初めての夜
日が落ち辺りも暗くなってきたので、テントを張ることにした。
アルスは昼間ほとんど寝ていた。あの後、同じようにもう1度盗賊に出会ったが、同じように撃退した。盗賊に襲われるというイベントが二回もあったにもかかわらず、アルスは一度も起きなかった。アルスのせいで出くわした盗賊だろうに……
「うーん、トイレ」
と言ってたまに起きたりもしたが、用を済ますとまた寝ていた。
ボックスからテントを取り出し、設置した。あっ、テント一つしかないけどルミナどうするのかな。一緒に寝るのかな。なんか緊張するな。とか思っていたが、ルミナは自分のテントをしっかり持っており、せっせと設置していた。
別に期待とかしてないし。アルスもどうせ一緒だし。っていうか、最近ルミナを女性として意識しすぎだな。自分の体がまだ十二歳で年が近いからだからだろうか、ルミナが十三歳にしては大人びているからだろうか。よくわからない。ルミナはこの世界で初めて親しくなった異性なので意識するのも仕方ないなのかなと思い納得した。
何度転生しても、恋やら、愛やらはよく分からない。気づいたら人を意識したり好きになっていたりする。時には暴走して失敗したり、慎重すぎて失敗することもよくある。俺は恋愛が苦手だ。今までの転生は容姿に恵まれなかったことが多かったのも理由だが、基本恋愛になると臆病になる。恋愛経験値に関しては、モテモテの人生を送るイケメンの一回分にも満たないのではとも思ってしまう。
「ルクス、ちょっとその辺で晩飯探してくるからルミナちゃんと待っててくれー」
と言ってアルスは森の奥へ入っていった。
馬車の人は自分の馬車の中で休んでいるのでルミナと二人きりになっていた。やばい……変に意識したから緊張してきた。俺は特に今は必要でない荷物の整理をしながら緊張しているのを誤魔化した。
「ねぇルクス?」
「ひゃい」
いきなり話しかけられて驚きと緊張から声が裏返ってしまった。はずかしい…
ルミナも笑いそうになるのを堪えているようだった。
「ルクス、今日はありがとう」
「ん? なんのこと?」
「盗賊達を倒してくれて」
「あぁ、あれね。別にいいよ、あれくらいルミナでも楽勝だったと思うよ」
「今日の盗賊達はそうだったかもしれないけど、中には強い盗賊もいるかもだし、戦うまで分かんないからさ……でもルクスは強いから安心して見ていられたよ」
またドキドキしてきた。別に好きとか言われたわけじゃなく、自分の強さを誉められただけなのに……勘違いしちゃダメだ。
「でも盗賊なんて集団で弱い商人とかを狙う卑怯者の集まりだからね。強い盗賊なんていない、いない」
「う、うん。そうだね」
ルミナの表情がまた暗くなった。盗賊に何かトラウマでもあるのだろうか……
「とりあえず今日は本当にありがとう」
無理やりつくった乾いた笑顔でそう言うと、自分のテントに戻っていった。
その後一人でボーっと星空を見ていると、
「おーいルクス。捕まえたぞ」
と大きな声をあげてアルスが戻ってきた。
「なにを捕えたの?」
「少し小さいが猪だ!丸焼きにしよう」
また猪かよ! と思っていると、テントの方から
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
と可愛い音が聞こえてきた。
少しすると真っ赤な顔をしたルミナが出てきた。今日はろくな物食べてないからな。
「ルミナ、ご飯にしよう。猪は大丈夫? 食べられる?」
「うん、大丈夫。大好きだよ。お父さんとよく食べていたから」
意外な言葉が返ってきた。
「おぉぉぉ。よかった、よかった。俺も大好きなんだよ」
アルスが喜んでいる。家では全否定されていたからな……
枯れ木や枯れ葉を集め、初級魔法で火をつけた。猪はルミナがさばいてくれた。慣れた手つきだ。
イノシシをステーキのように厚めに切り、焼いていく。馬車の人にも分けてあげようとしたが野生の肉は苦手なようで断られた。
「はい、召し上がれ」
ルミナが紙で作られたお皿にステーキをのせて持ってきてくれた。
でかい! 厚さが3センチほどあり、重量も1キロほどありそうだ。アルスの前にはその一、五倍はありそうな肉塊が置かれている。さすがにアルスも
「ありがとう」
と言いながらも顔がひきつっている。
ちなみにルミナの前にもアルスと同じくらいの大きさの肉が置いてある。
「ちゃんと味付けもしているから、残さず食べてね」
恐怖の呪文が唱えられました……
アルスは頑張った! 猪好きだと言った手前残すわけにはいかないと腹に詰め込んでいった。肉塊がどんどん小さくなっていく。なんとか食べきり、動けないのかそのまま横になった。豚ちゃんになっちゃうよ。
俺は半分くらい食べたところでギブアップした。ごめんなさいと言おうとルミナの方を見ると、肉塊が既に無くなっていた。
「え……もう食べたの?」
「うん。お腹すきすぎて、一気に食べちゃった」
ルミナははにかみながら舌を出していた。すごいですね……
「ごめん、俺はもうお腹いっぱいだよ」
「もう、しょうがないなぁ」
と言って俺の残した肉もペロッと食べてしまった。ほんとにすごいですね……
アルスはそのまま寝てしまったようだ。いくら起こしても起きないので、そのまま外で寝かすことにした。寒い季節でもないし大丈夫だろう。
「じゃあ俺達も寝ようか」
「そうだね、おやすみ」
「うん、おやすみ」
お互いテントに戻って寝ることにした。テントに入り横になると直ぐに睡魔が襲ってきた。
「……クス、起きて、ルクス」
誰かが呼ぶ声がして目をあけると、ルミナが横に座っていた。
「うわ!」
びっくりして飛び起きた。
「どうしたの、ルミナ?」
「えっと……一緒に寝てもいいかな」
恥ずかしそうにもじもじしている。
え……まじ? こんな展開ありですか? 一気に目が覚め、鼓動が高鳴る。
「一人で外に寝るのが怖くて……いつもはお父さんがいたから平気だったんだけど。だめかな?」
……なるほどね。別に期待したわけじゃないですよ。まだ十二歳と十三歳ですからね。そんな展開ないってわかっていましたよ、わかっていましたとも、はい……
「駄目じゃないよ。俺も普段は一緒にお父さんと寝ているからね。じゃあ一緒に寝ようか」
「うん、ありがとう」
と言って隣に寝転んできた。ツインテールをほどいた髪から淡い香りが漂う。
「じゃあ今度こそ本当におやすみ、ルクス」
「う、うん。おやすみ」
ルミナはすぐ寝息をたてて寝てしまった。安心してくれたようでなによりだ。寝顔もかわいいな。俺もそろそろ寝ないとなと目を瞑ると、
「うーん……」
と言ってルミナが寝返りして抱きついてきた。
「うわっ!』
びっくりして、そっとルミナを元の位置に戻そうとしたら、
「お兄ちゃん……」
と寝言が聞こえてきた。
お兄ちゃん? お父さんとお母さんの話は聞いたけど、兄がいたのか……今度聞いてみるか。
起こさないようにルミナを元に戻して、目を閉じた。
…………やばい、寝むれない。
結局、朝までろくに寝ることができなかった




