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沖縄旅行最終日

博士達は食事を取った後、まだ時間があると言うので、それぞれ別行動を取ることになった。フレンチと博士は本屋へ、アップルは玄関口付近にある水槽を見に、ヨハネスは案の定の食べ歩き、ハニーはこれと言って行く当てもなく、適当にブラブラと歩いていた。

すると、運の悪い事に、ガラの悪そうな不良に出くわしてしまった。なぜこんな空港などに不良がいるのか、それは作者が用意したハニーに対する試練だからに他ならない。ハニーは当初鬼ごっこでもするかのように、逃げ足で不良たちをかく乱していたが、右も左も分からない空港の事、すぐに迷子になってしまい立ち往生しているところを不良たちに囲まれてしまった。

サンダーレインを発動しようにも、人数が多くては誤射する可能性もあり、安易に放つ事はできない。


「ヒヘへへへ……可愛い子ちゃん、鬼ごっこはもうおしまいだよぉ」


「やっと追い込んだぜ、イライラさせやがる!」


「哀しいねぇ。俺たちをかく乱したのは褒めてやるけど、生憎相手が悪かったなぁ~」


「怨めしい…お前達、さっさとコイツを連れ出せ」


リーダー格らしき男が命じると、不良たち三人は一斉にハニー目がけて襲いかかってきた。もうダメだと思い彼女が目を瞑ったその時、彼女の背後から低音ボイスが響いた。


「……お前ら、お嬢さんひとり相手に大勢でかかるとはフェアじゃねぇなぁ」


その声に懐かしさを感じた彼女が振り向くと、そこには、彫りの深い顔立ちにがっちりとした体格の白いスーツに身を包んだ少年が立っていた。


剛力ごうりきくんっ!」


ハニーは少年にぴょんと抱きついた。実は彼、剛力徹ごうりきとおるは遠距離恋愛しているハニーの彼氏である。


「フフッ――お嬢さん、また会えて光栄だ」


彼はキザな笑みを浮かべハニーを後ろにかくまうと、ギラギラと野生の殺気のある瞳で敵を睨む。


「悪いことは言わねぇ。さあ、怪我しないうちに帰った帰った」


彼はまるで猫を追い払うが如くシッシッと手の甲を相手に向けて振った。

それを見た不良の一団は、


「お前、僕たちを舐めてただですむと思うなよ」


「いきなり出てきやがって…イライラするぜ!」


「なんだわけぇ、お前。ひとりで勝てると思ってるわけ?哀しいねぇ」


「怨めしい……行くぞお前ら」


不良たちはハニーと剛力をぐるりと囲むと、四方八方から攻撃を開始してきた。

剛力はわずか五秒で不良たちをパンチで倒すと、恐怖で尻餅をついたハニーに手を差し伸べ立ち上がらせる。彼女は彼の紳士的な態度に顔を赤らめつつ、彼に訊ねた。


「スーツで熱くないの?」


虚を突かれたからだろうか、予想外の質問に彼は思案する。そして歩きながら言った。


「お嬢さん、そこの見巣怒ミスドでドーナツでも食べませんか。俺がおごってあげますよ」


彼からハニーをデートに誘うのは非常に稀であったため彼女は驚愕したものの、顔いっぱいに笑みを浮かべ大きく頷いた。ハニーはかなりの甘党である。それを知っていた剛力の話題を変える作戦勝ちと言った方がいいだろうか。

やはり人気のドーナツ店だけあって、作者も客を抑えきれなかったのか、かなりの客が店の中でドーナツやコーヒーを飲んでいた。彼らはドーナツを取り、席につく。ハニーはドーナツを食べながら、彼と雑談する事にした。


「剛力君はどうして沖縄にやって来たの?」


「ちょっとした羽休め、バカンスですよ。真夏の熱い太陽に熱い海、そして大らかで優しい人々、俺は沖縄が大好きで、よく休暇に来るんですよ」


「すご~い!剛力君ってお金持ちなんだねっ♪」


そう言われて、彼はニヒルに微笑むしかなかった。

彼が沖縄に来た本当の理由、それはたまたま商店街の福引券で当たったからなのだが、それだけはキザな彼の事、口が裂けても言えるはずがなかった。



ハニーが剛力との雑談に花咲かせている頃、博士とフレンチは本屋で本を読んでいた。ちなみに、博士は児童書コーナー、フレンチがまず子供が行きそうにない活字だらけの書籍コーナーで本を読んでいる。しばらくして、博士がフレンチのいる場所へ行き、彼の肩を叩いた。


