Alice decided
プロローグの前の話。
目が覚めて初めて見た光景は、ドーム型の巨大な天井だった。
私はアリスとして、名前の分からない男性と契約を結んでしまった。
傍から見たら、おかしな契約を結んでいたかもしれない。
何故、この世界に降り立ったか、それは、過去の自分に見切りをつけたからだ。
産まれたときから皆に突き放されてしまった。歩き始めるのも、機械を触るのも、運動するのも、勉強するのも、私は他の人より劣っていた。
私も努力したのだ。人より何万歩も多く歩いた。何百回も機械のチュートリアルを見た。沢山栄養を取った。人より何時間も勉強だってした。
そんな努力をしても、まだ半人前だった。
そしてそのまま時間が過ぎていった。その時間と比例するように、私と他人の能力差も広がっていった。
両親も私を叱責した。何故お前はこうなんだ、何故出来ないんだ。
私の努力を認めてくれなかった、私に何か異常があるのかとも思った。
それでも両親は理解してくれなかった、お前はうちの子ではない。お前は拾われた。
そんな現状に私の心はどんどん締め付けられていった。
もう死んでもいいや、そう思っていた。
だが簡単には死ねない。昔は高いところから飛び降りたり、首を縄に掛けて死ぬのが主流だったらしい。だが、今飛び降りても落下地点ではスピードは弱まり着地できる。首に縄を掛けたって縄が検知して自動的に切れちゃうんだ。どうしようもない。
じゃあ、どうやって私は生きていけばいいんだ、こんな暗くて、先のない長い世界に。
通学路。つまらない1日がまた始まる。
リニアに乗車し、学校へと向かっていった。
リニアに降り、再び学校への道を歩いていると、横の電子掲示板のポスターが変わっていた。
その1つを見てみると「50年後の日本を助けてください」というタイトルに、応募欄、さらに報酬などもあった。
これ、いいんじゃないかな。
つまらない生活に嫌気が指していた私に、強い刺激を与えてくれるかもしれない。
そんな気がして、私はその場のノリで応募してしまった。
3日後、私のもとに1通の手紙が届いた。
「50年後の日本を救う1人に、あなたが選ばれたことを報告します。」
私が、選ばれたのだ。
その夜、私は深く考えた。
こんな私が日本を救えるのか。私は酷い凡人だ。何もできないんだ。
「やってみなきゃ始まらないだろ。」
後ろにいたのは父親だった。
「お前が応募したんだろ、ちょっくら助けに行って来いよ。やらないであきらめるのか?やっぱりお前はそんな奴だったか。」
この言葉に、私の心は揺さぶられた。
そうだ、やってみなきゃ分からないんだ。こんな私でも、絶対日本を助けることが出来ないわけではない。
私は決心した。
「じゃあ行ってきます。」




