強さを求めて
セラさんもエンドが去ったのを確認したのか、俺の元に向かってきた。
「ルクス君、大丈夫だったか?」
「えぇ、なんとか。でも奴は俺の実力試しに来ただけのようです。戦うにはまだ値しなかったようですけどね」
「倒れていた冒険者達も全員無事だ。というよりも皆、気を失っていただけで重傷者はいなかったしな」
倒れていた冒険者達に話を聞くと、エンドという男はプラシアギルドを訪ね、ある冒険者に俺の事を訪ねたらしいが、酒に酔っていてエンドに絡んだらしい。そして返り討ちに合い、その後ギルドにいる他の冒険者達からも絡まれ、全員気絶させられたようだ。その戦いの中の流れでギルドは崩壊してしまったらしいが。ギルドを破壊されるような戦いをしてよく誰も殺されなかったな……おそらくエンドが上手く戦ったのだろう。あの実力ならば子供をあやすよりも簡単なはずだ。そして最後は全員を魔法で回復させ、金までくれた。実は良いやつなのかもしれない。
そう考えている内に、ある人物が話しかけてきた。プラシアのギルドマスター、キリングだ。年齢は七十歳を超えた白髪の多い初老の男性だ。若いころはS級冒険者として活躍していたそうだが今は腰も曲がっていて見る影もない。優しいおじいちゃんといった感じた。
「ルクス君、セラ、久しぶりですね。いやぁ、今回は助かりました。まぁ、そもそもうちの冒険者が悪いみたいですがね」
申し訳ないというように、曲がった腰を更に曲げる。どうやらギルドの二階で仕事をしていたところ、建物が崩れ、気を失ったらしい。しかし、これだけの崩壊なのにギルド職員もみな無事だったのだが……
「あの、シャルルちゃんは戻ってないですか?」
「シャルルですか? 確かルクス君と旅に出たと聞いていたんですが」
「そうなんですが。戦いに巻き込まれてはぐれてしまって。そうですか、分かりました」
やはりシャルルちゃんは戻ってなかった。まだロッソにいるのだろうか。無事だといいが。シャルルちゃんのことを考えていると、何やらセラさんとギルマスが仲良さそうに話している。
「そう言えば二人は知り合いなんですか?」
セラさんが答える。
「あぁ、昔の私達のパーティーの師匠みたいなものだ。私達が冒険者を始めたころ、心得やクエストの助言など色々と世話になったものだ」
意外だ。俺が冒険者を始めてからは、キリングはずっと二階にいて、週に一回顔を見る程度だったし、挨拶を交わす程度だった。だがこの二人なら知っているかもしれない。
「あいつ、エンドって言ってました。聞いたことありますか?」
すると、二人は目を見開き、俺を見る。
「ルクス君、間違いなくエンドと名乗ったのか?」
セラさんが真剣な顔で聞いてくる。
「え、えぇ」
「エンド……確か、ランカーⅠがその名だと聞いたことがある。しかし中々人前に顔を出さないので、もはや伝説化していたのだが」
「しかし、儂が冒険者をしている頃からランカーⅠはエンドだと言われていました。あれはどう見ても三十代ぐらいでしたよ」
キリングが冒険者をしている頃は三十〜四十年前と考えられる。いくらなんでも計算が合わない。どういうことだ? ランカーⅠの者をエンドと呼ぶようになるのか?
なんにせよ、ランカーⅠはどの国にも所属していないらしいし、本人も興味ないと言っていたのは幸いだ。あんなのが相手側にいたら、それこそ勝機を失ってしまう。
エンド……またいつか戦うだろう。それまでに強くならなければ。その時は敵でないとは限らない。もし、アスールを、ルミナを狙ってきたときに守りきる自信は今の俺にはない。今よりも強くなるんだ。
「セラさん、帰りましょう。シャルルちゃんはいなかったけど、収穫はありました。今は時間が惜しい」
俺の言葉にセラさんは頷き、俺の手をにぎる。
「セラさん、帰ったらアレ貸してもらえますか?」
「アレ?」
キョトンとした顔で俺を見ている。
「あの無詠唱を使えるようになる教本です」
「なるほどな……」
セラさんは察したように頷き、
「ではキリングさん、失礼します。トランスファー」
キリングが手を振っているのを確認したところで、目の前が真っ暗になり俺達はブランに戻った。
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一方その頃……どの国にも属さない、あらゆる魔物達が生息する大陸、魔大陸。そこは大陸から湧き出る魔素の影響により、巨大で強く成長し、最低でもSランクの魔物しかいないとされる場所である。もちろん人類が生息できる所ではなく、どの国からも放置されている土地である。幸いにも大陸は海に囲まれており、飛ぶことができる魔物もいないため、人類が大陸に自ら踏み入れることがない限り、襲われる心配もない。
しかしあえて魔大陸に住む男がいる。エンドだ。
「危なかった。あそこまで強いなんて聞いてないぞ」
焚火を挟んで座って向かい合う男の目線の先には、銀髪でショートカットの女性がいた。
「だから強いって何度も言ったじゃないですか。どうせ恰好つけて、試すようなことしたんでしょう」
呆れたようにエンドを見る女性、グレイブとセラの娘、クレアだ。
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