「やっぱり本屋さんはいいねぇ、フレンチ君」


「博士はどんな本を買う予定なんですか?」


彼が訊ねると、博士はナスの絵が書かれている一冊の絵本を見せて、


「この本を買おうと思ってさ」


「博士は絵本ですか。僕はこれを買う予定です」


彼が博士に見せた本はあの闇野髑髏が書いたと言う『人は顔で決まらない』というタイトルだった。


「まだ中身はそこまで読んではいませんが、ルックスに自信のない彼が書いているだけあって、すごい説得力ですよ」


「それは嫌味という奴ではないかな」


「アハハハッ、嫌味だなんて、博士も面白いこと言いますね」


本を買ったふたりは早速待ち合わせ場所に行こうかと思ったが、フレンチが急にもじもじし始めた。


「どうかしたのかね?」


「僕、ちょっとおトイレ行ってきます」


「じゃあ、私も」


「ついて来ないでください」


「なんで!?」


フレンチは「ハァ」とわざとらしく大げさにため息をついて、


「そんなの、あなたが変態だからに決まっているじゃないですか」


「そんな冷たいこと言わずに……私の可愛いフレンチきゅ~ん♪」


「キモイッ!」



「おっと、そろそろ待ち合わせの時間だ」


ハニーと会話をしていた剛力は時計を確認すると立ち上がり、


「お嬢さん、楽しい時間をありがとうございます。そうだ、これは噂で聞いたんだが、お嬢さんたちを闇野髑髏と言う男が探しているらしい。何かあるかも知れないから、警戒しておくといいだろう」


彼はハニーと握手をして、会計を済ませた後、ゆっくりと空港の玄関口まで歩いていく。彼女は慌てて彼の後を追いかけ、声をかけた。


「待って、剛力君!」


「……お嬢さん」


「また会える?」


ハニーは瞳に涙を浮かべ、彼に訊ねる。すると彼は彼女に近づいていき、彼女の背中をポンッと押して、


「また会える事を祈っていますよ、お嬢さん。それじゃあ」


キザなセリフを吐いて、白いスーツを太陽の光で輝かせながら、彼は振り向かずに歩き続ける。


「剛力君……剛力君!」


出入り口の近くにある水槽をアップルが見ていたが、彼女は気づいていなかった。今の彼女の瞳に映っているのは去って行く彼氏の姿だけだ。彼女はわき目もふらずに彼を全力疾走で追いかけるが、それよりも早く自動ドアは閉まり、彼は前に停車していたタクシーに乗って、どこかへと行ってしまった。次第に遠くへ行ってしまうタクシーを眺めながら、彼女は心の中でまた会えるようにと祈っていた。



アップルは水槽の魚を見て大満足した後、待合いの席でお行儀よく座っていた。

スナックを食べる訳でもなく、ゲームをする訳でもなく、携帯をいじるわけでもない。彼はポ~ッとした雰囲気の中、ただ座ってみんなが来るのを待っていた。

すると、先ほど剛力を追いかけて行ったハニーが戻ってきた。彼は彼女の名前を呼んで、空いている隣の席に座るよう勧めた。彼女は座ったのはいいが、彼と何を話していいのかサッパリ思い浮かばない。ここは取りあえず、特技はなんだろうか訊ねて見る事にした。


「僕の特技?僕は、歌が得意なんだ」


「アップル君、声透き通っていて綺麗だもんね。ねぇ、少し歌ってみてくれないかな?」


「いいよ」


彼はイスから立ち上がると、着ている赤のブレザーの腰の右ポケットからマイクを取り出し歌い始めた。彼は日本の子ども向けのアニメのファンのようで、それらのアニメソングを歌うと子どもたちが彼の元へと群がってきた。

子どもたちに釣られて大人たちもあまりの美声に聞き入っており、その澄んだ歌声は空港中に響き、博士やフレンチ、ヨハネスの耳にも入ったようで、その声に引き寄せられるように彼らはハニーたちのいる場所へとやって来た。

それを確認したアップルは彼らにウィンクをひとつする。

すると、本日三度目となる奇跡が起こった。

それはヨハネスの前にグランドピアノが現れ、フレンチの前に彼の愛用のフルート、博士の右手にはいつの間にか指揮棒が握られているというもので、これが何を意味するかをすぐに悟った博士は、早速大勢の人々に呼びかけた。


「最初で最後のステージをどうぞ皆様お楽しみください!」


それから二時間、オペラ歌手も真っ青なアップルの美声、ウィーン合奏団で鍛えたフレンチのフルートの音色に、祖父から教えられたと言うヨハネスのピアノ伴奏、博士の巧みな指揮とハニーの愛くるしいダンスがコラボレーションしたこれ以上ないステージを、飛行場にいる人たちは味わった。


そして後日――家に帰った博士たちは、自分たちの活躍が沖縄の新聞に載った事を知るのであった。

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