スキル
俺達はガーランド邸に再び招かれていた。今回は前とは違う部屋に通された。そこは食事をとる為の部屋らしい。その部屋はそれはもうバカ広かった。数十人が同時にダンスを踊れるほど広く、その広い部屋の真ん中にポツンとテーブルが置いてある。いやテーブルも十人は座れるぐらい大きいのだが、部屋が広すぎてなにかバランスが悪い。
そのテーブルに俺と、ルミナ、クレアさん、グレイブさんの四人が座り、メイドにより次々に料理が運ばれてくる。料理が運ばれるたび、ルミナがつまみ食いしようとするので、そのたび俺は手を叩き、
「我慢しなさい。お行儀が悪い」
と言うと、
「ルクスのケチ」
と言っていじけていた。ケチというか常識だと思うが。
「はっはっは、もうすぐだから少しの辛抱だよ」
グレイブさんはその二人の姿を見て笑っている。
料理がテーブル一杯に置かれた。サラダ、魚料理、肉料理、見たことないような料理など、何人前あるのか分からないほど大量の料理があった。
「ルミナさんはありえないほど食べると聞いたのでな。十人前用意させてもらったよ。いっぱい食べてくれ」
「ありがとうございます。では遠慮なく、いただきます」
ルミナは次々と料理を口の中に運んでいく。ものすごい勢いで料理がなくなっていく。いつ見てもすごい食いっぷりだ。ほんとなんで太らないんだろ……まぁ見た目でルミナを嫌いになることはないと思うが太っているルミナより、今のスマートなルミナがいい。
テーブル一杯に並べられた料理がほとんど無くなったころ、グレイブさんが口を開いた。
「まさかほんとに全部食べてしまうとは……いやはや何かスキルがあるのかもしれないな……」
「スキル?」
初めて聞く言葉だった。
「あぁ。人には固有スキルというものがある。しかし普通はそのスキルを見ることができないんだ。まぁ、一般的には才能というのかな。天才と言われる者は何かしらのスキルを持っている者が多いのだ。しかしこのブランにはなんとスキルを見ることができるスキルを持つ者がいる。一度訪ねてみるといいよ。まぁ、見てもらえるかは分からんが……」
グレイブさんは詳しく説明してくれた。スキルか……初めて聞いたぞ。俺が補正とか言っていたやつか。今回の世界は今まで経験してきた世界より進んでいるのか……基本的な魔法や魔物、道具などは今までの世界とあまり変わらないが、最近は見たこと、聞いたことがないものが増えている。
しかしブランにそのスキルを見ることができる人がいるとは幸運だ。見てもらえるかわからないようだが、ぜひ訪ねよう。
「ちなみにグレイブさんや、クレアさんは何かスキルはあるんですか?」
気になって聞いてしまったが、
「いや、それはステータスと一緒で簡単には教えられないな。この先、俺とパーティーを組んでくれたら考えてもいいが」
と言ってニコッと笑う。
「あっ、そうですよね。変な質問してすいません」
「いやいや、いいんだ。俺も君達のスキルは気になるからね。今日はルミナさんの戦いしか見られなかったが、末恐ろしいくらい強いね。私が同じぐらいの年の時はB級の魔物を倒すのが精一杯だったから。クレアも私よりも強くなる素質は十分あるが、ルミナさんは現時点でもクレアより強いかもね」
「いやいや、まだクレアさんには敵いませんよ」
ルミナは謙遜している。
「いや、おそらく私よりも強いだろう。初めて見たときはまだ私の方が強いと思ったが、今日の戦いを見たら負けを認めるしかない。ものすごい成長速度だよ」
クレアさんもルミナの異常な成長に気付いているようだ。でもクレアさんの今日の戦いを見る限り、そんなに差はないように見えるのだが……まぁ、二人が真剣に戦い合うことはないだろうから、本当の差は今後もわからないだろうな……
「さて、前に話した続きだが……君達の強さにはよく分かった。いや、ルクス君の戦う姿は見られなかったが、ルミナさんの力は立派なものだ。この国でも五指に入るほどだろう。ルクス君は、ルミナさんより強いと聞く。ならば止める必要はあるまい。この国の為に戦ってくれ」
「ちょっといいですか?」
「ん? なんだ?」
「俺達、手伝いはしますが、強制はされませんから。受けるクエストは自分達で決めます。国の兵隊になるつもりはありません。もし他国との戦争になろうとも、俺達が戦いたくなければ参加しませんので、ご了承下さい」
「ふむ、なるほど……。もとより強制するつもりはない。自由こそ冒険者だ。俺だって嫌なことは国王にだって嫌と言うさ。国の為に働きたいのなら、軍隊に入ればよいのだ」
思ったより理解のある人でよかった。グレイブさんもランカーしての肩書きで利用されることが多かったのだろう。俺と一緒でうんざりしているのかな。
「ありがとうございます」
一応、礼を言っておこう。
「いやいやこちらこそ、ブランに来ていただいてありがとう。ギルドマスターとして期待しているよ。ところで今日はもう遅い。うちに泊まっていきなさい。部屋は一つでよかったかな」
グレイブさんがエロ親父の顔になっている。
「ふ、ふたつでお願いします」
俺が答える前に、ルミナが顔を真っ赤にして答えてしまった。
「はっはっは、それは、それは。おい、クレア。まだチャンスはあるかもしれんぞ」
「なっ! なにを言っているんですか」
クレアも顔が赤くなっている。
「はっはっはー。照れるな、照れるな」
グレイブさんは本当に楽しそうにしている。
結局、一人一部屋用意されることとなった。




