勘違い
そして現在に至る。
「まぁ、今本気でやり合えば負ける事はないが、俺も只ではすまないだろうな」
エンドは腹部を切りつけられた傷を見ている。未だに血が流れている。
クレアはそれに気づくと、ボックスから救急箱を取り出し手当てを始める。
「ほんと不思議ですよね。あなたにかかれば欠損した部位でも治すことができるのに、自分にはその魔法が使えないなんて……」
「俺のスキルのデメリットだからな。それは仕方ない。それ以上の恩恵は受けているが、本気の戦いを何度もできないのはいただけないな」
エンドは回復魔法で自分の傷を治すことができない。それだけだったらまだマシなのだが、自然治癒力もわずかしかない。単純な切り傷でも完全に治るのに一か月はかかる。今回ルクスに受けた傷でさえ三カ月は有するものだった。
この弱点をエンドは包み隠さず、クレアに話していた。それはクレアを信用しているのか、話したことろで相手にならないと思っているのか分からないが、エンドは思いの他よく話すので、様々なことをクレアに話していた。エンドの強さの秘密も。
その中で、クレアはアスールが戦争に巻き込まれようとしていることを知った。
「さて、私もそろそろブランに戻りますね。色々とお世話になりました」
「さすがにアマレロとロッソの連合を相手にするのは厳しいが、あのルクスってやつとお前がいるなら何とかなるかもな」
その時クレアには一人の女性の顔が浮かんだ。
「そう言えば一緒に女性が一人いませんでしたか? 同じくらいの年で、金髪の」
「いや、確かに女性と一緒にいたが三十代後半から四十代の銀髪の女性だったぞ。俺とルクスが戦っている間に、俺が倒した冒険者達に回復魔法を使っていたな。それがどうかしたか?」
特徴を聞いてクレアは一人の女性が頭に浮かんだ。おそらく、いや間違いなく母親のセラだ。アスールで回復魔法を使える者なんてそう何人も存在しないうえに、銀髪で年齢もぴったりだ。何故、ルクスと母が一緒にいるんだ? しかもブランではなくプラシアに。ルミナはどうしたのだろうか……もしかして別れた? それで私の母と出会って……。いやいやいや、年も離れ過ぎているし、まさかそれはないだろう。しかし自分でいうのもあれだが、母は美人だ。歳をとっても美しさは増すばかりだ。ルクスが手玉に取られてもおかしくない。女性の体に興味津々だったし。クレアは居ても経ってもいられなくなって、
「やっぱりプラシアに行きます」
「は? お前も挑みたくなったのか? まだあのレベルには早いと思うぞ」
「いえ、ちょっと確かめたいことが出来ました。プラシアに行って、すぐにブランに行くので問題ありません」
「そ、そうか。とりあえずプラシアまで送ってやるよ。まだ往復するくらいはMPも残っているし」
エンドはゆっくり立ち上がり、手のひらをクレアにかざす。
『トランスファー』
二人はプラシアの地に降り立った。
「じゃあ、俺はもう行く。さっきまで暴れてたから居づらいしな」
「助かりました。無事戦争が終わったら、また会いに行きます」
「どれだけ強くなるか楽しみにしておく。死ぬなよ」
それだけを言い残し、エンドはプラシアを去った。
「さてと、まずはギルドへ行ってみるかな」
相変わらず美しい町だなと景色を歩いていると、やがて全壊したギルドが見えてきた。すぐにエンドの仕業だと思って頭が痛くなる。全壊した瓦礫の中で、作業を行う老人を見つけた。ギルドマスターのキリングだ。以前、ルクス君とゴランの決闘で審判として呼ばれたときに一度だけ顔を合わせた事があった。
「キリングさん」
クレアの呼びかけに、キリングは動き止めて振り返る。
「おぉ、クレアさんじゃないですか」
ギルドが全壊しているというのに明るい表情を見せてくる。
「えっと、なんか大変そうですね」
「いえいえ、ちょっといざこざがあって壊れちゃいましたが、十分すぎるほど弁償してくれましたし、新築になるのでむしろラッキーですよ。あっ、それよりもさっきセラとルクス君が来ましたよ。もう帰ってしまいましたが」
一歩遅かったかが、クレアにはここまでは予想通り。知りたいのは二人の関係だった。
「あのぉ、聞きにくいんですけど二人はどんな感じでしたか?」
キリングは質問の意図を十分に理解してしまった。あっ、この子何か誤解しているなと。そしておもしろくなりそうだなと。
「別に普通に仲良さそうでしたよ。最後は手を繋いで帰っていきましたし」
と顔色を変えず、見たままを答えた。嘘は一つも言っていないのだ。クレアはキリングの予想通りに驚愕の表情を見せ、
「キリングさん、すいません。私は二人を追うので、失礼します」
といそいそとその場を去っていった。




