スキルおしえて
「そろそろ行くぞ」
「ちょっと待ってよ。女の子はいろいろ準備があるんだから」
俺たちは朝食をとった後、グレイブさんに教えてもらったスキルを見ることができるという人物がいるという場所へ向かった。
「いやぁ、どんなスキルがあるか楽しみだな」
「えー、私は何もないかもよ」
「いや、ルミナも絶対あるはずだよ。普通あんなにレベルが上がる訳ないから」
「そうなんだ。基準がよくわからないなぁ」
俺は一レベルを上げる為の必要な努力を知っている。たった一レベル上げる為に同じ魔物を何度も何度も倒すのだ。その魔物でレベルが上がりにくくなったらまた別の土地に行き、より強い魔物を何度も何度も何度も繰り返し倒す。レベル上げとは辛く時間がかかるものなのだ。これまではそうやって、俺もレベルを上げてきた。
しかも何故か前世までの俺は人よりかなりレベルが上がりにくかった気がする。毎回必死でレベル上げをしてきた。今回の転生は俺もレベルが上がりやすいのでほんと助かっている。今までは悪いスキルでも付いていたのだろうか……
「しかし遠いな。王都は広いから移動も大変だよ」
スキルを見ることができる人物の家はブランの町の隅の方にあるのだ。同じ町の中でも歩きだと一時間程かかるようだ。
「文句ばっかり言わないの。楽しみなんでしょ。だったらこれぐらい我慢しなきゃ」
「はい、はい。でも馬車とかあるから使えばよかったな」
「新しい生活でかなりお金使っちゃったから節約しなきゃでしょ。もうしょうがないな」
ルミナはそう言うと俺に近づいて手を指の間に絡めてきた。
「えっ!」
「これで、何時間でも歩けるでしょ」
「あ、ああ」
ルミナの手は柔らかくて冷たくて小さかった。うわぁ、俺、手汗とか大丈夫かな。でも確かにこの時間がいつまでも続けばいいのにとも思えた。
手をつないで歩いていると、あっという間に目的地に着いた。幸せな時間は短く感じるものだ。自然と手も離れる。残念……
しかしほんとにここでいいのか? 特に看板なども掲げていないし、家も王都にしては古い建物だ。
「やっと着いたわね。じゃあ入りましょうか」
ルミナは疑うことなく、扉をノックして入る。
「こんにちは」
家に入るが特に何もなく普通の家といった感じだ。見る限り人は居なさそうだ。場所を間違ったかな……
「すいませーん、誰かいませんか」
ルミナが大声で叫ぶ。すると二階の方でガタガタ音が聞こえ、若い女性が降りてきた。長い赤い髪をボサボサに寝ぐせの付いたままの目付きの悪い女性だった。
「うるさーい! なんだい、あんた達。勝手に人の家に入って、叫んで、人の睡眠を邪魔しやがって」
うわぁ、怖いお姉さんきた。苦手なタイプだ。あぁ、場所間違ったかなこれ。謝ろうとしたが先にルミナが声をかけた。
「ご迷惑をお掛けして、すいませんでした。あなたがスキルを見ることができる能力を持っているんですか?」
すると赤髪のお姉さんは不機嫌そうな顔がますます不機嫌になる。
「おい、あんたら。その話は誰から聞いたんだ?」
どうやら場所は合っていたようだ。
「ギルドマスターのグレイブさんからですが……」
俺は恐る恐る答えた。
「ったく、あのジジイ。あとでシメに行かなきゃならねぇな。で、私に何の用だ」
ランカーのグレイブさんをシメれるんですかぁ、と思いながらもどうしてもスキルを知りたいという欲に負けた
「俺に何のスキルがあるかおしえ」「断る」
「え?」
かなり食い気味に断られた。
「な、なんで……」
「いいかい? 少しは考えてみろ。おそらく今この世でスキルを見ることができるのは私だけなんだよ。もしそれが広まってみろ。何万って人がここを訪ねて来るだろうが。そんなのいちいち対応してられるか。まったくグレイブのジジイ、誰にも言うなと言ったのに。まじ許さねぇ」
確かに。自分に何の才能があるのか分かれば、その後の人生がかなり生きやすくなる。そりゃ、みんな知りたくなるよな。
「全く、ほとんどの人間がスキルなんて持ってないのによ。来るだけ無駄なんだよ。無駄」
あれ? 誰もがスキルを持っているわけじゃないのね……でも俺とルミナは絶対何かあるはずだ。そうでないと色々説明がつかない事が多い。
「いえ、私とルクスは絶対スキルがあるはずです。だから見てください。それに私達はもうあなたがスキルを見ることができるって知っているからいいでしょ?」
「なぁお嬢ちゃん、私が何が一番嫌いか教えてやろうか」
厳ついお姉さんは凄みのある目で睨みつけてくる。
「な、なんですか」
「リア充だよ。リ・ア・充! てめえらどうせ付き合っているんだろ。まったくみんなしてイチャイチャしやがって。気持ち悪いんだよ。スキルなんて分かんなくても幸せならいいんじゃないですかぁー。むしろ知る意味あります? 今以上を求めるなんて、贅沢だよ、贅沢。早く帰りな。私はまた寝るんだ」
なんかよくわからん理由を並べている。単に羨ましいだけなのか?
「嫌です! 教えてもらえるまで帰りません」
ルミナも意地になっているようだ。
「絶対いやだね。どうしても教えてほしかったら金払いな。グレイブ達も金払ったから教えてやったのさ」
「い、いくらですか?」
「一人五千万ピアだから、二人で一億ピアだね」
「「はぁ??」」
バカにしているのか。今住んでいる家が三軒以上買えますけど……
「ちなみに今まで払った人はいるんですか?」
どうしても気になって聞いてしまった……
「だからグレイブのジジイとその娘かな。あと一人いたが忘れたな。みんな五千万払ったぜ」
もう諦めようかな……別にスキル分からなくても今まで困らなかったし。俺がそう考えていると、
「分かりました。ではお金を貯めてまた来ます」
と、ルミナが言って俺の手を引いて外に出た。
「ちょっと、ルミナ本気か?」
「本気よ。お金なんてすぐ貯めてやるんだから」
「なんか怒ってない?」
「怒っているわよ。あの人私達のこと気持ち悪いって言ったんだよ。このまま言われっぱなしで終われるもんですか」
別に俺達のことを気持ち悪いと言ったわけじゃないと思うのだが……二人で一億……何年かかるのだろうか。