助けたお礼
幸いにも百地の家は博士の家の近所であったため、すぐに辿り着くことができた。フレンチは自分より体格で勝る彼を背負いながらも彼の家のインターホンを押した。すると、彼の妹と思わしき少女が現れた。彼女は彼の背中の上にいる兄を見るなり、彼に対し深々と頭を下げた。
「すみません、いつも兄がご迷惑をおかけして……」
最初は日頃の怨みとばかりに彼女に悪態のひとつやふたつ吐いてやろうかと考えた彼であるが、あまりに彼女が申し訳なさそうに謝るために、そのような気持ちはいつの間にかなくなってしまった。フレンチは彼を背中から下ろすと、博士の家へ帰ろうとする。すると百地の妹が彼を呼び止めた。どうかしたのだろうと思い彼が振り返ると、彼女は何やら小さな袋を彼に渡した。
「これ、私が作ったぶり大根です。もしよろしかったらどうぞ……」
『随分と純和風なものですね』
そんな事を心の中で思いながら、彼は彼女の差し出したお礼に営業スマイルで対応する。
「これはありがとうございます。美味しくいただかせてもらいますね。えっと……」
「百地牡丹と言います。フレンチさん、今日はありがとうございます」
こうして博士の家に帰ってきた彼であるが、玄関のドアを開ける最中で走り回った疲労が一気に襲ってきて、彼は家の中に入った途端倒れてしまった。




