観察日記
フレンチは昨日体を拭かない上に裸同然の恰好で歩いていただけあって、風邪を引いてしまった。顔を赤らめ、瞳は少し虚ろになり、元気がない。博士は彼の額に手を当てて言った。
「かなり熱があるね。可哀想に、今日は海に行って泳ぎに行った後、みんなでバーベキューをしようかと思ったのに、この熱じゃお留守番だね」
「本当、可哀想ですよね」
「ほんとだねぇ」
「いや~、しかし本当に残念なものだよ、きみだけお留守番とは……でも、仕方がないね」
博士は昨日彼がキスを冷たく断ったのを根に持っているのか、わざと嫌味な口調で言った。このあたりに、彼の意地悪な本性が見え隠れしている。フレンチはそっぽを向いて、顔を見られないようにしながら、ギリッと歯を強く食いしばり、毒を吐きたいのを堪える。
もしこの風邪の原因が自業自得であったものでなければ、恐らく彼も博士と同じ事をしたに違いなかった。
「フレンチ君の水着姿見たかったんだけどなァ。風邪を引いてしまったのだから仕方ないね」
『いちいちキモイッ!』
彼は心の中で毒を吐きつつ、彼らが部屋を出て行くのを待った。
そして出て行ったのを確認すると、マクラの下からおもむろに昨日博士のカバンの中から見つけた一冊のノートを取り出した。それは―
「『フレンチ観察日記』……これに一体どんな僕の秘密が書かれているのでしょうか。ここは怪我の功名としてじっくり読ませていただきます」
彼はクスリと微笑むと、早速日記を読み始めた。その日記には、どんな事が書かれているのだろうか。彼は一ページ目を開けて読んでみる事にした。
そこには、こんな事が書かれてあった。
○月×日晴れ
今日も私のフレンチ君は美しい
まるで銀河の星のようにキラキラと輝く青い瞳を見ていると、日頃の疲れも吹き飛ぶ。
『あなたは年中暇ですから、癒されっぱなしでしょう』
彼は心の中でツッコミを入れながら、次を読み進める。
彼のふっくらとして色気づいたほんのりと赤い唇を見る度に、私は頭を抱え込む。ああ、どうしてきみは、こんなにも可愛いのだろうか。
料理のフルコースで例えるならば、まるでデザートと言えるだろう。
私の愛しのあの子は、口の端についたケーキのクリームをキスでふき取ってあげたいと思う、今日この頃。
『キスをする口実で、僕にシュークリームを食べさせようとする魂胆がキモイッ!』
彼は再びツッコミを入れてゴロンとベッドに大の字になってため息をついた。
「博士は――僕を本当に愛してくれているのでしょうか」
ここに来て、ついにフレンチと博士の恋愛フラグは回収されてしまうのだろうか。