒業したばかりである。そして仮免許を交付され正式業務前に、世界神様の管理する比較的穏和な《世界》のうちから誰か波長の近い善良な魂を持つ者を転生させる実習を行っていた。もちろん穏和といっても仮免許でホイホイと転生させられて不都合が生じては堪ったものではないので、能力付与や転生後の待遇などについてはできるだけ転生者の希望を叶えるようにと厳しくお達し付きである。
世界神によって管理される《世界》の数は膨大でまだ拡大し続けている。時に過酷な《世界》や破滅してしまうものなど、管理が難しくなる《世界》もあるので、世界神は新たな世界神に穏和な《世界》を譲渡し、手のかかるところに注力するのである。そこで新たな世界神を養成する学校を設けて、簡単に言えば自分の身代わりを増やそうとしたのである。
神といえども簡単に《世界》に顕現し、その権能を振るうことはできない。調子が悪い《世界》に直接手を下せないので、転生という形で神の権能の一部を与えたものをその《世界》に生み出し、ゆっくりと変革・改善を見守るのである。ゆえに、異なる《世界》への転生はかなり頻繁に行われることであった。
801号は世界管理科で《世界》の構造と権能発現について主にシステム関係を学び、830号は世界律法科で《世界》のルールと運用や歴史を学んでいた。なので二人で実習を行うに当たっては役割分担をして、830号が対話とルールの選択を葉っぱに似たヘッドギアを用いて行い,801号が能力の付与と《世界》との結合をコンソールで調整して決定することにした。転生室(室といってもちょっとした空間なのだが)に召喚された優希と二人の間には、少し離れたところにマジックミラーのようなこちらからは見えるけどあちらからはその存在すらも見えないガラスのような膜を張って実習を行ったのである。
「830ちゃん、なかなか様になってたよー(笑)。『貴女にとって良い《世界》とともに人生を送れることを祈っています』なんて、凛としてカッコよかった!やるねぇー♪アレは優希ちゃんも本物の女神様だと信じてたよ。」
「そ、そう?そうかも!かなり上級神っぽくいい感じだったはず。これならあたしらもかなりポイントアップでかなり早く昇神するかもね?!やったー!!」
この二人の世界神候補は数十万年という時を過ごしてはいるが、神としての権能など振るったこともなければ、《世界》の住人との対話などもしたことがない。無垢な神界でのんびりと過ごしてきただけであり、だからこそ根拠のない自信に満ち溢れていた。そのような状態であれば、自分たちの犯した小さくない間違いに気づくべくもないのは無理からぬことであった。
「「前祝で打ち上げじゃー!!おー!!!」」
『経験』
それが、神(の見習い)ではあっても備えていなかった重要なファクターである。
つまり、二人ともいわゆる『ポンコツ』であった。
まだお見苦しい点が目立つかと思いますが、平にご容赦を・・。