物置に暮らす少女リヨン
博士の家の物置には、リヨンが住んでいる。実はリヨンはオ=ルボワールの常連客のひとりであり、彼女と彼は親しくなっていたのである。
『彼女はフレンチくんとも一緒に暮らしていることだし、きっと彼の事を知っているに違いない』
彼はインターホンを鳴らして博士達が対応してくれるのも待つが、彼らは発明品を開発するのに夢中になっているのか、来客が訊ねてきた事に気づいていない。
『俺の存在はこんなにちっぽけな物だったのか……』
彼は両手と膝をついて項垂れる。穏やかな性格で人の悩み相談を聞くのが得意であったが、自分の悩みを解決するのは苦手にしていた。取りあえず気を取り直して、庭に設置されてあるリヨンの住み家に向かう。彼女が中にいると思われる物置はまさしく日本の諺の「立って一畳寝て半畳」という表現がよく似合うほど小さなものであった。
『この中に人が生活しているのかと思うと、少し寒気がしてくるな……』
彼はブルブルと身震いをして勇気を出してコンコンと物置の扉をノックした。
「どちらさまでしょうか」
中から寝ぼけまなこの顔で現れたリヨンは彼の顔を見るなり、寝起きの顔を見られた恥ずかしさからか、顔を赤らめてしまった。
「すみません、こんなみっともない顔を見せてしまいまして……今、顔を洗ってきますね」
彼女は彼を物凄い力で押しのけ、博士の家の中に入る。それから数分後、顔を洗い着かえてきた彼女の姿の美しさに彼は思わず息を飲んだ。
『どうしてこの住宅街は美形ばかりがいるんだろうか……』
その疑問は心の中に止めておき、彼はひとまず彼女にフレンチのことをきくことにした。




