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ルミナの成長

 炭坑の中はライトのおかげで何も問題なく進むことができた。止まることなくどんどん奥へ進んでいった。

「近いな……」

 クレアが呟く。俺はもっと前から気づいていたけどね。

 少し歩くと魔物の姿が見えてきた。

「ん?三匹もいるか? 一匹しか見えないが」

 俺は目を凝らして魔物を見る。が、まだよく見えないので少し近づくと魔物の全貌を見ることができた。確かに三匹いた。しかし、胴体は一つしかない。一つの体に三つの犬の頭がついている。

「ケルベロスだ!」

 俺は小声でルミナとクレアに伝える。なるほど確かに人によっては犬に見えるだろうな。ケルベロスという魔物を知らなかったら尚更だ。三匹というのも、逃げるときに頭だけを見て判断したのだろう。だから三匹の犬の魔物と間違った情報が伝えられたのか。ルミナも更に近づくとケルベロスを確認することができたようだ。

「よかった。全然かわいくない。これならやれるわ」

 ルミナは胸を撫で下していた。

 たしかにあの見た目だったら大丈夫だろう。確かに頭は犬のようだが、牙は生え、よだれを流し、目付きも鋭い。真ん中の犬なんて口からボウボウと火を吐いている。かわいさの欠片もなく禍々しい。

 しかしケルベロスは確かB級の魔物だったはずだ。普通のB級の魔物だったらルミナ一人でも何も問題はない。しかしもしも以前戦ったゴーレムのような強さだったら……C級の魔物のはずのゴーレムがあの時はAからSの力があった。ということは今回のケルベロスもS級レベルは間違いないことになる。B級のパーティーが以前全滅していることからその可能性は十分に考えられる。

「ルミナ油断しちゃ駄目だよ。普通のケルベロスと思わないほうがいい」

「わかっているわ。とりあえずまだケルベロスまで距離があるから魔法から攻めてみる。その後は向こうの出方をみるわ」

「俺が魔法使おうか?」

「だめよ! ルクスの魔法だったらそれで終わっちゃうじゃない」

「はいはい」

 クレアは二人のやり取りを後ろでじっと見ていた。俺は、やりづらさを感じながらルミナとケルベロス殲滅作戦をたてる。作戦というほどのものではないが。

「じゃあ、いくよ! ファイヤボー」

「ちょ、ちょっとまった!」

 俺は慌ててルミナを止めた。

「えっ、なに?」

「いや、炭鉱で、火の魔法は駄目だよ。石炭に燃え移ったら大変だ。ただでさえあのケルベロスが火を吐いているのに」

「石炭?」

「んー、簡単に言えば燃える石かな。」

「よくわかんないけど、とにかく火はだめってことね」

 ルミナはあまり知識がないようだ……まぁ、冒険者やっていたら仕方ないのかな。

「そうそう。ストーンランスとかでいいんじゃない。土の上級魔法だけどいける?」

「ふふん、私は昔とは違うのよ。魔法が苦手な私でも上級ぐらいいけるんだから。ストーンランス」

 勢いよく放たれた鋭く槍のように尖った石の塊がケルベロスに直撃した。激しい土煙が炭坑内をうめつくす。

なかなか申し分ない威力だ。さぁどうなったかな。俺とルミナは剣を背中の鞘から抜いて身構える。すると土煙がまだ収まらないうちに、ケルベロスの方から大きな火球が飛んできた。

「ルミナ!」

「大丈夫!」

 ルミナは火球を避ける素振りはない。剣を上段に構え火球に向かって剣を振るうと、火球は半分に割れて洞窟の壁に着弾した。一息つく間もなく火球の後にケルベロスが勢いよく突っ込んできて、右前足を振りかぶり攻撃してきた。しかしルミナも集中している。バックステップで避けたと思うと、そのままケルベロスに突っ込みすれ違いざまに胴体に一太刀浴びせる。

「がぁぁぁぁぁぁ」

と気味の悪い声をもらす。

 目の前で見るとでかい。普通のケルベロスの軽く二倍はある。しかし今のところルミナの優勢のように見える。以前のゴーレムのように攻撃が通じないということもない。スピードもルミナの方が上のようだ。このままいけるか。

パチパチと音が聞こえる。洞窟の壁が燃えていた。さっきの火球か……ルミナが半分に切っちゃうから両壁燃えているし。とりあえず水魔法で消しておこう。

 その後もルミナの優勢が続いた。ケルベロスの攻撃を華麗によけながら、そのたび剣でダメージを与えている。いつしかケルベロスの体は傷だらけになりあらゆる場所から血を流していた。

