知っているのに知らないふり
喫茶店の中はひっそりとしており、客がひとりもいなかった。取り合えず博士達が窓側のテーブル席に座ると、肩まであるこげ茶の金髪に藍色の瞳が印象的な穏やかな雰囲気を持つ少年店員がやってきた。彼は彼らのテーブルの前までくるとぺこりと礼儀正しくお辞儀をして、微笑みを浮かべた。
「私はこの喫茶店オ=ルボワールの店員のスフレ=プランタンと申します」
『オ=ルボワールはフランス語でごきげんようの意味。この人は最初から僕達を追い返す気なんでしょうか』
「わざわざ遠くからお越しいただき……」
『家から歩いて三百メートルしか離れていませんが』
「ところでお客様、ご注文はいかがいたしましょうか?」
『まだ来たばかりでメニューさえ開いていないんですけど』
フレンチは彼の言葉に次々に心の中で毒舌を吐く。当然のことながら、彼の思いはスフレに知られることはなかった。気を取り直し、フレンチはメニューを一通り拝見する。彼はパラパラとページをめくって呟いた。
「あの……このお店、紅茶の種類が豊富なんですね」
すると彼はパッと瞳を明るくして、
「さすがはお客様、よくお気づきになられましたね!私はコーヒーを沸かすのはあまり得意ではございませんが、紅茶の方は大得意でございます。そのため店長が気を利かせてくださいまして、紅茶のメニューを多く採用してくださったのでございます」
彼の舌をかみそうなほど丁寧な解説を聞いたのち、彼は営業スマイルで言った。
「それではコーヒーをお願いします」




