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アップルくん

おかしな騒動の後、博士は昨日と同じく海に行こうと言った。もちろん皆賛成し、今度はフレンチを入れての四人で海水浴を楽しむことになった。しかし、彼らが昨日来たビーチに行ってみると、人が全くいなかった。


「昨日はあんなに人がいたのにどうしたんでしょう?」


ヨハネスが不思議そうにキョロキョロあたりを見渡して、ある事に気が付いた。


「みなさん、アレを見てください!」


彼が指さした方向を見てみると、そこには百人を超える人だかりが何かを囲むようにして集まっていた。すると、その集団から目がくらむほどの輝きを放つ何者かが現れた。

太陽の影響もあってか、あまりにも光り輝くそれは、ゆっくりとヨハネスたちに向かって歩き出した。謎の人物から放たれる光のあまりの眩しさに、彼らはおちおち目を開ける事もできないでいる。


「ヨハネス君?それに、フレンチ君にハニーさんも、久しぶりだね」


まるで天使の声と言うほど凛と澄んだ美しいボーイソプラノの声が彼らの名を呼んだ。声の主はどうやら、彼らの知り合いらしい。次第に目が慣れてきたヨハネスたちは、徐々に光の中にいる人物の姿を見る事ができた。

それは、太陽にあたりキラキラと輝く糸のように細く柔らかい金髪のおかっぱの髪、コバルトブルーの切れ長の瞳に少女のようにカールした見事な逆さまつ毛、すっと整った鼻にリンゴのような頬――ヨハネスやフレンチが霞んで見えるほどの愛くるしい容姿の少年だった。その別次元の愛くるしさ、美しさに博士は声も出ず、これ以上ないほど大きく目を見開き、彼を見つめている。


「きみは――人間かね?」


少年はコクリと頷き、彼に微笑みかける。彼の嘘偽りのない心からの喜びの笑みを見た博士は、自分の今まで抱いていた変態な欲望の全てが浄化されていくように感じた。


「僕はアップル=ガブリエルと言います。ヨハネス君の親友です」


アップル=ガブリエル。彼はヨハネスの親友で、そのあまりにも愛くるしい容姿と性格のため、アムールと言う愛称で親しまれていた。

アムールは恋の女神と言う意味で、彼に会った人は誰しも彼を好きになる様子から名づけられた。彼の愛されぶりは文字通り別次元で、通っていた中学では男女問わず全学年の生徒が愛していたと言うのだから、彼がどれだけ人を惹きつける力を持っているかがよく分かる。そして飛び級で中学を卒業した最近は、愛されるあまり、とうとう後光を発するまでになってしまった。

更に今の彼は水着姿であるため、より一層後光の力は増しており、ヨハネスたちはまともに目を開ける事さえままならない。


「その光、なんとかならないの?」


彼が訊ねると、「ごめんね」と言う声と共にフッと後光が消え、改めてアップルがその全貌を露わにした。後光が消えたのもあって、その愛くるしさがどれほどのものなのか改めてよくわかる。


「きみは、いつみても可愛いね」


「えへへ、ありがとう」


ハニーはヨハネスにどうして今まで自分の事を可愛いと言ってくれなかったのか疑問に思っていたが、彼を目の前にしては、自分の可愛さに自信があるハニーも負けを認める事しかできなかった。最も彼と比べると言うのがあまりにも酷な話ではあるのだが。一方フレンチはこんな事を心の中で思っていた。


『後光って、つけたり消したりできるものなんだ……』



しばらく海で泳いだヨハネスは一休みしようとビーチパラソルを立てて、デッキチェアに腰かけのんびり昼寝をしている博士に問いかけた。


「あの、デッキチェアってそれしかないんですか?」


「いや、あるよ」


彼はシルクハットを脱いで逆さにすると驚くべきことに、そこからデッキチェアを取り出した。彼は取り出したデッキチェアを自分の隣に並べると、彼にかけるように勧める。彼は先ほどの博士の取った行動に少し冷や汗を流しながらも、デッキチェアに腰かけ、彼に言った。


「あなたは先ほどもジャドウさんを追いかけすのに協力してくださいましたので、約束でもありますし、お礼をしなくちゃいけませんね」


彼は立ちあがり、博士の顔を覗き込むと、その唇にチュッとキスをした。彼はうっとりとした表情になり、ヨハネスを見つめ、


「最高……甘くて柔らかくてこんなに美味しいキスは初めてだよ」


「喜んで貰えて、僕も嬉しいです」


「今度は私の方からキスしてもいい?」


その刹那、彼はガバッとデッキチェアから起き上がり、水着姿のヨハネスをぎゅっと抱きしめ、彼の唇を奪おうとする。


「ヨハネス君、危ないッ!」


いつもは絶対に味方をしないフレンチが、咄嗟にバレーボールの要領でビーチボールを博士に向かって飛ばした。横からの不意打ちに反応できなかった博士はまともにそれを食らいダウン。

目を回して倒れた博士を寝かしつつ、ヨハネスはフレンチに訊ねた。


「どうして、いつもは絶対に助けないはずのきみが助けたの?」


「分かりません。でも、気づいていたら体が勝手に動いていたんです」


「ウフフッ、きみらしい誤魔化し方だね」


クスクスと笑うヨハネスに顔を赤くしたフレンチは、こんな事を口にした。


「僕、ツンデレですから」

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