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発明家対決

「ワシを覚えているかのぉ、シナモン博士」


フレンチと一緒にデパートで遊んできた帰り道、彼らふたりはある人物に出くわした。それは、見事にハゲた眩しい頭に、しかめっ面、両サイドにはねた白髪と小学生ぐらいの小柄かつ肥満体の老人であった。博士は彼を見るなり、真顔で答えた。


「いや、全く」

「酷くない!?」


老人は口をあんぐりと開けて驚愕するが、気を取り直して、鋭い目をギラリと光らせ、いかにも悪の科学者と言った風の邪悪な笑みで口を開いた


「ワシはお前に三年前、ビックリ発明ショーで敗北した、ハゲピカ=チビボテ博士じゃあああああああああっ」


名前を聞くなり、フレンチは腹を抱えて大笑い。


「笑うな若造ッ」


彼はフレンチに噛みついた後、白衣の背中部分からロボットアームを出現させ、彼の両頬をつねる。


「ひたたたたた……」

「どうだ、ワシの恐ろしさが分かったか!」

「なんてことをするんだ。フレンチ君のほっぺをつねるだなんて……」

「フハハハハハ、お前がワシを舐めてかかるから助手が痛い目に合うのだ」

「博士、このアームを外してくださいよぉ」


フレンチは瞳にうっすらと涙を浮かべて懇願する。


「よし、外してやるから一回ほっぺをつねらせてくれたまえ」

「なんでそうなるの!?」


フレンチはツッコミを入れたが、それを聞いているような博士ではもちろんなく、火事場の馬鹿力で彼の頬をつねっているアームを破壊し、彼の柔らかい頬をぷにぷにと引き伸ばし始めた。


「やっぱり美少年はもち肌だよねぇ~」


彼はしばらくの間フレンチのほっぺを恍惚な表情で引き伸ばし続け、彼からビンタを食らう事でようやくつねるのをやめた。その様子をつまらなそうに眺めていたチビボテ博士であるが、ようやく本腰を入れて彼を人差し指でさした後、


「シナモン博士、ここであったが百年目……このワシと発明対決をしてもらおうか!」

「よかろう、チビボテ博士。その勝負受けて立とう!」


ふたりの博士は空中でバチバチと激しく火花を散らし、道の真ん中で突如として発明対決が開催されることになった。


「それではフレンチ君、後は頼んだよ」


彼はずいっとフレンチを前に押し出す。彼は困惑しながらも、博士に訊ねた。


「どうして僕が、あなたの代わりにあのおじいさんと発明で勝負しなければならないんですかっ」

「きみが闘った方がルックス的にもいいし、何よりこの小説の人気が上がるだろう?」

「作者が言いそうなセリフを言わないでくださいっ」

「すまないフレンチ君……」


そんなふたりのやり取りを見たチビボテ博士は、大口を開けて高らかに笑い声を上げると、


「お前が助手を使うと言うのなら、こちらも助手で対決するとしよう!」


彼が懐から取り出した何かのボタンのスイッチを押すと、驚くべき事に彼の目の前のコンクリートの床が左右に分かれ、ステージと共に何者かがせりあがってきた。

それは、茶色のクロワッサンを彷彿とさせる縦ロールに人懐っこい黒い瞳が特徴の男の娘にして、フレンチのライバルのクロワッサン天才職人少年でもある、クロワッサンだった。


「どうだ、シナモン博士。ワシは長い間説得して彼をワシの助手にする事に成功したのだ。実力は未知数だが、パン作りには奴にお前の助手は敵う訳がない!」


『確かに彼の言う通り、パン作りにかけては、彼の方が僕より一ケタも二ケタも上の実力者……相手があまりにも悪すぎるっ』


まじまじと現実を突きつけられたフレンチは、悔しそうに爪をギリッと噛む。

それを横目で見た博士は、


「赤ちゃんだった時の癖が抜けないでいるのかな。そういう所も可愛くていいね」

「余計なお世話ですっ」



クロワッサン。彼は、その名の通り、クロワッサンを作るためだけに生まれてきたような少年である。

三歳の頃からパン職人である両親の元で修行を積み、時には腕立て伏せや中国拳法、書道に柔道、合気道に空手、水泳、レスリングに器械体操、乗馬や自転車、フェンシングなども交えながら実践を積んでいき、IQを高めるために図書館にある数千冊以上の本(絵本を含む)を制覇して多読賞を貰ったり、日本へ来日し、日本語を学びながらエステやゴミ捨て、滝に打たれたり瞑想をしたりして、柔軟かつ揺るぎない穏やかな精神力を身に着けた超スゴイ少年なのである。

更に彼の全身の筋肉は美しさを保ちつつ、無駄な筋肉や脂肪を一切削ぎ落とし、生まれ持った柔軟性を養ったままそれを昇華させる事で、美、力、柔の三拍子を揃えた夢の筋肉であり、その筋肉は宇宙人であるカイザーのそれと同等の性質を持っていると言っても過言ではなかった。

それだけではなく、あのカイザーを持ってして驚愕させたのが、彼の音速を超えるスピードである。

彼は配達に便利になるからという理由で足に重石を付けて生活していた。当然の事ながら最初は満足に動く事さえできなかったが、不屈の精神力で足のバネと瞬発力を強化し、気が付いた時には、彼はガゼルと同等の速度でアフリカのサバンナを駆け抜ける事ができていたのだ。

フレンチは彼とカイザーがパン作り対決だけでなく、プロレスでも勝負をした光景をよく覚えていた。

どちらも全くの互角で二時間闘い続けた挙句、体力が限界に達したクロワッサンの失神でカイザーの勝利に終わったが、スターレスリングジムの面々は、超人キャンディーや会長の指導もなしに人間でここまで強さを発揮できる人物を初めて見て、彼らは人間に眠る無限の可能性に人類の輝かしい未来の光を見たのだった。

それだけの実力を持つ相手であるため、フレンチは九十九%敗北を覚悟して残りの一%に自分の全力をかけて見る事にした。


「まさか、いつも僕が試合を決める際に使うセリフの状況が自分に降りかかってくるなんて思いもよりませんでした……」


彼は小さく笑うと、敵を真剣な眼差しで見つめ、


「クロワッサン君、正々堂々勝負しましょう」

「……(コクリ)」


彼は無言で頷き、こうして助手同士の対決が始まろうとしていたのだが、ここでチビボテ博士は重要な事に気が付き、頭を抱えた。


「種目考えてなかったーっ!」

「ここは素直に発明対決か、パン対決にしましょうっ」


フレンチの鶴の一声により、なぜか種目は二十キロの障害物マラソンに決まった。

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