会談
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俺の言葉を聞くと、アルスは何故か笑いだす。
「そう言ってくれると、この国も安泰だな。お前の武勇伝は至る所から流れてくるからな。親としては嬉しい限りだ」
「武勇伝って……あんまり聞きたくないな」
王という立場もあって国で起こった事の様々な情報が入ってくるのだろう。知らないところで自分のやってきたことが親に告げ口されているみたいであまりいい気はしないものだ。
しかし張り詰めた空気もいつのまにか緩み始めていた。難しいことも何とかなってしまいそうになる。
「ルミナはどうする?」
返事は分かり切っているが念のため確認を取ってみる。正直俺は田舎のほうで安全に過ごしてほしいものだが。
「ルクスが止めても、私も戦うわよ。みんなが戦っている中、指をくわえて見ているだけなんてあり得ない」
「そう言うと思ったよ」
それを聞くと、ルミナが俺の背中をバシッと叩く。
「さすが、ルクス。わかってるわね」
「まぁ、付き合いも長いしな」
ルミナがにっこり笑う。うん、俺がこの笑顔を守っていかなければ。全力を出してでも、負けられない。まぁ、俺が全力を出さないといけない場面なんて考えたくもないが。
「ごほん」
セラさんがわざとらしく咳き込む。
「いちゃいちゃしているところ悪いが、二人が協力してくれることが分かったところでこれからどうする? あちらが攻め込んでくるのを待つのか? それとも私達4人であちらに乗り込むか?」
「い、いちゃいちゃなんてしてないですよ。ちなみに父さんはどう考えてるの?」
すると王は一枚の書状をアメリアから受け取った。そしてそれをテーブルに広げた。
「これは先日、ロッソとアマレロの連盟で届いた書状だ。内容はアマレロ王グラムとロッソの第一皇女ジェシカの結婚記念パーティーの招待状だ。いづれ同盟国になる国の王にも祝ってほしいとの内容だ。開催場所はイグナイト」
そんなもの何か罠があるに決まっている。首を差し出せと言われている国にわざわざ出向く王がどこにいるというのだ。
「これに参加しようと思う」
ここにいた。ちょっと待って。死ににいくおつもりですか?
アメリア以外の3人も驚いたようにアルスを見る。俺と同じ気持ちだろう。
「どういうことだ?」
グレイブが尋ねる。さすがに理由があるはずだ。いくらアルスでもそんなアホではない。
「いや、美味しい料理が出そうだなって。トマットって野菜が美味いらしいんだよ」
ただのアホのようだった。しかしその瞬間、アメリアがテーブルを両手でバンっと叩き、アルスを睨みつける。
「いつまでもふざけてないで、早く進めましょうか。お・う・さ・ま」
「は、はい」
この国の一番の権力者は母親のようだった。アルスはいそいそともう一枚の書状を俺に渡してきた。
「参加すると言ったのは、こっちが本命だ」
書状に書かれた内容に目を通す。横からルミナも覗いてくる。
内容はアスール、ロッソ、アマレロの三か国による会談を行おうというものだ。その場でアスールの返事を聞くと書かれている。読み終わると、グレイブにもその書状を渡す。セラさんも同時に読んでいるようだが、二人とも渋い顔をしている。
「こちら側の返事は決まっている……場所は敵地……同盟を断ったら、もはや帰ってこれないのでは?」
グレイブとセラさんも頷いているが、アルスはしたり顔で、
「俺はその会談である提案をしようと思う」
と言って、真っ直ぐ前を見ている。
「その提案って?」
「それは秘密さ。会談でのお楽しみ。ルクスも護衛として会談に来てもらうから、その時分かるよ」
さらっと何気なくビックリすることを言ってきた。
「ちょっと待って。俺もいくの?」
アルスはきょとんとした顔をして、
「そりゃあ、そうだろう。俺一人で敵地のど真ん中に行けるわけないだろう。本当ならセラと二人で行くつもりだったが、ルクスもいればこの作戦も上手くいくはずだ」
作戦って……俺なにも聞いてないし。
「グレイブは?」
「グレイブは一応ブランのギルドマスターだしな。俺とセラとルクスがこの国を離れた後、狙ってくる輩がいないとも限らない。その防衛にあたってもらいたい」
「私は?」
ルミナが自分で自分を指差している。
「ルクスとルミナさんには悪いが、この場所に残ってほしい。いざとなったら、グレイブとともにこの国を守ってほしい」
そう言って、アルスは頭を下げる。
「ちょっと考えさせてくれ」
俺の言葉に、その場は再び静まり返った。
幸いまだ戦争は始まっていない。ルミナと離れるのは不安があるが、わざわざ敵地にルミナを連れていって危険にさらすこともない。ロッソとアマレロも重要戦力は会談の護衛に使うはずだ。アルスも国を守ってほしいと言っていたが、恐らくその方が安全であると考えてのことだろう。
「分かった。父さんの案でいこう。ルミナ、それでいいか?」
若干不安げな顔を見せるが、
「うん、わかった。ルクス達がいない間、絶対にこの国を守ってみせるよ。だから絶対ルクスも無事に戻ってきてね」
と言って笑顔を見せてくれた。
「あぁ、安心して待ってて」




