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魔大陸

「お前の話を信じて無い訳じゃなかったんだけどな。想像以上だった。無詠唱魔法が使えなくて助かったよ」


 笑いながら話すエンドはまだまだ余裕がありそうだった。




 クレアは強さを求めて、家を出た。そして強くなる為に、噂で聞いていたこの魔大陸を目指した。無事たどり着けたことはよかったのだが、甘くなかった。最年少でS級になったとはいえ、まだまだ経験の浅い冒険者だ。魔大陸の奥へ進むにつれ、見たこともない魔物、見たこともない技に押され始めた。


 それでもクレアは命の危機を感じながらも、それを乗り越えていった。強敵を倒すことで、レベルもどんどん上がっていった。魔大陸に来たことは間違いなかったと確信し始めたとき、決して出会ってはいけない魔物と遭遇してしまう。


 ドラゴニックマンティ。見た目はライオンのようだが、体のサイズはゆうに十メートルを超え、巨大な爪、巨大な牙を持つ。その強さはドラゴンを軽く食い殺すほどで、ギルドランクは測定不能。魔大陸でも三指に入る魔物として君臨していた。


 クレアは果敢にその魔物に挑むが、クレアの剣技はドラゴニックマンティの硬い外皮を傷つけることすらできず、逆に前足からの鋭い一撃を受け、クレアは動けなくなってしまった。


「ここまでか……」


 全身を激しい痛みが襲う。体中から血が流れ出ている。特に痛みの強い左腕を見ると、既にそこに存在していなかった。魔物はゆっくりとクレアのもとに歩いてくる。そしてクレアは全てを諦め目を閉じる。


「ガァァァァァァァ」


 何故か魔物の醜い断末魔が聞こた。目を開けると、魔物は首を切り落とされ絶滅しており、一人の男が立っていた。クレアはそこで意識を失った。


 クレアは何やら芳ばしい香りに目を覚ます。砂浜で焚き火を起こし料理をしている男がいた。クレアが目を覚ましたことに、男が気づくと、


「やっと起きたか。とりあえず腹減っただろう」


 そう言って、男は木でできた器に鍋からスープを注ぎ、クレアに差し出す。受け取ろうと左手を前に出そうとしたその時に気づく。失ったはずの左腕があることに。不思議そうに左腕を見てると、男が声をかける。


「早く受け取れよ。冷めちまうぞ。あぁ、その左腕は俺の魔法で治しておいた」


 クレアは唖然とした。全身を確認すると全くと言っていいほど痛みはない。あれほどのダメージを追ったのに。ランカーである母親のセラも回復魔法を使うことはできるが、さすがに失った腕を治すほどの効果はない。そしてドラゴニックマンティを一瞬で仕留める強さ。ルクスを初めて見たときの衝撃以上だった。


「助けて頂いたようで感謝します。あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」


 男はため息をついて、持っていた器をクレアの前に置く。


「俺の名はエンド。あとの質問はこれを食べてからだ」


 エンドはよほど腹が減っていたのか、スープを勢いよくかき込む。クレアはエンドに聞きたいことが山ほどあったが、しょうがないと目の前の料理をすくって口に入れる。


「うまい!」


 それから三ヶ月、クレアはエンドの元で修行を始めた。師匠と弟子というほどの関係ではなかったが、クレアにはエンドの動きを見てるだけで、その全てが勉強になった。


 そして、エンドがルクスと出会う前日の夜。


「クレア、俺は晩飯作るので忙しいから、こっちに向かってくる魔物倒しておけ」


 クレアはまだ何も感じなかったが数秒後にはその気配を感じた。やがて森の中から黒い魔物が現れた。ダークナイトアント。蟻をそのまま大きくしたような魔物だ。強力な顎であらゆるものを砕く。ランクをつけるなら少なくともSと判断される魔物。


 クレアは雷切を構え、ゆっくりと息を吐く。ダークナイトアントもクレアに気づくと、その歩みを止める。クレアの纏う空気に魔物も一瞬たじろぐが、それで逃げ出す魔物はこの大陸にはいない。大きな顎を開き、クレアに向かって勢いよく突っ込んでくる。クレアは噛みつかれそうになる直前に飛び上がる。勢い余った魔物はそのまま地面にぶつかり、動きが止まったところに、そのまま上空から雷切を頭に突き刺す。


「シャイニングボルト!」


 突き刺さった雷切を伝って、電撃が魔物の内部を破壊すし、ダークナイトアントは絶命した。


 その戦いを見ていたエンドが、


「前に強くなりたいと言っていたが、アスールだったらもう一番強いんじゃないか?」


 と、声をかけるがクレアは雷切をしまい、首を横に振る。


「アスールにはランカーの私の父もいるし、離れて暮すランカーの母もいます。いや、それ以上にあの国にはルクスという化物みたいに強い男がいるんです。私より年下なのに、全く底が見えません。ルクス君にはおそらく父も母も敵わないでしょう」


 エンドはルクスという男に興味を持った。クレアは十代で考えるなら恐らく最強だろうと思っていた。まだまだ自分とは差はあるが、ランカーになれる実力はある。そんなクレアにそこまで強いと言わせ、クレアより年下だという。確かめたくなった。久しく自分を脅かす存在に出会っていないし、もしかしたら使える奴かもしれない。


「よし、明日その男に会ってこよう。俺が直々に確かめてやる。どこにいるんだ?」


「え? ルクス君にですか? 多分ブランかプラシアにいるとは思いますか。でも本当に強いですよ」


 エンドがここまで興味を持つとは思わなかった。一緒に生活していて気づいたが、エンドはランカーだ。しかもⅠの。その世界最強の男が強いとはいってもたかが子供に実力試しにいくとは。


 しかし興味はあった。果たしてどちらが強いのか。今のクレアでは全く想像のできなかった。


「なんとなくだがプラシアから行ってみるか。俺は運もいいから2択ぐらい当たるだろう」


「はぁ……でも試すだけにしてくださいよ。殺したりとか死んだりとかしないでくださいね。あの人はこれからのアスールに必要な人なんですから」


「俺が死ぬことも考えるのだな。それは楽しみだ」


 エンドはにやりと笑った。

 

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