博士の作った巨大ロボ
「フレンチ君、ついに完成したよ、私の新発明が!」
旅行から帰ってきて数日がたったある日の事、フレンチは博士の嬉しそうな声で半ば無理やり起こされた。
眠い目をこすって一階に降り、洗面台で顔を洗い、部屋に戻って服に着替えて、博士に言われるがままに外へ出た。
「うわぁ……」
普段あまり感嘆の声を上げない彼も、外に出て初めて分かる光景に、思わず自分の目を疑ってしまった。
「すごい!博士、これって、アニメとかでよく登場する巨大ロボですよね!?」
彼は今まで博士に対して抱いていた変態の感情をこの時ばかりは捨て去って、キラキラと輝く尊敬の瞳で見つめている。そんな彼を見て博士を頬を真っ赤にした。
その直後に博士がどんな発明をしたのか見ようと外に出てきたハニーも、家より大きな巨大ロボの存在には大興奮して大喜びする。
「すっご~い!巨大ロボだ~♪これに乗って悪の悪者を退治するんだねっ?」
すると博士は少し意地悪な笑みを浮かべ、
「残念だけど、この小説はコメディだからそれはないと思う」
まじまじと現実を突きつけられて、ガックリと落ち込むハニー。
落ち込んだ彼女の姿勢がなぜかスライディング土下座になっているのは、いつでもあざとさを忘れない彼女だからだろうか。
「残念だよぉ、悪者と闘いたかったなぁ……」
「いいんだよ。悪人がいないほうが平和的でいい」
博士の言葉を聞いたフレンチは、
『あなたはどちらかと言うと、変態度からして悪人に分類されるのでは……』
彼は改めて博士が制作した巨大ロボを見上げる。
それは長方形の薄い石のボディに丈夫な金属の手足と目がつき、見えるほど大きな字で『石敢當』と彫られてあった。
「これぞ私が開発したスーパーガードロボ、石敢當君だーッ!」
「「石敢當君!?」」
博士の制作したロボット石敢當君は、沖縄の家なら大体の家に設置されてある魔除けである。長方形状の石に石敢當と書いただけのものではあるが、それが魔除けには絶大な効果を発揮するらしかった。
フレンチは仮にも故郷の名門大学を卒業した天才だけあって、沖縄旅行に行く最中の車の中で、博士が事前に買っていたパンフレットを読み沖縄に関する知識を網羅していた。
「博士、せっかくの巨大ロボなんですから、乗り込めないと言うのは、ガッカリ度が半端じゃないですよ。例えるなら、人気の新作映画を見に行ったらそれがとてもつまらなかったようなものです」
「きみのガッカリ度数で言うとどれぐらいかね?」
フレンチは少しの沈黙の後、口を開く。
「八十五ぐらいでしょうか」
「百中八十五と言えば、私はきみの期待を悪い意味で相当に裏切ったことになるね。よし、ここはフレンチ君とハニーちゃんのために、搭乗用に改良する事にしよう!」
「本当ですか!?」
「本当だとも」
「うれしいよぉ、博士~♪」
「大好きですよ、博士!」
博士の返事を聞いたフレンチとハニーは彼にぎゅっと抱き着いた。
『ああ……フレンチ君とハニーちゃんの両方から同時に抱き着かれるだなんて、至福の喜びだよ』
彼は鼻血を出しそうなほどの恍惚の表情でしばらくの間喜びに浸った後、早速石敢當君の改良に取りかかった。果たして彼はふたりが喜ぶようなロボットに改良できるのであろうか。




