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のぼせたフレンチ

少年は闇に落ちた。深い深い闇に落ちた。


「ウフフフ、ウフフフ……ッ」


この世には闇落ちと呼ばれる現象がある。そしてここにも、闇落ちした少年がいた。フレンチは今、腰にタオルを巻いただけの裸同然の恰好でホテルを歩いている。当然、このことを博士は知らない。

フレンチは温泉に浸かっている時に、ヨハネスの鼻を明かすには、自分の容姿の美しさで勝負するしかないと悟ると同時に、この世は容姿こそが全てだと言う歪んだ思考になり、闇落のぼせてちしてまったのだ。彼が歩くところ、老若男女問わず、鼻血の海ができた。彼の容姿のあまりの美しさに皆が見とれ、誰も彼を注意する事などできない。まさに今の彼は天使の顔をした悪魔と言う表現がこれ以上ないほどピッタリであった。


『ああ……みんなが美しい僕に見惚れて血の海に沈んでいく……なんていい気分なんだろう』


彼はすっかり自己陶酔してしまい、通路にある窓ガラスに映る自分の細身で華奢な容姿を見て、美しい微笑みを浮かべる。

彼は完全に悪魔に心を売ってしまったのだろうか。

そして今、彼の凍てついた心を救えるのは、博士達三人しかいないのである。果たして彼らは闇落のぼせたちフレンチを救う事ができるのか。


「フレンチ君、遅いね」


パジャマに着替えたハニーが口を押えてあくびをした。時刻は夜十時。

既に博士が浴場から上がってきて、一時間が経過していた。


「僕もそろそろ眠たいですね」


ヨハネスも次第にうつらうつらし始めてきた。しかし、博士はフレンチの事が心配で仕方がなかった。


「彼、大丈夫だろうか。もしかして、浴場でのぼせて倒れているんじゃ――」


「フレンチ君の場合、長風呂が癖になっていますから、その心配はないでしょう。一応念のために訊きますが、彼に何か変化はありませんでしたか?」


博士は腕を組んで考え込み、やがてゆっくりと口を開いた。


「そういえば、若干口が悪くなっていたような……」


するとそれを聞いたヨハネスは、ガバッとベッドから立ち上がり、


「ハニーさん、博士、急がないとフレンチ君が危険です!」


先ほどまで冷静だった彼のただ事ではない様子に彼らは戸惑いながらも、浴衣姿で廊下を走り渡るヨハネスを必死で追いかけた。一体、彼は博士の言葉に何を感じたと言うのだろうか。



「フレンチ君、どうしてこんな事を!?」


「ウフフッ、僕は分かってしまったんですよ。可愛さこそこの世の全てだってね」


「そんな事ないっ、フレンチ君は――きみは間違ってるよっ!」


ハニーが強く言い返すが、フレンチは意に返さない。


「もう、僕を放っておいてください」


「そんな事できないっ!」


「どうして!?」


フレンチがハニーに詰め寄ると、彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。


「だって――フレンチ君の恰好が変態だから」


腰にタオルを巻いて、体から水を垂らしながら歩く彼は、ハニーにとっては変態にしか見えなかった。その言葉にダメージを受けたブラックフレンチは、二、三歩後退する。


「僕の美貌が効果がないなんてあり得ない。僕は――僕の容姿は世界最強なんだーっ」


彼は裸同然の姿でハニーに突進していく。彼女はここで、正真正銘の奥の手を発動する体勢に入った。


「フレンチ君、『ハニーじゃんけん』しよう♪」


その刹那、彼の血の気がサーッと引いて青い顔になると、彼女に頭を下げて、


「僕が悪かったです!」


あまりにあっけなくフレンチが降参したので、ヨハネスと博士はポカンとしていた。後でハニーが言うには『ハニーじゃんけん』とは、彼女の必殺技のひとつで、じゃんけんをして彼女がグーで勝ったら岩石落とし、チョキなら巨大なハサミで首チョンパ、パーなら体が爆散してしまうと言う可愛さの中に最強の恐怖を秘めた技である事が判明し、博士はより一層、この美少女を怒らせてはいけないと肝に銘じた。

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