幸せな勘違い
スーパーにやって来たアップルとハニーは、早速菓子を作るための材料を買う事にした。本来ならばアップルの家にある材料で十分なのだが、彼の母親がどうせ作るのなら材料から買ってきて作った方が真心がこもって美味しさも増す、とアドバイスしてくれたのだ。
「ハニーさん、買い忘れないかな?」
「えーっと卵に小麦粉、その他色々……入れていないのはりんごだけだね♪」
「りんごは家にたくさんあるから大丈夫だよ。僕の家の親戚がよく送ってくれるから食べるのがいつも大変なんだよ」
「いいなぁ、私、りんご大好き♪」
すると彼は、ポッと赤い頬を更に赤く染めて口を開いた。
「……ハニーさん実は僕、付き合っている人がいるんだ。気持ちは本当に嬉しいけど、ごめんね」
ハニーはそれを聞いてキョトンとした顔をする。
「え?私が言ったのは果物の方だよ」
「あ……こっちこそごめんね。いきなりハニーさんが告白してくるから、どうしたのかと思っちゃって」
「勘違いさせてごめんね。でも、付き合っている人がいるってほんと?」
「ほんとだよ。とっても大切な人なんだ。優しくて可愛くて……僕はその人のためだったら、死んだって構わない――それぐらい僕はその人を愛しているんだ」
「アップル君、そんなにその人の事愛してるんだ。どんな人なの?」
「ハニーさんもよく知っている人だよ」
前を歩く彼を眺めつつ、彼女は思う。
『彼がここまで愛している人って一体誰なのかな?私も知っている人って言うけど一体誰なんだろう』
アップルの思い人、それは既にこの作中に登場している人物である。
読者はそれが誰なのかを当てる事ができるだろうか?
☆
スーパーから帰ってきたアップルとハニーはふたりで協力して、見事なアップルパイふたつを焼き上げた。その綺麗な焼き上がりを見たハニーは、
「うわぁ~、これなら博士たちも絶対喜んでくれるね♪」
「そうだね。このパイは僕の目から見ても、すごく上手にできていると思うよ」
彼らは味見用にと焼いたパイを少し冷ました後、ナイフで切り取って食べてみる事にした。一口噛むとサクサクのパイ生地の触感と、まだ温かいりんごのジャムが口の中いっぱいにあふれ、幸せを作り出す。
「今まで食べたパイの中で一番美味しい!アップル君、ありがとう♪」
彼女は嬉しさのあまり、ぎゅっと彼を抱きしめた。彼はそれに愛くるしい顔を赤くしながらも、
「どういたしまして」
ふたりはこの時まだ気づいていなかった。アップルの部屋にいた将軍がいつの間にか何者かを止めるべく、決闘に向かって行ったことを。
ハニーがアップルの家から出て家に帰ると、ちょうど博士たちも汗だくで帰宅しており、おやつを食べるにはとてもいい時間帯になっていた。ましてや、それが運動をして帰ってきた後だとなおさらだ。
「「いただきま~す♪」」
声を揃えてフォークでパイを指して一口食べる。すると、そのあまりの美味しさに感動したふたりは、泣きだしてしまった。ハニーは彼らにティッシュを渡しながら感想を聞く。
「美味しい?」
「実は僕、昨日までハニーさんが料理を作るのが心配だったんですが、このアップルパイの味は少なくとも僕が作るものより数段上をいっています!」
「素晴らしい!本当に美味しいよ、ハニーちゃん。この腕前はプロ顔負けだよ!」
「エへへ。ふたりともありがとう♪」
この時ハニーは実はアップルに手伝ってもらいましたとは、言いたくても言い出せなかった。