アルスとアメリア
アルスもアメリアも普段家で見ていた姿と違って、真っ赤な煌びやかな衣装に全身を包んでおり、大きな宝石を至る所に身に着けていた。二人はまだ俺達が入ってきたことに気が付いていないようだ。
部屋にはアルスとアメリア以外はおらず人払いでもしているようだった。やがてアメリアの声が部屋中に響き渡る。
「バカアルス! なんでルクスを追い返しちゃったのよ! 折角こんなところまで来てくれたのに。あなただって会うのは数年ぶりでしょ」
「だって、こんな急に来られてこんな恰好見られて、実は王様でしたとか恥ずかしいじゃないか」
アルスがアメリアに言い寄られてオタオタ慌てている。いつも家で見ていた光景だ。隣にいる宰相に目をやると、口をポカンとあけて眺めている。きっと王のこのような姿は初めて見たのだろう。さっき王の事褒め捲っていたからな。
「恥ずかしいって……大の男が情けない。もういいわ! 私が今から追いかけてくるから」
「おい、ちょっと待って」
アメリアがアルスから視線を外し、足の向きを変えた時、ばっちりと俺と目が合った。アルスも立ち去ろうとするアメリアを止めようと手を伸ばしたところで俺達に気づいたようで、そのまま動きが止まっていた。
逆にアメリアは満面の笑みを浮かべ、俺達の下へ走ってきた。
「ルクス、来てくれたのね。私も今から迎えにいこうとしていたのよ。それにしても久しぶりね。まだ数ヵ月だけど、なんだか少し大人になったみたいね」
ひときわ明るい声で話しかけてく。よっぽど嬉しいのだろう。俺も嬉しくもあり、なんだか恥ずかしくもあった。
「母さん……久しぶり。元気そうでなによりだよ。その姿にはびっくりだけど」
「あぁ、そうよね。その話は後々ね。それよりも母さんって。前はお母さんじゃなかったかしら?」
「そ、そうだっけ? そんなのどっちでもいいじゃん」
アメリアはクスクスと笑っている。俺も顔が紅潮しているのが分かる。
「アメリアさん、あっ……アメリア王女様? ルミナです。お久しぶりです」
ルミナも嬉しそうだ。
「あら、ルミナさん。女王様なんて止めてよ。柄じゃないんだから。それよりも随分キレイになったわね。もしかして……」
アメリアは俺とルミナを交互に見る。そして何かを納得したように一人で頷いている。
「グレイブとセラもよく来てくれたわね」
アメリアが俺の後ろにいる二人に目をやる。
「まぁ、立ち話もなんだし場所を変えましょうか。後ろの玉座で固まっているアルスも連れてね。ベラール、案内してあげて。私は引きずってでもあの人を連れてくるから」
隣にいる宰相が、かしこまりましたと深々と頭を下げた。この人ベラールって名前だったんだな。
そして俺達四人は、先ほどの客間とは違い、重々しい会議室のような場所に連れていかれた。10人ほど座ることができる漆黒のテーブルが置かれている。俺とルミナが隣同士に座り、向かい側にグレイブとセラさんが座った。
ベラールは冷たい飲み物を一人一人に置き終わると、扉の前で頭を下げ、
「王と王女が来るまでしばらくお待ちください」
そう言って部屋を出て行った。四人だけになったとたん、グレイブが口を開く。
「さっきまで半信半疑だったが、本当に王子だったんだな……」
「俺もまだ信じられませんよ……」
さすがにこれまでの転生でも王族なんて経験していない。良くて貴族の下の方だ。基本的には平民ばかりだ。
セラさんも口を開く。
「まぁ、アルスとアメリアの子だったらルクス君のあの強さも納得がいくな。それはそうとルクス君が王子と分かった以上これまでのようにはいかないな。ルクス様とでも呼ばないといけませんね」
セラさんを見ると、この状況を楽しんでいるようにも見える。
「止めてくださいよ。グレイブはともかく、セラさんは今までと同じでお願いします」
「えっ? 俺はともかく?」
グレイブの動きが止まったと同時に、扉が開かれ、アメリアと首根っこを掴まれたアルスが 部屋に入ってきた。
そして俺達が座っているテーブルにコの字をつくるように並んで座った。
無言の時が流れたが、アメリアが肘でアルスをうつと、背筋をピンと伸ばし、そして頭を下げる。
「折角来てくれたのに追い返そうとしてすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ」
この国の王様……だよね?
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