ルミナの優しさ
俺とルミナはテントの中で寝る準備をしていた。広いテントを買った為、さまざまな物が置けるようになった。特にベッドは助かる。野宿でも快適に眠ることができる。ただ設置するのに広い場所を必要とするので、森の中や山では探すのが一苦労なのだ。
ルミナは終始無言でテントの中にベッドやテーブルを並べている。特に不機嫌というわけではなさそうだが。何か考え事をしているのだろうか。
ルミナは準備を終えたのか、テーブルにお茶を2つ置いて椅子に腰かけた。俺が「ありがとう」と声をかけ、椅子に座る。ルミナもお茶をすすりながら「うん」とだけ返事をする。やっぱり変だ。なにか悩みでもあるのだかろうか。
「ねぇ、ルミナ」「ねぇ、ルクス」
俺とルミナは全くの同時にお互いを呼びあってしまった。
「ふふっ」
ルミナは堪えきれず笑ってしまったようだ。俺もつられて笑ってしまう。やがて落ち着くとルミナが明るく話しかけてきた。
「で、どうしたのルクス」
「いや、ルミナの様子がいつもと違ったような気がしたからどうしたのかなって。ルミナは何を言おうとしたの?」
「うーん、ちょっと考え事してたから、それをルクスに話そうかなって」
「やっぱりね。怒ったときはすぐ手が出るから、悩みの方かなって思ったんだよ」
ルミナはムッっとして、俺の目を見る。
「手が出るとか言わないでよ。あれはルクスが変なことしたり、言ったりするからでしょ。普段は優しい女性ですよ」
「はいはい、俺が悪かったです。で、何を考えてたの?」
「もう、ルクスのせいで話しづらくなったじゃない」
そう言うとお茶を一口すすり、フーと息を吐いて話始めた。
「私はシャルルさんなら大丈夫だよ」
俺はルミナが何を言っているのか分からなかった。何が大丈夫なのだろうか。
「え?なんのはなし?」
「もしかして、ルクスは気付いてないの?」
ルミナは驚いたように言ってくる。ん?俺が何に気づいてないというんだ……さっぱりわからない……
俺がお茶を飲みながら考えていると、ルミナはハァとため息をつく。
「シャルルさんは、ルクスの事が好きなんだと思う」
ぶっふぁぁぁーーー
驚きのあまりに、飲んでいたお茶を吹き出してしまい。ルミナの顔に直撃してしまった。
「ご、ごめん。ルミナ」
ルミナは目を閉じて、プルプルしながら無言でハンカチを取りだし顔を拭いている。
「大丈夫、大丈夫。怒ってないし、こんなんじゃ手を出さないわよ」
さっき言われたことを気にしてるのだろうか。絶対怒ってるのに我慢しているのがバレバレだ。それにしても、今ルミナはシャルルちゃんが俺のことを好きとか言ったのか。いやいや、さすがにそれはないよ。
「いや、ほんとごめん。でもルミナが急に変なこと言うから」
「変な事じゃないわよ。ほんとに気づいてないの?ルクスって鈍感なのね。私と付き合う時も私の気持ち分かってなかったみたいだし」
たしかにあの頃はルミナの気持ちが分からず、なかなか告白できずにいた。ルミナも俺の事をずっと好きでいてくれたなんて思いもしなかったし。まさかシャルルちゃんも?いや、でも俺にはルミナがいるじゃないか。
「仮にルミナの言う通りでも、俺にはルミナがいるじゃないか。そんなこと言われても困るよ」
「うん、勿論私もルクスと一緒にいたいよ。けどシャルルさんはきっと私がルクスと出会う前から、ルクスのこと好きだったと思うよ。シャルルさんを見てればわかるよ。それなのに後からきた私がルクスをシャルルさんから奪っちゃった。それに私もルクスをずっと独り占めできないかなって思ってたんだ。ルクスは優しくて格好いいし、年齢よりもずっと大人だし、とても強いから周りの女の子がほっとかないだろうなって。ルクスはシャルルさんのことはどう思ってるの?」
「いや、急にそんなこと言われても……確かに可愛いし、見た目の割にしっかりしてて、優しいし、とてもいい人だと思うけど。そんな目で見たことないから、よく分からないかな」
「そっか。でも最初に言った通り私はシャルルさんなら大丈夫だよ。きっと楽しくできると思う。もしシャルルさんと付き合うことになっても二人共ちゃんと大事にしてよ。ランカーになっててよかったね」
あっ、ランカーになったら一夫多妻制が認められるってグレイブが言ってたっけ。この世界では1人の男女が複数の相手と付き合うということはよくある話だ。もちろん相手が許せばだが。しかし、結婚するときはその中から1人を選ばなくてはならない。しかし、ランカーは別だ。けどグレイブみたいな人生は嫌だな……今も1人寂しくあのテープで補修された部屋にいるんだろうな。
「まぁ、私の勘違いってこともあるから。もしかしたらシャルルさんのパーティーにいい人がいるかもしれないしね」
それを聞いた時、胸のあたりにチクリと刺さるものを感じた……
「じゃあそろそろ寝ましょうか。明日はプラシアに帰るから早く起きなきゃだしね」
ルミナは少しの曇りもなく笑っていた。
「そうだね。ねぇ、ルミナ?」
「ん?なに?」
「俺はルミナが大好きだから」
「うん、わかってる。私もだよ」
ルミナはこれ以上ないという笑顔だった。




