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ルミナ、受ける

 これまで黙って夕食を黙々と食べていたルミナが目を輝かせ急に話に入ってきた。

「えっ、倒していただけるんですか」

 店員も突然のことで驚いていた。

「ちょ、ちょっと待ってルミナさん、もっとよく話を聞かないと……」

 慌ててクレアさんが静止した。

「えっ、でも困っているんでしょ?」

 店員もコクコク頷いている。

「じゃあ倒してあげましょうよ」

「落ち着いてルミナさん。まだどんな魔物かもわからないのんだ。ギルドに依頼されているかもしれないから、まずはギルドに行ってどうするか決めよう。とりあえず今日はもう遅いから明日にしよう」

「そうですね、わかりました」

 ルミナも納得しているようだ。


 その日は、とりあえず宿に戻りベッドにすぐ横になった。やはりテントで寝るより気持ちが良く、あっという間に寝付いてしまった。いつものごとく爆睡してしまい、次の日の朝待ち合わせの時間に少し遅れてしまった。

「ルクス遅い! 女の子待たせるなんて駄目だよ」

「そうだな。こんな美人の二人を待たせるなんて、なんて男だ」

 ルミナとクレアさんはそう言って笑っていた。よかった……あんまり怒ってなくて。昔は俺がアルスを注意していたのに……

「罰として今日のご飯はルクスのおごりね」

「えっ、あ、はい……」

 やっちまった……まぁこの町の食事は、味はともかく値段は安いからいいか。昨日の酒場もちゃんとしたものを出せなかったと五人前で二千ピアしか請求されなかった。しかし物価の高い国では、ほんと寝坊には気を付けよう。

「ではさっそくギルドへいこうか」

 ギルドに入ると、カウンターに職員が一人立っている。しかし、酒場と同じように職員以外は誰一人としていなかった。

「炭坑に関するクエストはないか?」

 クレアさんが職員に尋ねた。

「炭坑ですか? 少々お待ちください」

 そう言うと、手元にある資料をペラペラとめくり始めた。十枚ほど見たかなというところで資料を閉じた。

「うーん、特に炭坑に関するクエストは依頼されていないですね」

「ほんとうですか? もっとよく調べてください」

 ルミナが食いさがるが、職員は首を振っている。

「そもそもこんな冒険者がなかなか立ち寄らないギルドには依頼なんてほとんどないんですよ」

「そうですか……」

 ルミナも諦めたようにそれ以上追求はしなかった。

 しかしおかしい……炭坑に魔物が現れて、そのせいで町は寂れていっている。ならば町長なり、町の責任者が依頼を出すはずなのだが……

「何かおかしいですね、町長の所に話を聞きに行ってみましょう」

 俺が提案すると、ルミナもクレアさんも頷いた。ギルドの職員に町長について聞くと役場にいるそうなので、すぐに向かった。

「町長さんいらっしゃいますかぁ」

 役場に着くなりルミナが呼び掛けた。

「はい、はい。何か御用ですか?」

 眼鏡をかけた、痩せ細った男性が奥の部屋から出てきた。

「はじめまして、私は王都ブランから来たS級冒険者のクレアだ。こちらはルクスとルミナです。まだ若いですが、この二人もれっきとしたA級冒険者だ」

「こちらこそはじめまして。ガザンの町長を務めさせていただいております、ネモと申します。本日はどういったご用件ですか?」

「少し聞きたいことかあるので、お時間少しよろしいですか」

 と俺が言うと、立ち話もなんですからと奥の応接室に通してくれた。

 四人がテーブルをはさみ椅子に腰掛けるとネモが話を始めた。

「では、ルクス君でしたよね。聞きたいこととはなんですか? この町の現状についてですかね」

「そうです。炭坑に魔物が出て居座っているというのは本当なんですか?」

「はい。急に炭坑に現れたと思ったら、そこから動かないので倒すしか方法がなくて……しかし並の魔物でなく手も足もでないのです」

「ギルドには依頼してないみたいですが……」

「ギルドに依頼する為にはお金が必要です。あの魔物はきっとA級以上に認定されるでしょう。いまこの町にはそんなお金はないのです……」

 ネモがそういうとクレアさんが声を荒げた。

「お金がないわけがない。炭坑の町ガザンといえばアスールの国の中でも有名な町の一つだ。多くの炭坑夫で溢れ返り、町で金を落としていったはずだ。その時の蓄えがあるだろう。まさか悪いことに金を使っているわけではないだろうな」

