2つの剣
ルミナが一緒に住むと決まった次の日、二人で買い物にいくことになった。これって初デート……。いや、お互い前のクエストで壊れた剣の代わりを買いにいくだけだし。アメリアから買い出し頼まれただけだし。ルミナの生活に必要な物を買うために町を案内するだけだし。緊張なんかしてないし。とか一人であれこれと考えていると、
「私この町初めてだから案内よろしくね、ルクス」
と、ルミナがニコニコして話しかけてきた。
「うん、任せて。まずは武器を見ておこうか」
冷静を装って答えるが心臓はバクバクと音を立てていた。くっ、情けない。たかが十三歳の女の子に動揺してしまうなんて……
以前アルスに誕生日に剣を買ってもらった武器店へ向かった。この町では一番品揃えが良い店で、店主もきさくな方だ。
「よう、ルクスの坊っちゃん。今日はかわいい女の子を連れてデートかい?」
「ちっ、ちがいますよ。武器を買いにきたんです。なんか良い剣ないですか?」
「前の剣はどうしたんだい? あれも結構いい武器だったんだが……」
「ゴーレム切ったら、ボロボロになっちゃいました」
「わっ、私も折れちゃいました」
「お嬢ちゃんも冒険者なのかい?」
「はい、ルミナといいます。サンドラから来ました。一応C級冒険者です」
「C級! その年ですごいな! 坊っちゃんもC級に上がったんだっけ?」
「うん、C級にはこの前あがったよ」
「二人とも末恐ろしいな。ゆくゆくはランカーか」
先ほどまでニコニコとしていた店主は急に眉根を寄せて真剣な顔をする。
そしてちょっと待っていろと言って、店の奥に入っていった。暫く待つと両手にそれぞれ黒と白の輝く小ぶりの剣を持ってきた。
黒の剣は、柄(持ち手の部分)と鍔(柄を握る手を守るもの)が白く輝き、逆に刀身が真っ黒ながら、光沢があり美しい。
白の剣は、黒の剣とは逆で柄と鍔の部分が黒く輝き、刀身は真っ白になっている。自らが光輝いているようにも見える。これもまた美しい。
しかし両方とも少し刀身が短い。子供用といった感じか。
俺とルミナが剣に見とれていると店主がいつもと違う低いトーンで話しだした。
「この剣は、対になっている。希少な鉱石で作られているんだが、あまりに希少すぎてこのサイズしか作れなかった。この鉱石は特別な性質がある。この黒と白の鉱石が近くにあるほど強度、切れ味が増す魔法石なんだ。まるでお互いを守り合うようだろう。しかもどういう訳か、1人で持っても意味はない。おそらく持ち主の魔力が同じだと意味がないのだろうな。サイズ的にも、これを扱う実力的にもお前らにちょうどいいと思ってな。どうだ? まぁお前らがそんな関係じゃないって言うなら無理はいわないが……」
俺がルミナを見ると目があった。ルミナの顔が少し赤くなっている。
「わ、わたし、その剣ほしいです。一目惚れしました」
「うん、俺もほしいかな。かっこいいし。でも高いんじゃ……」
手持ちはこの前のクエスト報酬を合わせても百万ピア程しかなかった。話を聞く限りとてもこの金では買えそうにない。高価な剣や防具は数百万という金額が付けられる。
「私もそんなにお金ない……」
「はっはっは、金は気にするな。C級昇格のお祝いだよ。ただ一つ頼まれてくれ。俺はその剣を完成させたい。どの道お前らが成長して大人になるとその剣は小さく扱いづらくなるはずだ。だからそれまでに、この黒と白の鉱石を集めてみてくれ。そしたら、また打ち直して新しい剣にしてやる。まぁ俺からの個人的な依頼だな。剣は先払いってやつだ」
なんていい人なんだ。
「わかりました。必ず集めてきます。ありがとうございます」
ルミナと一緒に剣を受けとる。店主は剣に合う黒と白の鞘もつけてくれた。
その後店主から鉱石について詳しい話を聞いた。鉱石の名はブラックロンズ、ホワイトロンズというらしい。問題はその入手方法だった。黒龍と白龍と呼ばれるドラゴンが絶命したとき、体が結晶化する。それがロンズと呼ばれる鉱石らしい。手に入れる為にはドラゴンを討伐するか、寿命で死ぬのを待つしかない。しかし、ドラゴンの寿命は長い。現実的には倒すしかないが、黒龍と白龍はドラゴンの中でも上位種らしい。もしクエストになればS級以上あるだろう。今まで普通のドラゴンは何度も戦って倒してきた記憶はあるが黒と白のドラゴンなど戦ったことはない。いや、見たこともない。今まで生きてきた世界とも違う所があるのかな。まぁ、本気をだせば倒せないことはないか。ただ見つけるのが大変そうだ。
話をあらかた聞いて、武器屋をあとにした。背中には俺が黒、ルミナが白の剣を鞘にいれて歩いている。
すると人気の無い道でルミナがいきなり前に走り出して、振り向いた。
「ルクス、この剣の為にも私達一緒にいないとね」
陰りの無い眩しいくらいの笑顔だ。
「そうだね。一緒にいないとね」
あれ、これプロポーズになってないよね? まだ好きとか愛しているとかも言ってないけど……
でもいつかちゃんと言おう。もう認めなければ。俺はルミナが好きだ。いつ言えるか分からない
俺も走ってルミナの隣に立つ。ルミナを見ると赤くなって下を向いている。
「じゃあ、次はお母さんのお使いだね。その次はルミナの欲しいもの買いにいくからちゃんと買うもの纏めておいてね」
「うん、わかった」
その後、必要な物を買い揃えて家へ帰った。