いざロッソへ
「まだ、少し早いかな」
「そうね。でもシャルル早く来ているかもしれないし、行ってみましょう」
待ち合わせの正午まで、まだ一時間程あったが特にやることもないのでギルドに向かうことにした。
ギルドに入ると、テーブルに座っているシャルルを見つけた。シャルルの周りには冒険者の男共が群がっていた。
相変わらず人気だな……と思って見ていたがどうやら様子がおかしい。
「シャルル、早いね。まだ一時間も前だよ」
俺達がテーブルに近づき、声をかけると群がっていた男共から強烈な視線を受ける。
ん? 俺、何かしたか? と疑問に思っていると、一人の冒険者が声を荒らげて俺の前に立つ。
「おい、ルクス! シャルルちゃん、お前とパーティー組むからギルド職員辞めるらしいじゃねぇか」
「ちょ、ちょっと止めてください。私は決めたの。これからは冒険者一筋で頑張っていくって! 別にルクスとパーティー組むから辞めるわけじゃないです。冒険者を真剣に続けていく為に辞めるんです」
シャルル、ギルド職員辞めちゃうのか! それは俺も全く聞いてなかった。今までは冒険者とギルド職員の兼業で頑張っていたみたいだが……
「本当に辞めていいのか?」
「はい。別にどうしても続けたい仕事でもなかったですし。色々な冒険者達とクエストのお話するのは楽しかったですけど、やっぱり自分で体験するのが一番だって気づきました」
シャルルの顔は何も悩みがないと言ったほど晴れやかだった。その顔を見ると他の冒険者達も何も言えなくなってしまっていた。
「ルクス!」
声を荒げた冒険者が俺の名を呼ぶ。
「なんだよ」
「シャルルちゃん死なせたりしたら、許さないからな。いや、怪我もさせるな」
「死なせるわけないだろう。危なくなったら俺が全力で守るよ」
「ふん。まぁ、お前の強さだけは信用してるからな。頼んだぞ。これはプラシア冒険者の総意だ」
ギルドにいる冒険者全員が俺をじっと見ている。
「あぁ、任せろ」
みんな、シャルルが心配なんだろうな。確かにシャルルはもはやプラシアの女神だ。その女神をプラシアから引き離すとなれば反感が多いのは当然だ。だからこそ、シャルルが冒険者を引退するその日まで無事に守り抜くことを心で誓った。
「じゃあ、話がまとまったところで行きましょう」
ルミナが俺とシャルルを促す。そうだな……あまり長居するものでもないな。
「あぁ、行こうか」
「はい、行きましょう」
シャルルは最後送り出してくれた冒険者達に笑顔で手を振っていた。冒険者の中には泣き出してしまう者や、呆然としている者もいたが、多くの者はシャルルと同じく笑顔で手を振っていた。
「少し迷惑かけてしまいましたね。ごめんなさい。ところでこれからどうするんですか? 予定は決まってます?」
シャルルはギルドの前で立ち止まり尋ねてきた。
「迷惑とか思ってないよ。これからは、とりあえずロッソへ行こうと思う」
「え? ロッソ?」
驚きに溢れた顔を見せる。俺はシャルルにドラグーン山脈での一件を事細かに説明した。ドラゴンと戦い勝利したこと、ルミナが主になったこと、ドラゴンを拐う者がロッソにいて、その真相を探ること……話すたびにシャルルが普段見せない驚きの表情をするので、少しだけ面白かった。
「あ、相変わらず凄い事をやってのけますね。私、ついていけるか不安になりました。それに同盟国でない他国かぁ……大丈夫かな」
シャルルは不安な感情で、顔を曇らせているように見えた。
「大丈夫だよ。今まで私も危ないって時はあったけど、いつもルクスが助けてくれたから」
「そうそう、大丈夫、大丈夫」
俺は安心させるようにそう言ったが、若干不安もあった。今まではルミナだけをフォローしていればよかった。しかし、フォローする相手が二人になると難易度は格段に上がる。敵となる者の力も未知数だ。しかし、やるしかない。ルミナもかなり成長しているし、まぁ大丈夫だろう。
「どうしたの? ルクス」
俺が考え事をしていると、ルミナが顔を覗かせてきた。
「わぁ、ビックリしたな。大丈夫だよ。じゃあ、ロッソに行く準備をして出発しよう」
「これくらいで驚いて。任せられるか心配よ」
「いや、あまりにも可愛い顔だったからな」
驚いてしまったことにすこーしだけ悔しくなったので、ルミナが恥ずかしがることで反撃した。
「へ、変なこと言うの止めてよ。シャルルもいるのに」
あっ、シャルルがいるの忘れてた。しかしルミナは予想外の反撃を受けたのか顔を真っ赤にしていた。攻撃成功だな。
「いいんですよ。そういうの見ると私も幸せな気分になるので。でも私も彼氏作りたくなったなぁ。頑張ろうっと」
シャルルの彼氏かぁ……確かに今のパーティーは変なバランスだよな。もしシャルルに彼氏ができて、冒険者ならパーティーに入れてもいいかもしれない。変な奴じゃないといいけど。
次回予告!シャルルのレベルはいくつ?
です。お楽しみに。




