ブラン祭
「色々とお世話になりました。ではほんとに本気で絶対に帰ります。また会いましょう。みんな仲良くしてくださいね」
俺は昨日からの呪縛からやっと解放された。ドラゴン達は名残惜しそうにしているが、さすがにこれ以上時間を無駄にしたくない。最後に二人で深々と礼をして、ドラグーン山脈を後にした。
そして特に問題なくブランへ帰ってくることができたのだか、町の入口で異変に気付いた。
あれ?なんか町が騒々しいな…それに人が多い。そもそもブランは王都だけあって人口も多い。しかし今日のその人の多さは尋常ではない。町の大通りは人で埋め尽くされていた。
「あっ、なんか前に宿を借りようとした時に、年に一回のブランのお祭りがあるっていってなかった?」
ルミナがはぐれないように俺の袖を掴みながら聞いてきた。
袖を掴むぐらいなら手を繋げばいいのに…まぁ人前は恥ずかしいらしいから無理は言うまい。しかし祭りかぁ…この世界では初めてだな。プラシアでは無かったし。
「確かに言ってたね。ルミナは祭りは初めて?」
「そうだよ、サンドラにはなかったからね。ルクスは何度もあるよね。なんせ100回目だからね」
ルミナは俺の転生のことを明るく話してくる。こういう所は正直助かる。
「あるけど、あんまり印象に残ってるのはないなー」
なんせ両親とぐらいしか行ったことないからね!何度も言うようだか俺は今まで全くモテなかったからねっ!!
「えー意外だなー。じゃあ今日は私といっぱい思い出つくろっ」
そう言ったルミナの顔は笑顔で溢れていて、ものすごく可愛かった。
「そうだな、今日は楽しもう。でも祭って言っても何があってるんだろうな」
「人が多いだけで何もわかんないね。あっ、あそこで何か配ってるよ?」
そこでは以前俺達が初めてブランに来たときにお世話になった、
【ブランの町ガイドブック~これ一冊でブランの町は丸裸~】
を配っていた男性がいた。観光客らしき人達が紙を受け取っている。手にしている紙には、
【ブラン祭ガイドブック~これ一冊でブラン祭が素っ裸~】
と書いてあった。名前のセンスが相変わらずだ。丸裸も素っ裸も一緒じゃないか!
俺達もそのガイドブックを受け取り、中身を見てみる。ふむふむ、内容はしっかりしてるな。この先の広場で色々イベントがあってるみたいだな。屋台なども数多く並んでいるようだ。
「とりあえずこの先の広場に行ってみる?屋台とかも色々あるみたいだよ」
俺が提案すると、屋台という言葉に反応したルミナが、
「行く行くー。今日は甘いものが食べたいなー。あっ早くいかなきゃ無くなっちゃうかも。急ごっ」
と言って俺の袖を引っ張って広場へ向かった。
広場に着くとさらに多くの人々で溢れかえっていた。たしかに様々な種類の屋台があるのだが、どの店も長蛇の列を作っている。最後尾に立っている人のプラカードには短い店でも30分待ち、長い店だと90分待ちと書いてある。みんなよくこんな中並ぶよなー。
「うーーーーーー」
ルミナも並ぶか諦めるか悩んでいるようだ。さすがにルミナと言えどもこの待ち時間は悩むらしい。
「ルクス、あれに決めた!!早くいくよっ」
「えっ!?」
ルミナは並ぶかどうかを悩んでいたわけではなかった。どのお店に並ぶか悩んでいたのだ…ルミナには食べ物を目の前にして諦めるという言葉はなかった…
俺はその店のプラカードを見る。35分と書いてあった。ふう、助かった…周りを見ると60分やら70分と書かれたものが多いので早いほうだ。たすかった…
しかし甘かった!俺達が最後尾に並ぶと同時にプラカードを持っていた男がペンを取り出す!!
まっまさか!?
その男はペンのギャップをはずし、プラカードに何か書きはじめた。
やめろ、やめてくれー
再びプラカードを掲げたとき、そこには大きく60という文字が書かれていた…
こんなの詐欺だ…
「あーあ、しょうがないねー。美味しいものを食べる為には多少の我慢も必要なのです」
「がんばるよ…ところでここは何のお店になんだ?」
「えっ?たこ焼きって書いてあったよ。私食べたことなくて。楽しみだなー」
えったこ焼き?たこ焼きって小麦粉の生地に野菜とタコを細かくして入れて、丸く焼き上げる食べ物だよね…甘いもの食べるって言ってなかった?むしろたこ焼きぐらいなら俺でも作れるのに…わざわざ60分も…
ルミナを見るとニコニコしながら待っている。まぁルミナがいいなら俺も一緒に待とう。こうゆうのに並ぶのも祭の醍醐味だろうしな。
意外にも順番は早く回ってきた。早く感じたというか、ルミナと一緒に並んで色々と話しているとあっという間だった。
「わぁーいい香り」
屋台には様々な種類のたこ焼きがあった。ソース、ダシ、ネギ、チーズ、塩、明太子の六種類が並んであった。確かに食欲をそそる。
「おっ可愛い彼女さんだねぇ、彼氏も格好いいし、お似合いカップルだ。どれにするかい?二、三個買っていってよ」
屋台のおじさんがそんなことを言ってくる。いやー商売上手だ。お世辞だと分かっていても多目に買っちゃうよね。
「じゃあ、俺はソースとダシにしようかな」
たこ焼きは一つにつき六個ずつ入っていた。二つ買えば普通は十分だ。普通はね…
「じゃあ私は…全種類ちょうだい」
「え?もう一度おしえて」
「全種類よ。全部おいしそうだもの」
このやり取りにも慣れてきたな。ルミナが食べ物を頼むときは必ずお店の人は聞き返すのだ。今回は六個入りが六種類だから三十六個か…ルミナにしては足りなそうだが…もしかしてまた別の所に並ぶ気なのか…それだけはなんとか阻止しなければ!




