浴場でのひと時
しばらくして目が覚めたふたりに、博士は訊ねた。
「きみたちは、一体どうしてこんなに仲が悪いのかね。可愛いのに」
「最後の一言は余計ですが……実は二か月前に、彼を僕の家に招待した際、彼が僕の分のプリンを勝手に食べちゃったんです。それ以来、彼と仲良くしないでおこうと思ったんです」
「たかがプリンぐらいで、きみは本当に子どもだね」
「確かにきみにとってはたかがプリンかもしれませんが、僕にとってはされどプリンなんです」
「ふたりとも喧嘩はダメ―ッ!」
再びハニーが割って入ったので、彼らは電撃を食らわないようにと、表面だけ笑顔を保ち、握手をした。
「まあなんにせよふたりのいがみ合いの原因が分かったし、ここは解決したと言うことで、温泉に行こうではないか」
博士の提案に賛成した三人は、彼と一緒に大浴場へと向かった。
この時彼らは、博士が実に変態な欲望に取りつかれている事をまだ気づいてはない。博士は歩きながら、こんな事を考えていた。
『ヨハネス君とフレンチ君と温泉に入れるだなんて夢のようだ。夢のようなひと時を楽しむためにも、何としても彼らに気づかれてはいけない。平静を保たねば!』
果たして、彼と一緒に温泉に浸かる彼らの運命はいかに。
大浴場に向かった四人は、それぞれ男湯と女湯に分かれて、一時間ほどで出る事にした。ハニーは早速女湯に行ったが、ヨハネスは男湯と女湯の間で迷っているようだ。
「ヨハネス君、どうかしたのかね?」
「僕、ハニーさんと一緒で性転換できるんです。だからどちらにしようかと思って……」
「「そうなの!?」」
「そうなんです」
驚愕するふたりを尻目に、彼は女湯に入っていった。
「……僕たちもそろそろ入りますか」
「そうだね」
ふたりは脱衣所に着き、服を脱ぎ、大浴場へと入っていった。
フレンチは服を脱いだこともあってか色気が数段増しているようで、その上半身裸に腰にタオルを巻いたその姿に、博士は思わず鼻血が出そうになった。
温泉の中にはなぜか、月桃の葉が浮いており、沖縄らしさを感じられる。温泉に浸かって数分が経つと、フレンチの額や鎖骨にうっすらと汗が浮かんできており、博士はそれに呼吸を荒くし始めた。
「フレンチ君、キスしてもいい?」
彼はニコリと微笑んで、
「殺しますよ?」
「うん……なんかごめん……」
天使の微笑みの中に悪魔のように冷酷な彼の瞳を見た彼は、謝る事しかできなかった。博士はこれ以上彼を怒らせるのは禁物だと考えて、先に上がる事にした。
その直後、彼はフレンチのとんでもない秘密を知ることになるとは思いもよらなかった。