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フレンチの師匠登場

翌日の早朝、すっかり風邪も治り元気になったフレンチは、朝の新鮮で美味しい空気を浴びようと、ホテルの外をランニングしようと考えた。

時刻は午前六時、後一時間で朝食であるが、博士たちは昨日夜更かししてテレビを見たりお菓子を食べて雑談していたため、まだ起きてこない。


「全く、彼らには毎度のことながら呆れてしまいますね」


昨日、彼はコッペパンを食べている姿を爆笑された事もあってか、そう毒を吐いて、博士が起きて来ないように細心の注意を払いながら、パジャマから、ノースリーブ、半ズボンにスニーカーといういかにも夏らしい恰好に着替えると外に出た。


「ん~、やっぱり朝の空気は気持ちがいいですねぇ」


冷たい朝の空気を思いっきり吸い込んで、タッタッタと軽快な足音を立ててランニングをしていると、とある人物に出くわしてしまった。

その人物を見た瞬間、彼の全身から一気に血の気が引き、鳥肌が立つ。彼が出くわした人物――それは、茶色の長髪、猛禽類のように殺気だった瞳、端正ながらも般若のように恐ろしい形相、百九十センチを超える長身に引き締まった体つきの半裸と明細色のズボンが特徴の若い男。フレンチがこれらの特徴から導き出される人物はひとりしかいない。スターレスリングジムにおいて最強の実力を誇る三人の師匠クラスの人物にして、彼の師匠でもある明王こと不動仁王ふどうにおうだった。


「フレンチ、久しぶりだな」


彼は凍てつくような凶悪顔で彼を睨み、片頬だけを上げてニヒルな笑みを浮かべた。


「そ…そうですね、不動さん。で、でも、どうしてあなたがこ、こんなところに……?」


フレンチはあまりに突然の彼の登場に、瞳孔は見開き、ひきつった笑みで、冷や汗を流し、足はまるで生まれたての小鹿のようにガクガクと震えていた。


「そうびくつくな。俺が来た理由はゲスト出演……じゃなかった、八つ当たりだ」


「はいっ!?」


彼の意味不明な回答に、彼は思わず聞き返した。すると彼はその瞳の殺気を更に強め、


「俺はついさっき、故郷のエデン星ではらわたが煮えくり返るほどイライラする事があった。だからその不満のはけ口として、この地球に八つ当たりしに来た」


「なんですか、そのはた迷惑な回答は!?」


「黙れ。俺はとにかく、お前を往生させてるッ!」


彼は剛腕を振り上げ拳で地面を殴ると、コンクリートの地面にバリバリと亀裂が走り、巨大なクレーターを形成した。



いびきは、隣で眠っている人にとっては、迷惑なものである。そして、ここにも、いびきの被害で悩んでいる人がいた。


「ぐがごーす、ぐがごーす……」


「……」


「ぐがごーす、ぐがごーす」


「……」


「ぐがごーす、ぐがごーす……」


『ヨハネス君のいびき、うるさいよぉ』


ハニーは隣で一緒に眠っていたヨハネスのいびきがあまりにもうるさいので、寝苦しく、目を覚ましてしまった。時刻は午前六時三十分。そろそろ朝食に出かけた方がいい時刻だろう。

ハニーはヨハネスをゆすって起こそうとするが、なかなか起きてくれない。何か方法はないかと考えて、彼女は彼の餅のような両頬を引っ張り伸ばしてみる事にした。彼の肌は予想以上に柔らかく弾力があるようで、伸びる伸びる、まさにもち肌と言う表現に相応しい肌だった。彼女はヨハネスのもち肌が気に入ったのか、歌を歌いながら彼の頬で遊んでいたが、不意に彼がパチッと目を開けたので、彼女は仰天し飛び上がった。彼は不機嫌そうな顔で自分の両頬をさすり、言った。


「僕、ほっぺ伸ばされるの好きじゃないんです」


「ご、ごめんね……」


取りあえず彼女が謝ると彼は手を振って、


「い、いえ……そこまで気にしなくてもいいですよ。起こしてくださってありがとうございます。ところで、博士はまだ起きないんですか」


「うん…」


「そういえば、フレンチ君はどこへ行っちゃったんでしょう?」


彼がハニーに訊ねたその刹那、凄まじい轟音が窓の方から響いてきた。驚いたふたりは窓を開けてバルコニーに出て、下を覗いてみると、まるで隕石でも落下したかのようなクレーターがいくつも出来上がっていた。

これは一体どういう事なのだろう。ふたりは顔を見合わせていると、あるひとりの人物が脳内に思い浮かんできた。


「「不動さん!」」


「……な訳ないですよね」


「そうだね♪」


彼らは即座にエデン星に帰った不動が地球に戻ってくるわけがないと考えを改め、ふたり揃って幻覚でも見たんだろうと言う結論に達し、博士を起こした後、三人揃ってホテル内にあるレストランで朝食を取る事にした。

昨日と同じようにヨハネスは大量の食事を瞬く間に平らげると、食後のコーヒーを入れて席に戻ってきた。すると、それを見た博士は、


「ヨハネス君すごいねぇ、コーヒーが飲めるだなんて」


「博士は飲めないんですか」


「私はココア派なんだ」


よく見ると彼はミルクココアをカップに注いで優雅に飲んでいる。ハニーはオレンジジュースをストローでチューチューと美味しそうに飲んでいた。しばらく彼らは、お互いの飲み物に夢中で沈黙していたが、ここで博士が口を開いた。


「ヨハネス君、今になって気づいたんだけど、男の子とは思えないほどすっごく可愛い顔しているねぇ。キスしたいぐらいだよ」


「よかった。僕が男である事に気づいたんですね」


「そうだよ。だって、こんなに可愛い子が女の子な訳ないじゃないか」


その言葉を聞いて、ハニーはショックを受け、こんな事を思った。


『それじゃあ、私の立場は一体どうなっちゃうのかな?』


しかしながら、元々明るい思考の持ち主でくよくよ考えるのが好きではない彼女は、博士が言った言葉をすぐに忘れ、甘くて美味しいケーキを食べ始めた。彼女の頭の中はお花畑であった。


「おいしーい!ケーキはやっぱりいいなぁ♪」


「僕もケーキ大好きです!一口いただいてもよろしいですか?」


彼女とヨハネスと博士は結局レストランのケーキ類を全制覇してしまった。

博士とハニーはお腹が満たされ満足したので今度は目の栄養にと、窓から景色を眺めようと窓を見た瞬間、あまりの事にふたりとも唖然としてしまった。

なぜなら彼らが見たものは、不動に追い掛け回され、大粒の涙を流して逃げまどうフレンチの姿だったのだから。

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