気合いだ
他の参加者を見ると、老人が二皿、メガネが三皿食べ終えたところでフォークが止まっている。この二人は辛いものは食べれるが、大食いはできないようだ。ルミナはというとすでに五皿を完食している。残り時間は五分。もう決着はついただろう。
俺?俺はというと全く進んでなかった。このままでは500万ピアの罰金が発生してしまう。そもそもなんで500万も罰金を払わなきゃならないんだ。もしかして罰金を賞金にあてるんじゃないだろうな。
文句を言っても仕方がない。なんとかして後五分で一皿食べ終わらないと。俺と赤い料理のにらみ合いが続く。やはり気合いで食べるしかない。こんなので500万も払えるか。
覚悟を決めて、フォークで料理を刺して口の中へ運ぶ。辛さを感じる前にどんどん口に入れていく。しかし300グラムもある料理を一気に口に入れれる訳がなく半分を残して手が止まる。同時に強烈な刺激が襲ってくる。汗が全身から溢れてくるのがわかる。
「ルクス…大丈夫?」
俺の様子を見て、ルミナも心配しているようだ。俺は話すことができず、首を縦に振る。俺の精神力を舐めるなよ、このクソ料理。これぐらいの窮地今まで何度も乗り切ってきたはずだ。俺はやれる!!
そう自分に言い聞かせて、残りの半分を食べきった。
「やった…やったぞ」
食べ終わった安心感からか、俺は意識が離れていくのを感じた…
目覚めるとルミナの顔が目の前にあった。頭に柔らかい感触がある。驚いて起き上がる。どうやらベンチに寝かされてルミナが膝枕してくれていたようだ。もう少し味わっとけばよかったな…
「あっ、起きた。ルクス大丈夫?いきなりテーブルに頭打ち付けて気絶しちゃうからビックリしたよ」
そうか。料理を食べ終わって、あのぽっちゃり男性のように気絶したのか…恥ずかしい…それにしてもまだ口の中がおかしい…
「ごめん、迷惑かけたね。結果はどうだった?」
俺がズキズキする額を擦りながら言うと、ルミナはニコッと笑う。
「もちろん優勝したよー。みんな全然食べないんだもん、拍子抜けだよ」
受け取った帯のついた札束を三つ、目の前で広げてみせた。
「おっ、おい、こんなところで大金見せるなよ。危ないよ」
「もう、心配性ね。私達からお金盗める人なんてそうそういないわよ」
まぁ確かにそうだが。ルミナより強い人はまだまだいるだろうが、そのレベルになれば300万なんて金は狙わないだろうし。
「でもルミナ、なんでお金が欲しかったんだ?なんか欲しいものがあるの?」
「えっ!?」
「いや言いたくなかったら大丈夫だけど」
「えっと、貯金しようかなって。前にルクス600万あるって言ってたから…この300万あれば追い付けるかなって。自分の食費は自分で稼がないとね」
少し恥ずかしそうに笑っている。
なんだそんなことか。お金なんて全然気にしなくていいのに。
「ルミナ、いっそのことお金は二人で合わせて管理していく?同棲してるんだし、そっちの方が貯金とか気にしなくていいだろ」
「うーん、大丈夫。私がんばるから。気にしないで」
意外だった。喜んでくれると思ったのに。
「それに将来もし結婚したら一緒になるんだから、好きなようにお金使えるの今だけだよ」
「けっ、けっこん!?」
「ばっ、ばか。そんな大声で言わないでよ。はずかしい」
ルミナがそこまで考えてくれているなんて…正直嬉しかった。結婚かぁ…子供とかできるのかなぁ…女の子がいいなぁ…妄想が止まらない。
「もうルクス、なんかニヤニヤして気持ち悪いよ」
どうやら妄想が顔から溢れでていたようだ。
「あっ、ごめん」
ルミナの気持ち悪いという言葉は破壊力がある。精神的ダメージを大きく受けた。しょうがないじゃん、ルミナが結婚とかいうから。
「さっ休憩もいっぱいしたことだし、最後にデザートでも食べにいきましょうか」
「まだ食べるの?」
もう並ばないでいいように大会にも出たのに。あんな辛いもの頑張って食べたのに。まだ並ぶというのか!
「しょうがないじゃない。辛いもの食べた後は甘いもの食べたくなるでしょ」
そんなものなのか。でも確かに俺も口の中が何か変だから甘いものは食べたいかもしれない。俺達はそれから更に60分並んで甘いアイスクリームを食べ、家に帰った。今日はほんと疲れた…