やりすぎはいけません
俺はドラゴンの群れに向かって飛び出した。ぜルハイジャンは姿は見えないがドラゴン達に守られるように後方に潜んでいるようだ。ルミナも心配だ。時間はかけられない。
ドラゴンはぜルハイジャンを守っているだろう二体を残して、一斉に上空に飛び上がった。見上げると、ドラゴン達は大きく息を吸い込む動作に入った。
「ルミナ、マジックウォールだ!」
「分かってる!」
ルミナの方へ目線を移すと既に三枚もの魔法で作られた美しく輝いたガラスのような壁が作られていた。流石ルミナだ……いつの間に三枚もマジックウォールを張れるように……一流の魔術師でも二枚張るのが限界と言われているのに。未だに凄い勢いで成長しているようだ。
しかし相手はドラゴンだ……しかも一体一体のサイズは小さいものの只のドラゴンではないと言っていたし、数が多い。念のために俺が張れる限界の十枚の内、四枚をルミナの前に重ねて張る。そして俺の前に六枚のマジックウォールを張った……つもりだったが七枚の壁が作られた。合計十一枚……俺も成長しているってことか。
八体のドラゴンは一斉に燃え盛る火球を俺達に向かって吐き出した。三つの火球がルミナへ、残りの五つが俺に向かってきた。そのまま魔法の壁に衝突し、轟音と激しく土煙を巻き上げ視界を塞ぐ。
「ふぉふぉふぉ、呆気なかったのぉ。もう少し遊んでやっても良かったかの」
ぜルハイジャンの勝ち誇る声が聞こえてくる。決着が着いたと思いのこのこと前に出てきたのだろう。
「なに勝手に終わらせてるんだ? 次はこっちの番だろ」
土煙が晴れ、無傷の俺達の姿を見るなり今までの余裕の表情は消え失せて真顔になっていた。
「な、なかなかやるのぉ。マジックウォール如きなら普通耐え切れず、骨すら残らんはずじゃが……無傷とは……何をしたんじゃ?」
「ドラゴンの後ろに隠れてるから見逃すんだよ。単純に七枚ずつ重ねて張っただけだ。四枚は割れたから中々の攻撃だったよ。まぁ、金龍は一体で五枚割ったけどな」
「き、きんりゅうじゃと……あの千年に一度生物界最強の力を持って生まれるという伝説のドラゴン、金龍と戦ったのか!」
金龍という言葉を聞いて、さっきまでの余裕の表情はどこへ行ったのか焦りに満ちている。
えっ……金龍……あいつ伝説のドラゴンだったの? 千年に一度? 確か泡拭いて気絶してたよね……まぁ、まだ若いドラゴンだし此れからなのかな……
「ま、まぁ、たぶんその金龍だと思うよ。とにかく次はこっちの番な。ルミナこっち来て」
ルミナは不思議そうに俺の下へ走って来る。
「どうしたの?」
「俺から離れないで」
そう言って、そっと片手でルミナを抱き寄せる。
この場所ならあれが使える。あれを知ってからずっと使いたくてうずうずしていたのだ。
「砕けし……」
「ふぉぉ、ふぉふぉ、何をするかと思えば、今時、詠唱するとは。笑わかせてくれるわ」
ぜルハイジャンのバカにしたような笑い声が聞こえるが無視して続ける。
「幾億の星達よ、天から舞い落ち……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て。その詠唱はまさか……神域……やめろ、やめるんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
もう遅い!!
「其れを殲滅せよ! メテオフォール!!」
空を見上げると、シャルルが唱えたメテオフォールとは比べものにならないほどの大きさと数の隕石が炎を纏って降り注いできた。
その隕石は次々と飛んでいたドラゴンに直撃し、撃ち落されていった。それでも空から降り続ける隕石は止まることなく轟音と視界を完全に塞いだ土煙を巻き散らせながらドラゴンの叫び声と共に地面に突き刺さっていく。
…………魔法を放って三分は経っただろうか……未だに轟音と土煙は収まらない……完全に視界が塞がっているので状況を把握できないが既にドラゴンの叫び声も聞こえない。しかし隕石が地面に突き刺さる轟音だけが鳴り響いている。
いやいやいや、もういいから。はやく収まってよ! 完全にオーバーキル過ぎるでしょこれ! ルミナもあまりの威力に怯えてしまい、目を瞑って俺の腕をギュッと握りしめている。柔らかい感触が腕に伝わる。もう少し続いてもいいかな……
やがて周囲の音が静かになり、土煙も晴れていった。そしてシャルルが絶対に使うなと言った意味を理解した。
見渡す光景は今まで見ていたものとは全く異なり、草木は一本残らず消え去り、地面には深いクレーターが余すところなくできており、十体ものドラゴンがいたという形跡が一つも残されていなかった。もちろんぜルハイジャンの痕跡も……まっ、いいか。
「ルミナお疲れ様。ちょっとやり過ぎたかな」
既に俺の腕から離れてしまったルミナにそう言うと、無言でいきなりつま先で脛を蹴られた。
「いって。何すんだよ」
ルミナを見ると、頬っぺたをぷくっと膨らませて怒っていた。
「私、何もしてない……今日こそ活躍したかったのに……」
そういえばやる気満々でしたね……
「ご、ごめんなさい……」