それぞれのカラオケの楽しみ方
「ハニーちゃん、この曲で歌うの何曲目?」
「えーっとね……十曲目ぐらい!」
「よく歌えるものですね」
当初は渋々カラオケ店に入ったフレンチであったが、店内が最新式かつ居心地がよかったのもあってか、彼はすぐに本来の歌が大好きな性格を発揮してヨハネスがいることも気にせずに楽しんでいた。ヨハネスの方は歌に夢中になっている彼らをよそに、部屋に設置されてあるメニュー表から軽食を選び、手当たり次第に電話をかけて注文している。
ちなみに、マイクは三本あり、順番に歌っていくことになっていたのであるが、ヨハネスはともかく、アップルは皆の歌声を行儀よく聞いているだけで、なぜか歌おうとしない。その様子を気になったハニーが訊ねる。
「どうしてアップル君は歌わないの?楽しいのに……」
「僕、歌ったらみんなに迷惑かけるから――」
彼が上目遣いで答えると、フレンチが鼻で笑った。
「大丈夫ですよ。アップル君がどんなに音痴だったとしても、僕達は決して笑いませんから」
「それは彼が音痴という前提で話を進めているね」
スフレのツッコミをスルーし、フレンチは彼にマイクを渡す。けれどこの時、ヨハネス以外は彼が何者であるかということをすっかり忘れていた。