 クレアさんの威圧する声に、ネモは怯えながら答えた。

「申し訳ございません。本当にお金はないのです。実は私が町長になったのは最近のことなのです。依然の町長は炭坑に魔物が出たと分かると、討伐依頼をギルド出すことなく町のお金を持ち逃げしたのです。残された我々は今少しずつお金を集めてギルドに依頼しようと思っているのですが……」

「そうだったのか……くそっ、その前町長とやら最低だな」

 怒りがこみ上げたのか座っている机を拳で殴った。

 ……机が二つに割れた。

「……すまん。弁償する」

 そりゃあ、あんたが力一杯殴れば割れるよ。大人なんだからもう少し冷静になってほしいものだ。口も少し悪くなってきていますよ。

「依頼が出せないのなら私達で倒してあげればいいじゃないですか」

「ボランティアでやるというのか?」

 クレアさんは驚いてルミナを見る。

「えっ、なんか変ですかね?」

「いや、本来クエストは命懸けだ。だからこそ、それに見合う報酬を受けとる。他人の為に無償でクエストを受けるなんて普通はしない。特に今回のようなA級以上のクエストなら尚更だ」

「大丈夫ですよ。だってルクスがいるから。ルクスがいればきっと命の危険なんてありません。それに今回はS級のクレアさんもいます。私だってそれなりに強いんですよ。きっと大丈夫ですよ」

「私はまだやるとは言ってないんだが……」

 クレアはあきれたような顔をしていた。しかしかなり信頼されているようだ。嬉しいものだ。ルミナがこの町を助けてあげたいと言うのであれば、俺は喜んで協力しよう。

「クレアさん、諦めましょう。ルミナはもうやる気です。止めても一人で行きますよ。まぁ、そうなったら俺もいきますけど」

「そのようだな。だがやっぱり無償と言うわけにはいかない。町長! 少しは依頼する為の金は貯まっているんだろう。それで依頼を受けよう」

「はい。本当に少しですが。ありがとうございます。助かります。本当にありがとうございます」

 町長は涙を流しながら何度も頭を下げている。

「しかしルクス君は誰の下にもつかないと言っていたな」

「そうですけど……」

「ならば今回は二人で魔物を倒してみなさい。まぁ心配するな。私もちゃんと付いていくから危なくなったらサポートしよう」

「わかりました。では安心して見ていてください。疾風迅雷の力見せてあげますよ」

「ふふ、楽しみにしておくよ」



 クレアはいい機会だと思っていた。今回の魔物はこれまで各地で現れている魔物と同じかもしれない。ルクスとルミナが魔物に負けるとは思わないが、その魔物に対しどのような戦いをするのか楽しみであった。もしあの二人が負ける魔物がいれば、きっと私も敵わない。その時はなんとしても二人を連れて逃げなくては……将来性の高い二人をここで失うわけにはいかない。


「よし、じゃあ決まりと言うことで」

「ありがとう、ルクス。きっとルクスなら手伝ってくれると思っていたよ」

「当たり前だろ。何年一緒にパーティー組んでいると思っているんだ」

「えっ、三年くらい?」

 そこは普通に返されても反応に困るんですけど……

「まっ、まぁそういうことでネモさん、魔物について知っていることを教えてもらっていいですか?」

「分かりました。本当にありがとうございます」

「お礼ならルミナに言ってください。俺もルミナがやるといわなければやらなかったですし」

「ルミナさん、本当にありがとうございます。では私が知っている限りの情報を話しましょう」

 ネモは真剣な顔で話を始めた。



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