クエスト失敗!?
プラシアについた次の日の朝、俺とルミナは久しぶりにシャルルちゃんに会うためギルドへ行った。
1ヶ月前までは毎日見ていた町並みが妙に懐かしく感じる。最近色々あったからな。ケルベロスを倒したり、妙な技を使う他国の冒険者や、ドラゴンと戦ったり、ランカーになったりと忙しい毎日だった……
プラシアの町はブランのように人で溢れ、賑やかではなく、落ち着いた朝といった感じだった。やっぱり俺にはこの町が合うな。
しかし、ギルドに入ると冒険者達が慌てるようにザワザワと騒いでいた。何かあったのだろうか。
「ねぇ、ルクス。何があったのかな?ただ事じゃない感じだけど」
三年近く、毎日のように通ったギルドだ。ルミナもいつもと違うギルドの雰囲気に戸惑っているようだ。
「ちょっと、待ってて。聞いてくるから」
俺は近くにいた顔馴染みの冒険者Aに尋ねた。まだ10代後半の若い冒険者だ。名前?忘れちゃった。
「なぁ、何かあったのか?」
冒険者Aは俺の顔を見ると、少し驚いた顔をしていた。
「おぉ、迅雷じゃないかぁ。久しぶりだな。王都へ行ったんじゃなかったのか?あっ疾風ちゃんもいるじゃん。久しぶりー」
冒険者Aはルミナを見つけると、笑顔で手を振っていた。ルミナも答えるように小さく胸元で手を振っていた。
それにしても迅雷って呼ばれるの久しぶりだな。妙に恥ずかしい。でも疾風ちゃんって響きはなんか可愛いな。今度呼んでみよう。
「あぁ、王都も今は落ち着いてるからな。で、何かあったの?」
再び俺はこの騒ぎの理由を尋ねる。
「ん?なんだその腕輪。格好いいじゃないか。Ⅳって書いてあるのか?何か意味あるの?」
こいつも腕輪のこと知らないのか。っていうか、今までこの腕輪のことを知ってる冒険者に出会ったことがない。本当にランカーってすごいのか?まぁ、俺としては助かっているのだが。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。この冒険者Aの問題だ!さっきから俺が質問してるのに、別の質問で返してくる。わざとなのか?自己チューってやつなのか?
「腕輪はブランで買ったんだよ。それよりもこの騒ぎは何なんだ?」
諦めずに再び尋ねるが、冒険者Aは意味ありげにニヤッと笑い答える
「いやー、それにしてもルミナちゃんは相変わらず可愛いなぁ。一緒に冒険できるお前が羨ましいよ」
うん、わざとだね。俺の中で何かがキレた。気づいたら首もとの襟を捻り上げ、冒険者Aを激しく前後に揺らした。
「俺は何があったのか聞いてるんだよぉぉぉー」
冒険者Aは激しく頭を振られて気持ち悪くなったのか、壁にもたれて座っている。俺は前に立ち、睨み付けるようにして見下している。
「ごめんって。そんな怒るなよ。冗談じゃないか」
お前の冗談は敵を増やすぞと、まじめに説教してやりたくなった。
「ラストチャンスだ……何があったんだ?」
冗談といっても表情を変えない俺に怯んだのかヘラヘラした顔を止めて真面目に話はじめた。
「シャルルちゃんがクエストに行ったまま帰ってこないんだよ」
えっ?シャルルちゃんがクエスト?
「なんでギルド職員のシャルルちゃんがクエストに行くんだよ」
「あぁ、お前らは知らなかっただろうけど、シャルルちゃんは以前からギルド職員をしながら、冒険者登録をしてコツコツとクエストをやっていたんだよ。お前らにバレないようにな」
本当なのか……またこいつの冗談じゃないのか。冒険者Aの顔を見るが全く表情を変えないまま真っ直ぐ俺を見ている。
「なんでそんなことを……」
「さぁな。プラシアの冒険者はみんなシャルルちゃんの味方だからな。お前らに内緒にしてほしいと言われたらみんな黙って頷いたよ」
なんで俺らには内緒なんだ……言ってくれたら手伝うことだってできたのに……いや、それよりも今はシャルルちゃんが帰ってきてないことが問題だ。
「シャルルちゃんが受けたクエストって何だ?」
「たしかB級クエストのはずだ。今まではずっとC級のクエストを受けていたんだけど、昇格するためにパーティーを組んで3日前にフォールズの森に向かったようだ。キングライオンという魔物が出たらしい。そろそろ戻ってきてもいい頃だからみんな心配してるのさ。まぁまだそんな心配するほど遅くはないんだけどな」
フォールズの森は緑や水が豊かで多くの動物や植物が生息する森だ。特に奥地にある巨大な滝は観光名所として有名だ。ブラシアの町から馬車で1日もかからない場所にある。
それにしてもキングライオンか……名前の通り、見た目はライオンなのだが只のライオンと比べると、体の大きさは約3倍。パワーやスピードも桁がいくつも違う。獰猛で肉食の魔物なので放っておけば、森の全ての動物を食らいつくしてしまうだろう。観光地としても終わってしまう。
寒気がした……まさかクエストに失敗してキングライオンに……いや、森は広い。見つけるのに時間がかかっているだけだろう。きっとそうだ。
気づいたら俺はルミナの方へ向かっていた。ルミナは暇をもて余してか、掲示板のクエストを眺めていたが、歩いてくる俺に気づいたようで先に話しかけてきた。
「何かわかった?」
「シャルルちゃんがクエストから戻ってこないらしい」
「え?シャルルさんがクエスト?なんで?」
俺と同じようにルミナも驚いていた。
「詳しくは後で説明するから、とりあえず馬車を借りよう。シャルルちゃんを助けにいくよ」
「う、うん。わかった」
俺達はろくな準備もしないままプラシアを出発した。