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シャルルの魔法

「どうした?」

 

 御者は馬車を止め、焦った顔で前の方に指を差す。指さす方へ視線を移すと、まだ距離があるが、それでも分かるほど大きな土煙を巻き上げながら何かが近づいてくる。目を凝らして見てみると、大量の魔物が群れを成しているのが分かった。大きさ自体は小型のようだが数が尋常ではない。十? 二十? いや前列の魔物だけでなく後ろからもどんどん魔物が現れている。下手したら百体ぐらいいるかもしれない。一体どんな魔物だろうか……1体1体が強ければちょっと面倒だな……


 俺が少しの不安を覚えていると、シャルルが落ち着いたように話し始めた。


「この地域であんな土煙をあげるのはラビットホーンの群れですね。一体なら少し素早いだけでD級でも倒せるくらいだけど、群れで移動することが多いから少し面倒です」


 さすがは元ギルド職員。魔物に関してはシャルルに聞くのが一番だな。ラビットホーンは角の生えた兎のような魔物だ。しかし兎のように可愛いわけではなく、猪程の大きさで、鋭い角で相手を一突きにするらしい。


「じゃあとりあえず俺が倒してこようか? いくらD級でもあの数はルミナでも大変だろう?」


「そうだねぇ。何匹いるか分からないし、ちょっと不安はあるかな」


 普段は自信家で少し無鉄砲なところがあるルミナでさえ、さすがにこの魔物の数にはビビッているようだ。


「じゃあ、俺がやるから二人は少し待ってて」


 そう言って、馬車を降りようとしたら突然シャルルに腕を掴まれた。


「今回は私に任せてもらえますか?」


「え?」


 シャルルがやる? さっき聞いたのが正しければレベルは50くらいだったよな。確かに相手はD級の魔物だから楽に倒せるだろうが、百体はいるかもしれない相手だ。任せるには少し心もとない。ここは止めておこう。確かにシャルルの戦いも見てみたいが、無理はさせられない。


 しかしシャルルは俺の表情から考えを読み取ったのか、


「心配しなくても大丈夫ですって。私は元ギルド職員ですよ。勝算の無い戦いはしませんよ」


 と、不安の欠片もないような笑顔で俺に微笑んだ。


 ここまで言うって事は本当に自信があるのだろう。シャルルの実力も知らないで止めるというのも良くない気がする。しょうがないか……ここは任せてみよう。


「わかった。でも俺もついていくよ。危なくなったら手を貸すから」


「うん、ありがとう。頼りにしてますね」


 俺とシャルルが馬車を降りようとすると、


「ちょっと、私だけのけ者にしないでよ。私もシャルルの魔法が見たいわ」


 と言って、ルミナもついてきた。


 馬車を降りると、土煙はさらに大きくなり、まだ距離は大分あるがラビットホーンの姿も見える様になっていた。


「で、どうやってあれだけ大量の魔物を倒すんだ?」


「もちろん魔法ですよ。私は武器を使うのは苦手だから……でも魔法は少し自信があるんです。見ててください」


 シャルルは目を閉じて、手を合わせた。


 これだけ大量の魔物にどんな魔法を使うんだろうか。少なくともこれだけの数を一人で倒すのなら中級、上級では無理だ。しかし50レベルのシャルルに至高以上の魔法が扱えるのだろうか。


 という俺の疑問に答えるかの如く、詠唱を唱え始めた。


「砕けし幾億の星達よ。天から舞い落ち、其れを殲滅せよ」


 なんだこの詠唱は……俺でも聞いた事がない!


 ただ周囲の空気がピリピリと張りつめ、ただの魔法でない事を容易に感じさせる。


「メテオフォール!」


 シャルルは合わせていた手を前方に差し出して魔法を唱えた。


 やはり聞いた事がない魔法だった。しかし差し出した手からは特に何も起こらない。失敗か? とシャルルの顔を見るが険しい顔を崩さない。すると、ある変化に気づいた。大きな影が現れ、俺達の周囲を暗くする。


 影を作った元凶を探そうと空を見上げると信じられない光景が目に飛び込んできた。流星が魔物の群れに向かって飛んでいく。しかも一つ、二つでなく、大小さまざまな大きさの流星が炎を纏いながら。


 流星が激しい音と共に地面を次々に抉っていき、土煙の嵐が遠く離れた俺達の元まで向かってくる。魔物は成すすべなくただただ流星が自分たちの下に落ちてくるのを待っているだけのようにも見えた。流星が終わりを迎え、土煙が収まった後、そこに残っていたのは大小の穴があき地形の変えられた地面だけだった。


「ふぅ、よかった。無事全部倒せたみたいです」


 あまりの出来事に放心していた俺はシャルルの声により我に返った。ルミナの顔を見る限り恐らく同じ状態だったに違いない。


「な、なに? 今の魔法」


「ふふふ、神域魔法ですよ。今、私が使える最強の魔法です」


 シャルルは自慢するように両手を腰に当てて、身長のわりにふくよかに育った胸を張っていた。


「シャルルすごーい! 神域魔法なんて初めて見た。なんであんな魔法使えるの? 私なんて究極魔法一回使っただけで倒れちゃったのに」


 神域魔法だと……道理で知らないわけか。でもおかしい……シャルルのレベルでは神域魔法なんて使えるわけがない。消費MPだってどれだけ消費するなんて分からない。しかしシャルルの様子を見ても少しも疲れた様子はない。レベルを偽っているのか……なにかスキルがあるのか……


「なんでって……私にもよく分からないんですよ。とりあえず足止めされちゃいましたし、早く行きましょう」


 本人も分かってないのか……まぁいいか。力強い仲間が増えたと思えばうれしい限りだ。


 


 




 





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