アスールへ
「ところでセラさん、アスールまではどうやっていくんですか?」
先程町で聞いた話では簡単に行ける場所でないように話していたので気になった。
セラさんは少し考える素振りを見せ、
「普通にいけばあの森に入らず迂回するのだが……君たちがいれば森を突っ切ったほうが早そうだな」
「森ってあの森ですか?」
ルミナが俺たちが辛うじて抜けてきた森を指差す。
「そうだが?」
「私達ここに来るときあの森を抜けてきたんですけど」
「あぁ、さっき言っていたな。あの森を東に抜ければアスールに入れるぞ。ちなみに森の中心から北に向かったら此処に着く。南にいけばゼルハイジャンと戦ったという荒野だろうな」
そうだったのか……荒野から森に入ってひたすら真っ直ぐ進んでいたからこの町に着いたんだな。
「えー、じゃあまた森の中を数カ月も歩くのぉ?」
ルミナが不機嫌そうに呟く。
「いや、本来、半月もあれば抜けれるほどの距離だ。きっと君たちは只、道に迷っただけだろう」
えっと……真っ直ぐ進めてなかったってことですね。まぁ、おかげでルミナも強くなれたし、修行と思えば……正直自分が率先して歩いていたので、若干責任も感じつつも、プラスに捉えることにしたのだが。
ルミナの視線が痛いほど伝わってくる。無視することにした。話をそらさねば。
「ち、ちなみに迂回したらどれくらいかかるんです?」
「ニヶ月だな」
「ルクスが迷った日数と同じくらいだね」
ニヤニヤとして、ルミナは俺の方を見ている。話をそらさせてはくれないようだ。
「迷って、無駄な時間を取らせてすいませんでした」
ルミナに向かって頭を下げる。
「まぁ、いい経験値稼ぎになったから全然大丈夫だよ。なんだかんだ言って楽しかったし」
じゃあ適当に流しててくれよと思ったが、これ以上蒸し返されたくもなかったので気持ちを押し殺した。するとセラさんが、
「今回は私がいるから迷うことはないから安心しなさい。それに極力魔物も無視して突き進もう。あまり時間もないことだしな」
「では、先頭はお願いします。周りの魔物は俺とルミナでサポートしますので」
「ふふ、これ以上ない護衛だな。では出発は明日にしよう。今日は町の宿でゆっくりしていってくれ」
「分かりました。では、明日から宜しくお願いします」
そう言って、俺達とセラさんは一旦別れ、学校を後にした。そしてセラさんに勧められた宿に一泊し、次の日の朝を迎えた。
約束の時間になり町の出口に向かうとすでにセラさんが待ってくれていた。
「すいません、なんか待たせてしまったみたいで」
「いやいや、時間通りだから問題ないよ」
セラさんはニコっと笑って左手を俺の前に出す。俺にはその意味が分からず。
「え? なんですか?」
「折角だから手を繋いで行こうじゃないか。さぁ、ルミナさんも」
そう言って、ルミナの前に右手を出す。
セラさんにしては変なことを言うなと思いつつ、俺とルミナは目を合わせ同時にセラさんの手を握る。ひやりとした冷たい手だ。
するとセラさんはニヤリと笑みを浮かべ、ある呪文を唱えた。
『トランスファー』
以前ゼルハイジャンから受けた時のように、目の前の空間が歪み、真っ暗になる。そして、次に目に映ったのはアスールの王都ブランのギルドの前だった。
「よし、無事ついたな」
セラさんがホッとしたように俺達を見ている。
「いやいや、セラさん。こんな魔法使えるなら初めから言ってくださいよ。びっくりしましたよ」
まさかセラさんまでトランスファーの魔法を使えるとは思わなかった。しかも、昨日までは普通に森の中を歩いていくようなことを言っていたのに。
「びっくりしたなら、私の作戦通りだな。まぁ、私の場合は触れてないと一緒に移動できないから手を繋がせてもらったが」
そういいながらクスクスと笑っている。
なにがおかしいのか分からない……セラさんだけはまともな人だと思っていたが意外にグレイブとお似合いだったのかもしれない。
「わ、私にも教えてください!」
突然、目をキラキラと輝かせたルミナが声をあげた。
「教えてというのはトランスファーの魔法をか?」
「そうです! この魔法を覚えたらどこでも一瞬で行きほうだいじゃないですか!」
確かにそれはある。正直、馬車で何日も森を走り続ける生活にはうんざりする。
セラさんはルミナをジッと見ている。
「そうだな。無詠唱魔法を使えるルミナさんなら覚えられるかもしれないが……」
セラさんは言葉に詰まり、一息ついて話しだす。
「未熟なうちにこの魔法を使うと、見知らぬ土地に飛ばされる可能性もある。いや、それならまだいい。飛んだ先が空の上だったり、海の中だってこともある。体がバラバラになった例だってある。だからそうならないように、時間のある時にゆっくり教えてあげるよ」
ゾッとした。ルミナも言葉を失っているようだった。見知らぬ土地ならまだいい。体がバラバラになるなんて、なんて恐ろしい……よくセラさんも使おうと思ったものだ。
「わ、私、もう少し修行してから教えてもらおうかな」
「そうだな! それがいい!」
俺もすぐさま同調した。ルミナの好奇心で二人でバラバラになるなんて想像したくもない。
「じゃあ、とりあえずグレイブのところにいくか。ルクス君とルミナさんが来たと分かればさぞ驚くだろうな」