ランカーに挑む
「彼女は強いのか?」
ルミナに挑戦を受けたセラさんは無表情のままグレイブに尋ねた。
「あぁ、強いぞ。おそらくクレアより上だろう」
それを聞いたセラさんはフフと少し笑ったような気がした。その笑い方はなんだか怖かった……もっと愛想がよければ相当モテるだろうに。これでは近寄りがたい。
「そうか。では今からやるか?」
「はい、是非お願いします」
ルミナはやる気満々なようだ。
そんなにランカーになりたいのか?でもルミナなら勝てる可能性はあるかもしれない。実際グレイブさんやセラさんのようなランカーの戦いというものを見たことはないが、クレアはすでに三桁のレベルだ。今までの世界では三桁越えた人間は数人しかみたことがないし150を越えるレベルになると見たことがない。少なくとも一方的に負けることは考えにくい。
「グレイブ、闘技場の準備だ。誰にも知らせるなよ。騒ぎになると面倒だ」
「はいはい。見せ物にしたら金になるのにな……」
グレイブさんは面倒くさそうに頭を掻いていた。
闘技場にルミナとセラさんが向かい合う。観客は俺とグレイブさんだけだ。ルミナは珍しく緊張しているようだ。いや、セラさんが放つ空気が凍りついていくような威圧感に圧倒されつつあるのか。
セラさんはゆっくり腰に下げていた剣を抜く。その剣の刀身は異様に細かった。剣で受けると軽く折れてしまうのではないかと感じるくらいだ。しかし、この戦いは真剣でやるのか。危なくないか?
「あの……セラさん真剣でやるんですか?」
「当たり前だ。私はランカーを掛けて戦うのだ。命をかけた戦いになるのは当然だろう。ルミナさんもその覚悟があって挑んだのであろう?」
ルミナは真剣な顔で頷き、背中に差した【白刀 雪華】を抜いて構える。
やばい、俺の考えが甘かった。まさかこんな展開になるなんて。勝手にセラさんは腕試しをしたいものだと考えていた。止めないと、間違ってもルミナを死なせるわけにはいかない。
「ルミナ、」
俺の考えが読めたのか止めようとした俺の言葉を遮ってルミナが口を開く。
「ルクス、止めないでね。大丈夫だよ。私はこんな所で死んだりしないから」
こんなルミナは見たことがなかった。
「で、でも」
それでも止めようとする俺の肩をグレイブさんが掴む。
「ルクス君、大丈夫だから。戦いを見守ろう」
グレイブさんまで……なにが大丈夫なんだ……真剣で戦うんだ。切られたら死んでしまうかもしれない。たしかにルミナのレベルは高い。防御力も普通では切りつけてもダメージが通らないくらい高い。しかし、相手は実力未知数のランカーだ。まともに受けるとただではすまないだろう。
いざとなったら、なりふり構わず止めよう。あとでルミナに嫌われても死なれるよりはましだ。俺がそう決心した時、グレイブさんの開始の合図により戦いは始まった。
ルミナが先に仕掛けた。セラさんとの距離を一気に詰めて切りかかる。常人なら全く反応できないであろうスピードにセラさんは余裕を持って片手で持った剣で受け火花が散る。
しかし、ルミナは止まらない。次々に高速の斬撃をセラさんに向け浴びせていくが、その全てを後退しながらも剣で受ける。剣と剣がぶつかり合う金属音が静寂の闘技場を埋め尽くす。
ルミナが押してる。このままいけるんじゃないか……俺がそう思った瞬間、ルミナが上段から振り抜いた剣がセラさんの剣をはじく。辛うじて手から剣は離さなかったようだがチャンスだ。ルミナもこの好機を逃すまいと振り抜いた剣を返して下段から切りつけるが、セラさんは身を捻り辛うじて避けると、大きく後ろに飛んで距離をとる。
ルミナも打ち疲れたのか追うことはしなかったが、セラさんの頬からは血が少し流れていた。
「ほう、私に傷を負わすとは……血を流したのはいつぶりだろうな」
流れた血を指で拭い、舌を出して嘗めている。
「すいません、女性の顔に傷をつけてしまって」
「気にするな。問題ない」
その時、不思議なことが起こった。セラさんが顔の傷に手を当て何かを呟いたと思ったら頬が光輝き、手を離すと傷がすっかり消えていた。
傷が塞がった……なんだ今のは……まさか回復魔法……そんなの本の物語の中でしか聞いたことがない。
ルミナも目の前で起こったことが信じられず、開いた口が塞がらないといった感じだ。
「では今度は私からいくぞ」
俺達が動揺を隠せないまま、セラさんは魔法を唱えた。
「シャイニングボルト」
激しい光が轟音と共に襲う。しかしそれはルミナには向かわずセラさんの剣に吸い込まれていくようだった。その剣は金色に輝きバチバチと音を立てている。
シャイニングボルト!?雷系魔法の至高魔法だ。だが今は詠唱などしていないよう見えた。一体どうやって使ったんだ……それにあの剣……以前クレアさんがキース相手に使った技に似ている。しかしその時とは比べ物にならないくらい激しく輝いている。
セラさんは剣を鞘に納める。
「天心天命流、雷鳴一閃!!」
やばい、やはり以前クレアさんが使った技と同じだ。鞘から振り抜いた剣から飛び出した金色の斬撃がルミナを襲う。
「避けろ、ルミナーー」
俺が必死で叫ぶが、その斬撃のスピードはルミナに回避という選択を許さず、雪華で受け止めた。しかし、斬撃を受けた瞬間ルミナの体を激しい光が襲った。
「キャーーーーー」
とルミナの叫び声が闘技場内に響き、ルミナは両膝を地面につきその場に倒れた。
俺はルミナの元に駆け寄るが、ルミナを抱きかかえる。辛うじて生きているといった感じだった。このままじゃやばい、何とかしないと!
「ほう、まさか斬撃を止められるとはな。なかなか名刀のようだ。それに強かった……これで15歳……末恐ろしいものだな」
セラさんはそう言って剣を鞘に納める。
そうだ、さっきセラさんが使った回復魔法を使えばルミナも完全とはいかないまでも、ある程度回復させることができるんじゃないか?
「セラさん、回復魔法使えるんでしょ。ルミナを治してあげてください」
必死でお願いすると、セラさんはニヤリと笑った。
「無理だな。この娘はこのまま死ぬだろう。残念だったな」
「なっ!!」
俺はセラさんが何を言ってるのか理解できなかった。グレイブさんの方を見ても、特に助けてくれる気配がない。なんでだ……
「どうしても助けて欲しければ、私を倒して命令することだな」
セラさんが突然そんなことをいいだして、剣を抜き俺に突き出している。
ルミナをそっと地面に寝かせ、立ち上がる。
「わかりました。ただ手加減はできません。一瞬で終わらせます」
俺の放つ殺気に圧され、セラさんの頬に一粒の汗が流れた。
「なかなかでかい口を叩く。おもしろい」
「シャイニングボルト」
セラさんは今度は剣ではなく、直接俺に向かって魔法を放った。
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