ぜんざい屋さんでの噂話
彼は沖縄に何度か来たことがあるのだろうか、おすすめのお店を紹介してくれた。それは、テーブル席がいくつか並び、三十人ほど座ることができる中型の店舗だった。ちなみに今は、昼食時間と言うこともあってか、あまり客は入っていない。
「僕は氷ぜんざいを注文しますが、おふたりは何にしますか?」
ヨハネスに訊ねられてふたりは困惑した。それもそのはず、この店のメニューは氷ぜんざいしかないのだから。
「じゃあ、私は氷ぜんざいにするよ」
「私もそれにしよう」
ふたりはどうして他のメニューがないのだろうかと少し疑問に思いつつも、ヨハネスに言った。彼はニコッと微笑み、食券を買うと、それを店員に渡し、元の席につくと口を開いた。
「博士、実は海水浴の間ずっと気になっていたんですが」
「何かね、ヨハネスくん」
「どうしてあなたは僕の容姿にメロメロにならなかったのかなと思いまして……」
彼の疑問は当然のことだった。ショタコンである博士が男の娘であるヨハネスの水着姿に興奮しないわけがない、それなのに彼はなぜか興奮しなかった。それがヨハネスは疑問に感じていたのだ。すると彼は、ごく当たり前と言った風に高笑いして言った。
「だって、きみは女の子だろう?」
「……そ、そうですね……アハハハッ…」
ヨハネスはこの時ほど内心傷ついた事はなかった。
傷ついたヨハネスはその傷を癒すべく、話題を変える事にした。
「博士って、女の子には親切ですよね」
「おや、きみはどうやら私の事をよく見ているようだね」
博士は彼の言葉を聞いて上機嫌な笑みを浮かべる。
ヨハネスはビーチでの博士と自分に対する紳士的な態度に、彼が変態になるのは美少年だけだと言うことを見抜いていた。
「私は女性を大切にするべきものだと考えているから、とにかく女性には気を使って疲れてしまうのだよ。私が美少年を愛する理由もそこに含まれている」
「なるほど。同性同士だと気を楽にできると言うわけですね」
「その通り。よく分かっているね。さすがはヨハネス君だ」
「いえ、それほどでも」
「ハハハハハ!謙遜しないでもいいよ。きみはフレンチ君と違って素直で穏やかでいい子だね。顔もなんだか彼より可愛い気がするよ」
「フレンチ君には言わない方がいいとおもうな。傷ついちゃうはずだから」
ハニーが苦笑いすると博士は、
「言われてみればその通りだね、ハハハハハ!」
同時刻、フレンチはくしゅんと可愛くくしゃみをひとつして呟いた。
「どうやら誰かが、僕の噂話をしているようです……」




