カニクリームコロッケを巡る大人げない闘い
「博士、我儘言わないでくださいっ」
「そうだよぉ、フレンチ君の言う事聞いて、行こうよ博士」
「私は、何が何でも絶対に行かないぞ」
彼はイスに必死でしがみつき、抵抗する。
「そんな事しないで、早く行きますよっ」
「フレンチ君、頼むから私の服を掴んでいる手を離してくれないかね」
「嫌です。僕は何があっても離しませんっ」
「私の事はいいから、きみ達だけで行くんだ」
「そんな事、できるわけないでしょう!」
「いいから、行きたまえ!」
「でも――」
「ふたりで行きたまえ、歯医者さんなんて――」
「あなたの歯の磨き方を習いにいくんでしょう?」
今日は虫歯予防デー。
フレンチとハニーはしっかりと歯を磨いているため、虫歯ゼロの非常に白く美しい歯並びの歯をしていたが、博士の歯はまるで芸術品のような並び方をしているため、非常に歯磨きをしづらく、彼の歯を磨く係であるフレンチも日々悪戦苦闘している。そのため、いっその事歯医者さんに行って磨き方を教わってきたほうが早いというのである。
「近くの歯医者さんが今日は半額なんです。お得ですし、評判もいいみたいですから、言って損はありませんよ」
「しかし――」
だだをこねる博士に対し、フレンチは天使の微笑みで、
「歯医者さんに行ってくれたら、キスしてあげますよ」
「本当に!?」
「本当です」
「よし、ではすぐにでも出発しよう!」
こうして博士達三人は、近所の歯医者さんへと向かった。
将軍は、カニクリームコロッケが大好物であった。
彼は好物を買いに、家の近くを通る電車に乗って、行きつけのスーパーに向かう。
「あのクリームの味わいが実に美味な私の好物は、売り切れていないだろうか」
彼は内心ワクワクしながら、惣菜コーナーに一直線に走り、目的の品の有無を確認する。幸いな事に彼の好物は、一パックだけ残っていた。彼がホッと安堵し、買い物かごに手を伸ばしたその時、まるでカルタのように何者かの手が彼よりも先にパックを掴んだ。彼が驚愕し、その人物を見てみると、それは彼の宿敵であるジャドウ=グレイであった。
「ジャドウ、貴様……私の好物を強奪しようというのか!」
「フフフフ、生憎ここのカニクリームコロッケは俺も大好物なのでな……実に絶品だ」
彼は何の躊躇いもなく、自分の買い物かごにパックを入れる。当然の事ながら、将軍がそれを見逃すはずもなく、腰の愛剣を引き抜き、彼の喉元に突きつける。
「それを今すぐ私に寄こせ」
「断る」
「命が惜しくないのか?」
「フフフフ……俺に脅しが無駄だと言う事を、コロッケ欲しさに冷静さを失い、忘れてしまったようだな」
彼は素早くサーベルを引き抜き、彼に一太刀を浴びせる。その威力に、将軍は怯むが、闘志は燃え尽きてはいなかった。
「私はこの程度の斬撃で倒せるほど、甘い相手ではないぞ」
「そんな事は分かっている。さて……どうする?この俺とこのコロッケを賭けて刀を交えるか、それとも諦めて帰るか」
「決まっている!私は貴様から愛するカニクリームコロッケを奪還してみせるっ」
こうして、ふたりのコロッケを巡る(大人げない)闘いが始まった。
「はー、疲れた」
「歯だけに?」
「うん」
「博士のダジャレ面白―い♪」
博士達三人は、歯医者の帰りに、食料品を買うためにスーパーに寄った。
そこで彼らが目にした光景は、パック詰めのコロッケを巡って刃を交えているジャドウと将軍の姿であった。ふたりは、彼らの存在に気付くと、剣で打ち合いながらも口を開く。
「フフフフ……これは光栄ですなぁ。前回と同じシュチュエーションになるとは」
「ハニー嬢、加勢は無用。これは互いの好物を賭けた男と男の闘いなのです」
「将軍……」
「ハニー嬢、私の気持ちを汲んでくださりますかな?」
「ふたりとも、喧嘩はダメ―ッ!」
彼女はサンダーレインを炸裂させ(何回も放っているうちに、体の負担が小さくなり、威力も増していた)、ふたりを痺れさせる。
「ウオオオオオッ」
「グオオオオオオッ」
ふたりは絶叫し、気絶してしまった。ハニーは博士の持っていた買い物かごの中に喧嘩の原因となっているカニクリームコロッケを入れて言った。
「博士、コレ買ってくれないかなぁ?」
「どうしてなのかね、ハニーちゃん」
「だって、私達が買えば、喧嘩はなくなるでしょ?」
「なるほどね。ちょうどコロッケが食べたかったから、いいよ」
こうしてふたりは、ハニーに漁夫の利をされ、失意の中帰路についた。