 追い詰められたケルベロスは突然ルミナ達に背を向け走り出した。逃げるのかと思ったが、距離をとると再びルミナの方を向いた。すると三つの頭がそれぞれ火球を打ち出した。いや違う。真ん中の頭から出ているのはたしかに火球だがその左右の頭はそれぞれ氷と雷の球を出している。途中でその三つの球が合わさり、漆黒の巨大な球となりルミナに向かう。

 ここまで黙って戦いを見続けていたクレアさんもまずいと思ったのか大声を出す。

「ルミナさん、避けなさい」

 するとルミナが叫ぶ。

「ルクスお願い!」

 ルクスはすでに準備していた魔法を唱えた。

「マジックウォール」

 ルミナの前に光輝く薄い壁が現れる。それが重なるように十枚ほど現れた。その壁にケルベロスが放った漆黒の球が当たると光輝く壁がガラスのように音を立てて割れたが三枚を割ったところで禍々しい球は消え去った。

「おぉ! 三枚も割れた! なかなか強烈な攻撃だな」

今まで三枚も破られたことは長い年月でも数える程しか記憶がない。やはり強敵だ。

しかしケルベロスも疲れたのか息が荒くなっている。



 クレアは衝撃を受けていた。それは幼いころ、初めて父の戦いを見たときを超えるものだった。まずケルベロスが三つの属性を使うなど聞いたことがなく、それらが合わさった攻撃は当たればクレアでも致命傷になりかねない攻撃だった。果たして私にあの攻撃が対処できただろうかと想像するだけで身が震えた。

 しかしそれよりも驚いたのはルクスの防御魔法だ。普通マジックウォールといえば、一枚の光の壁を出すだけだ。優れた魔道師は二枚を同時に出せると聞いたことがある。しかしルクスはそれを十枚同時に出してみせた。単純に考えて優れた魔道師の五倍の魔力を有することになるのだ。いったい彼はどれだけのステータスを持っているのだろうか。



「ありがとうルクス。助かったわ」

「いえいえ、どういたしまして。そろそろ変わるか?」

ルミナも強敵との戦いで疲労の色を隠せなくなっている。俺はルミナがS級レベルの魔物とソロでここまで戦えたのには正直驚いていた。しかしさっきの技を見ると間違いがあってはいけないと不安にもなった。ルミナももう十分だろう。そう思っていたら予想しない返事がきた。

「うーん、ちょっと試したいことあるから時間稼いでもらっていい?」

 試したいこと? なんだろうか……こんな事言ってくるのは初めてだな。まだ戦わせる事に不安はあったが、ルミナがやろうとしている事も気になった。

「なんか新しい技でも考えたのか?」

「そんなところ。楽しみにしていて」

 ルミナは微塵の不安もないような笑顔を見せた。

「わかった。じゃあ任せとけ」

 俺はケルベロスがルミナに注意を向けないよう、引き付ける。その間ルミナは手を合わせて何かを唱えてようとしている。まさか至高魔法を使うつもりか。

「深淵より来りし黒き王よ、其れを闇の世界にいざない闇において自由を奪え!」

ルミナはケルベロスに向け右手をかざした。

「ルクス、離れて!」

「えっ! ちょっと待って! その詠唱は!」

 ルクスは慌ててケルベロスから距離をとる。

「エンシェントグラビティィィ」

 ルミナが唱えると、ケルベロスが黒い靄に包まれ、同時に地面に張り付くように押し潰された。

「動けないだろう。お前がなぜこんな所に住み着いているのか知らないが、狩らせてもらう。私の大切な人を傷つけたからな」

 ルミナがどこかで聞いたことがあるセリフを、低い声で誰かの真似をしてケルベロスに向かって言っている。俺なのか!

「やめてくれぇぇぇぇぇぇ! 恥ずかしいからやめてぇぇぇぇぇ! 誰も傷ついてないからぁぁぁぁぁぁ!」

 俺はルミナに必死で懇願した。

「なんで? カッコいいのに。あっ、ケルベロスが動きだしそう。やっぱりルクスの魔法と比べるとまだまだだね。早くトドメを刺さなきゃ。あっ!」

 ルミナがケルベロスに向かって歩きだそうとしたとき、立ちくらみを起こしたようにフラフラと体を揺らして壁にもたれる。

「ごめん、ルクス……魔力使いすぎちゃった。あと任せていい?」

 これは仕方がないだろう。エンシェントグラビティーは究極魔法である。それだけ、消費MPは莫大なものになる。MPが少なくなると体がだるく感じられ、使いすぎると立つことも困難となる。休んでおけば自然に回復するのだが。

「わかった、ゆっくり休んどきな。ご苦労様」

「うん、ありがとう」

 ルミナは安心したようにその場に座り込む。

 動けないケルベロスの前に立ち、黒の剣を片手で振り抜く。ケルベロスは半分に切られ動かなくなり黒い靄も消えていった。

「さて、帰りますか」


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