真実はどこに!?
「いやー、食った食った。おいしかったよ、ルミナさん。俺のお嫁さんにならないか」
グレイブさんが少し大きくなったお腹をさすりながら笑えない冗談を言っている。うちのルミナを三番目の嫁になんてさせませんよ。いや、まだグレイブさんの結婚歴が二回と決まったわけでもない……もしかしたら三人、四人目の奥さんが後から出てくるかもしれない。
「えー、私グレイブさんはなんか嫌だなー。あんまり年上には興味ないので」
「そうだよね……もうお父さんぐらいな年だもんね……」
グレイブさんの冗談に、ルミナがまじめに答えてしまい少し落ち込んでしまっているようだ
というか今はグレイブさんの嫁探しなんてどうでもいいんだ。早く事の真相を話してもらわないと。どうせろくでもないことなんだろうけど。
「ではグレイブさん、食事も終わったことだし話してもらいますよ」
「えっ?何を?」
このおやじは!!最近グレイブさんとよく一緒にいるので、性格というか気質というものが少しずつ分かってきた気がする。あまりろくなおやじじゃないな。
「いい加減にしてくださいね。もう付き合いきれませんよ」
イライラが積もり俺はいつもより低いトーンで話した。グレイブさんもさすがに察したのかまじめに話し出した。
「いや、実は昨日の食堂事件のようにルクス君がランカーとして恥をかかないように情報屋に頼んだんだ。ルクス君の記事を書いてもらって町の人達に伝えるように」
グレイブさんはそういうと、自分の机から一枚の紙を取り出し、俺の前に置いた。
そこ書かれていたものは……
元アスール国ランカー、セラ=シンクレア敗れる!!
倒したのは若干15歳のA級冒険者!!
なんと素手で腹パン一発決着!!
見た目は子供だが、実力は化物!!
その名は、ルクス!!!
ルクスを知る人物に話を聞きました!
町人Aの声:俺はステーキ屋でゴキブリを見たから、店員さんに少し文句を言ってしまったんだ。そしたら食事中だったルクス様が来て、「うるさい、だまれ、ぐだぐた言うな、殺すぞ」と言うような目で恫喝してきたんです。たぶん可愛い店員さんを守って格好つけたかったんでしょうが、俺は震えが止まりませんでした。今でもあの目を思い出すと外にもでられません。
町人Bの声:私は知らなかっただけなんです。まさかあの腕輪がランカー様を表す物だったなんて。ルクス様が大量のお食事を頼まれたのでお代を請求すると、大層お怒りになって職員全員と、近くにいた冒険者達に土下座を求めたのです。ギルドマスターの部屋の扉を見て下さい……あれはその時ルクス様の怒りで蹴り破られたものなのです。
と、いうものだった。
記事の横には俺の似顔絵も書いてあった。激似だ。不幸にも俺は赤き竜がギルドで暴れたときに多少この町で有名になってしまった……少なくともこの絵でルクスという人物が俺のことだと皆想像できるだろう。
しかし、書いてある内容がひどい!化物って……それに町人の声!!たしかに書いてあることは、大きく見れば事実としてあっているかもしれない。けど俺はそんなつもりではなかったのだ。誤解が多い。可愛い店員さんにアピールしたわけでもないし、土下座を求めたわけでもない。
俺が記事を見て落ち込んでいると、グレイブさんとルミナが口を開いた。
「それにしてもすぐに情報が広まったな。さすがこの国一の情報屋だ。仕事が早い」
「うわぁ、この絵上手だね。書いた人だれだろう。私も書いてもらいたいなぁ」
こいつら何言ってるんだ。人が落ち込んでるのにその仕事に感心するなんて……
「いくぞ!!」
俺はソファーから立ち上がり叫んだ。
「「え?」」
「その情報屋の所に行って新しい記事書いてもらう!!」
俺達はグレイブさんに案内してもらい、三人で情報屋へ向かうことになった。
「無理ですね」
情報屋の男が出した答えはまさかのNOだった。
「なぜですか。ちゃんと真実を書いてくださいと言ってるんです」
情報屋の男は深いため息をはく。
「私はちゃんと取材して、ありのままを記事にしてるんですよ。嘘は何も書いてないです。それに昨日の今日で違う記事出したら私達の信用問題にもなりますしね。話は終わりです、仕事の邪魔になるんで帰ってください」
シッシッという手振りで俺達を追い払おうとする。こいつほんとにむかつくな。俺はつい怒りのままに睨んでしまった。
「おぉ、やはり恐ろしい。あながち町の人の言うことも間違ってないようだ。手を出すならどうぞ?冒険者が罪も犯してない只の一般人の私に手を出せるものならね」
くっ、さすが情報屋だ……むかつくが口では敵いそうにない。たしかにこのまま怒りに任せて行動しても意味はない。よし、攻めかたを変えよう。これしかない。俺は一度深呼吸して、情報屋の目を見て話しかける。
「いくらだ……」
体がピクッと動くのを俺は見逃さなかった。
「いくら払えば、新しい記事を書いてくれる」
情報屋が、敵視する目から好意を向けたにこやかな表情を浮かべる。
「なるほど、商売の話でしたか。はじめからそう言ってくださればよかったのに。あなたも人が悪い」
「いやいや、そちらが挑発してくるからね。まぁお互い勘違いだったということで、話を続けましょう」
ルミナが反対しないかなと不安になり後ろを振り返ると、グレイブさんと共に空いてあるテーブルで楽しそうにカードゲームをしていた。この二人まじでくっついたりしないだろうな……まぁグレイブさんはともかく、ルミナは大丈夫だろう。それより、今はこっちが優先だ。再び情報屋を見る。
「で、いくらだ?」
「100……でどうですか?」
「いいだろう」
正直100万は痛い……しかし、人の噂とは恐ろしいものだ。尾びれをつけて、どんどん拡散する。この町を出てもいづれ、国中に悪い噂が広がるだろう。それだけは本気で嫌だった。俺はボックスから100万ピアを取り出し、男に渡す。
「交渉成立ですね。明日を楽しみにしててください」
情報屋は手を伸ばして握手を求めてきたので、それに応じた。この100万いつかグレイブさんに払わせてやる。