ふたりの因縁
「僕は観光で来たんだ。きみもハニーさんとそっちのおじさんと一緒に観光しに来たの?」
金髪をツインテールにして、猫のようなアーモンド形の緑の瞳と茶色の探偵帽子にインバネスコート、ぴちぴちした柔らかいもち肌が特徴の男の娘、ヨハネスはニコニコと微笑みながら、大きな瞳をキラキラと輝かせて、顎に手を当て考える仕草をする。
「面白いね。きみがどうして僕にだけは冷たく接するのか、気になるよ。さっきから僕の顔を見ようとしないところを見ると、きみは僕にかなりの苦手意識を感じているみたいだね」
「少し黙っていてくれませんか。食事がマズくなります」
「僕はただ、きみがどうしていつも僕をこんなに嫌っているのか気になるだけだよ。それに僕が話しているぐらいで料理の味が変わるなんてあり得ないよ」
「……」
「もしかして、あの日の事まだ怒ってるの?二か月前の事なのに。きみもまだまだ子どもだなぁ」
彼は怒りが限界に来たフレンチは、ガタンと音を立てて立ちあがり、ヨハネスに近づくと、天使の微笑みを浮かべ、
「もう僕に二度と口を聞かないでください、この大食ぐらい!」
「それをきみに言って欲しくなかったよ……ナルシスト気味のフレンチ君」
ふたりは空中で激しくバチバチと火花を散らす。
その様子を先ほどから無言で眺めていたハニーと博士は、
「ハニーちゃん、なんだか私たち、忘れられているようだね」
「この場はふたりの好きなようにさせておいて、デザートでも取りに行こうよ♪」
「それがいいかも知れないね」
ところが、ふたりが帰ってきても彼らは口喧嘩を続けていた。
そしてフレンチとヨハネスはとうとうお互いの頬をひっぱたき始めた。
美しいお互いの顔を叩き続ける様は、傍から見ればサル同士の喧嘩に見える。
ふたりの様子を静観していたハニーだが、さすがに止めないといけないと感じたのだろう、ふたりの間に割って入り、
「ふたりとも、他のお客さんも迷惑するからやめて……」
しかし、ふたりの耳には届かない。彼女を押しのけ、なおも相手をはたき続ける。
口で言うだけではもはや効果なしと判断したハニーは、ついに奥の手である両掌から強力な電撃を発射し、ふたりに浴びせた。
「サンダァーレィイン!」
「「ギャアアアァッ」」
ふたりは電気にビリビリと痺れ、失神してしまった。
「博士、可愛いは必ず勝つんだよ♪」
彼女はニコッと笑ってVサインをした。すると今度は黄色のエネルギー光線が放たれ、レストランの床を焦がしてしまった。
「はわわ……私、またやっちゃった!」
彼女は頭を抱えてオロオロした。博士はこの時、可愛いながらも驚異的な力を持つハニーに内心恐怖を覚えた。
「取りあえず、ふたりを私たちの部屋に連れて行こうか。幸い床の焦げは大した事ないから払う金額も少しで済みそうだからね」
「う、うん……」
この後、床の焦げは事故として処理され、ハニーは怒られるどころか、ふたりの争いを止めてくれたとしてホテルの従業員に感謝される事になった。