アルス王
俺達は城へ入ると、アスールの宰相に案内され客間に通された。特に約束などはしておらず突然来たため、渋い顔をしていたが、王の予定の確認と謁見の許可をとってきてくれるらしい。
それなりに時間もかかるそうなので、各々で暇を潰していた。
「そういえばグレイブ、さっきの話の続きなんだけどアスール王ってどんな人なんだ?」
「もはや敬語すら使ってないよね……」
若干すねているようにも見えるが、ここは反省してもらわないとな。それにしても出会ったころは貫禄もあってオーラもあったのに今じゃ只のオジサンに見えてしまう。
「アルス王は一言で言うと自由人だな」
「自由人!?」
思わず驚いてしまった。自由とは王の職務からしたら真逆ではないだろうか。もちろん王という権力を勘違いしている駄目なやつもいるが、そういう国は決まって滅ぶ。この国の行く末に不安を覚えたところで、グレイブは話を続ける。
「王子のくせに、冒険者として旅をしていてな。俺も一緒にパーティーを組んでいたこともある」
そういえば、グレイブと一緒にSSランクの魔物を討伐したとかクレアさんがいっていたな。ランカーと肩を並べて戦えるってことは相当強いのだろう。
「なんで冒険者を? 下手したら死んでしまうんじゃ」
「だな……でも王子として城の中で暮らすだけでは国民の本当の姿は見えないって常に言ってたよ。実際に町で一緒に生活してこそ見えて来るものがあるって。冒険者をしていたのは、生活する金を稼ぐ為だろうな。実際、相当強かったから一番自分合う仕事を選んだんだろう」
なるほど……立派な王ではないか。王子という立場に慢心せず、自分の国で暮らす人々のことを此処まで考えられる人はなかなかいないだろう。
「でもそこまで自由人って感じでもないじゃないか」
「甘いな。アルス王の自由奔放振りはここからだぞ。あいつは王子という立場がありながら同じパーティーだった女と結婚したんだぞ。もちろん誰に相談するわけでもなく勝手にだ。それに加えパーティーとしてもこれからってときに子供ができたらさっさとパーティーを抜けて田舎暮らしするとか言いやがって」
グレイブは当時の事を思い出したことで怒りが込みあがっているようだ。声量も徐々に大きくなり、口調も悪くなっている。
それにしても、王子が勝手に結婚して子供つくるなんて……さすがにそこまで自由な王は見たこともないし、聞いたことがない。ということはその子供が次の王ってことか。
「まぁ、いいじゃないか。それがあったから私もお前も目指していたランカーになれたんだから」
セラさんも懐かしむように話に入ってきた。
「それがあったから、俺達も結婚したのかもしれないけど」
「そこは責任を取ってもらいたいところだな」
二人はそう言って笑い合っている。
「ということは、セラさんとグレイブも同じパーティーだったんですね。最強パーティーじゃないですか。王の結婚相手も強かったんですか?」
セラさんとグレイブは顔を見合わせ笑いながら、グレイブが答える。
「あぁ、もちろん強かった。単純な強さだけだったらランカーには及ばないが、とにかく気が強くてな。アルス王や俺は全く頭が上がらなかった。いつも何かあるたび怒られてたよ。あいつが王子だって明かした後も変わらずな。あいつもそんな所に惚れたんだろ」
「今では王妃だからな。最近まで普通に主婦をしていたらしいから、ちゃんとやれるか心配だよ」
「アメリアなら大丈夫だろ」
「「アメリア!?」」
その名前に俺とルミナが同時に反応したその時、部屋の扉が開けられ宰相が入ってきた。何やら浮かない顔をしている。
「非常に申し訳ないのですが、王は会わないそうです。今日は帰ってくれと言っておりました」
「え? なんでだ? 俺もセラもいつもはほとんど顔パスじゃないか」
断られたのは初めてのようでグレイブも戸惑っているようだ。
「王はそちらにいるルクス様とルミナ様とお会いしたくないと」
本来であれば何故? となりそうな場面だが俺にはその理由がなんとなく分かった。おそらくさっきの反応を見る限りルミナも分かっているだろう。
アルスという名前。元冒険者で、結婚して、子供が生まれて田舎で暮らしていた。それに王妃のアメリアという名前。これで俺の勘違いってことはないだろう。とてもじゃないが受け入れたくはない現実だが……ルミナが先走る。
「もしかしてルクスって王子様?」
その場にいる全員の目が俺に向けられる。
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