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腹が減っては戦はできぬ

ヨハネスは暇だったので、ブラブラと住宅街を散歩していた。何か自分の好奇心を満たすものはないだろうかと辺りを見渡しながら歩いていると、バス停付近で剣劇ごっこをしている大人ふたりに出くわした。


「ふたりとも何をやっているんですか?」


彼が訊ねるとジャドウは、


「見て分からぬか。俺たちは死闘をしているのだ」


「ヨハネス、ここは危険だ。離れていてもらおう!」


しかし、彼は逃げようとせず、ポップコーンとオレンジジュースを家から持ってきて、手ごろな映画とばかりにふたりの闘いを観戦し始めた。

闘いに熱を帯びたふたりは、徐々に移動していき、白昼堂々住宅街にある公園でまるで見てほしいと言わんばかりに戦いを繰り広げる。

その異様な光景に気が付いたハニーとアップル、博士とフレンチも集まってきて、ヨハネスを含めた五人の観客を相手に戦いをする羽目になってしまった事に対し、ジャドウは不満げな表情で敵に口を開く。


「俺の剣術は敵を倒すためにある。見世物などではない。トランプ手裏剣!」


彼は五十二枚のトランプを手裏剣のように敵に投げつけるが、それを全て綺麗に切断されてしまう。それを見た博士たちは手を叩いて歓声を送る。その声援に彼は、


「ならば、特別にこの技も披露してやろう」


彼は八体に分身し、敵に襲い掛かる。見事な分身術に博士は感心し、彼の事を知っているヨハネスに訊ねる。


「素晴らしい!今のどうやったかわかる?」


「蜃気楼を使ったトリックですよ。説明は面倒なので省略しますね」


「うーむ、技の仕組みはよくわからんが、とにかくすごい芸当だ」


それを聞いたフレンチは、


『わかならなったら意味ないでしょう。ヨハネス君なんかじゃなくて、僕に訊けばちゃんと解説してあげるのに……』



「闘い始めて二時間半になるが、決着がつかんとは、さすがは運転免許を持っていないジュバルツだけのことはある」


「カブト虫に負けた貴様だけには言われたくはない」


「負けたとは言っても、紙一重での敗北だ。それに奴は強かった……」


「だが、カブト虫であろう」


「俺の宿敵を罵るのは、やめてもらおう!」


激昂するジャドウの姿を見た観客たちは、全員同じ事を思っていた。


『カブト虫に負けたんだ……』


自分の屈辱を語られたジャドウは猛然と敵にサーベルを振るう。しかし、将軍も負けてはおらず、そのまま互角の勝負を演じる。

それから三十分後、フレンチが満面の笑みで博士に言った。


「博士、そろそろ僕と一緒に帰ってオフロに入りましょう」


「えっ?今のは聞き間違いかな。きみが私とオフロに入ろうって言ったような気がするんだが……」


「聞き間違いではありませんよ。さ、早く帰って、二人三脚の疲れを落としましょう!」


「夢みたいな話だよ!」


「ふたりとも待ってよぉ。私も帰る~♪」


博士とフレンチとハニーは、家に帰って行った。残る観客はヨハネスとアップルのふたりとなった。それからあまり間を置かずにヨハネスがアップルに切り出した。


「僕は食べていたポップコーンがなくなっちゃったから、帰ることにするよ。きみはどうする?」

僕はもう少しふたりの闘いを見ておくよ。やるべき事もあるから」


「やるべき事?」


ヨハネスの問いかけに、彼は笑顔で頷いた。ヨハネスが帰った後も熾烈な戦いはなおも続き、そして公園に設置されている時計が六時を回ったとたん、彼らの腹がぐうう~っと鳴ったのをアップルは聞き逃さなかった。

彼は満身創痍になっているふたりに近づき、口を開いた。


「ふたりとも、お腹空いていませんか?」


「言われてみれば、そんな気がするな。少年よ」


「私も長時間闘いすぎたようだ。今日はこれで停戦することにしよう」


「フフフフ……腹が減っては戦はできぬとは、よく言ったものだな」


「ジャドウさんにジュバルツ=ブラックロー将軍、僕の家、今日はりんごをたくさん使ったカレーなんですが、食べていきませんか」


彼の提案にふたりは顔を見合わせると、彼に口を開いた。


「「ごちそうになるとしよう!」」


アップルの好意に感謝したふたりは、しっかりカレーを食べた後、それぞれの故郷へ帰って行った。

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