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フレンチの動揺

「……まさか、ハニー君が女の子だっただなんて……」


その事実を知った博士は愕然とし、顔にはこれまでにないほどの憂いが出ている。それを見たフレンチは、少し心が痛み、彼をフォローしてあげたい気持ちになった。


「落ち込まないでください。あなたが落ち込むと、僕も悲しくなります」


「確かにそうかも知れないね。じゃあ、気分転換に沖縄にでも旅行に行こう!」


「沖縄旅行ですか?」


「そう!沖縄に一度行ってみたいと思っていたからね」


彼は博士の立ち直りの速さと実行力の速さに驚愕した。

彼は色々とコネがあるらしく、それを利用して沖縄行きの航空券を格安で手に入れ、フレンチの母を説得し、彼の急な思い付きではあるが、『ハニーちゃん女体化記念沖縄旅行』と銘打った旅に出発する事になった。ハニーと一緒に後部座席に乗り、博士の運転する車は空港へ向かった。

窓に映る景色を見ながらフレンチは考える。


『今ここで僕が行きたくないと言ったら逆に博士を落ち込ませるだけ……ここは元気に振る舞わねば!』



人は誰しも苦手なものがある。

そしてそれを克服するためには大変な努力を要する。

そして、ここでもまた、自身の苦手な物を克服しようとしている少年がいた。


「ヒイイイッ!」


フレンチは豚の顔面を見て絶叫し、思わず涙目になりながら博士に抱きついた。


「ハハハハハ!フレンチ君、どうしたんだね?」


「いえ…なんでもないです」


しかしながら、彼はその答えとは裏腹にその顔は青ざめている。

フレンチは豚が何より嫌いだった。

そのため、豚肉料理が盛んな沖縄県に来たくはなかったのだが、断ると博士が悲しむと思い、恐怖を堪えてここまでやって来たのだ。

しかし、商店街の精肉店に入り、店に撃っている豚の顔、通称チラガーを見た瞬間、彼の恐怖は限界に達してしまい、思わず博士に抱きついてしまった。

彼は自分がしたことの恥ずかしさと情けなさにとうとう泣きだしてしまった。

どうやらこの沖縄旅行では、いつもの立場が逆転するようだと、ふたりの様子を見てハニーは思った。


博士たちはその後ホテルに行き、部屋に荷物を置いて、夕食を取りに行く事にした。夕食はバイキング形式で、あろうことかフレンチの大好物である鳥肉料理と大嫌いな豚肉料理が数多く並べられてあった。


「なんだか、複雑な気持ちになります」


彼は苦笑いをしながら、大好物の鶏肉料理にパン類、そして苺ジャムを取る。

彼はジャムの名産国であるオーストリアの出身だけあって、ジャム作りは得意中の得意で、その腕前はプロ顔負けものだった。以前、中学の文化祭で作った特製の苺ジャムをかけたフレンチチーストを販売すると、わずか十分で完売してしまったと言う伝説を作った事がある。彼はバターナイフを使い、丁寧に苺のジャムを塗ったパンを一口かじり、


「僕の作るジャムには到底及びませんね」


すると背後の席で、クスクスと笑う声がしたので、彼はその声にムッとして振り向かずに言った。


「何がおかしいんですか、後ろの人」


「ごめんごめん。やっぱりきみはジャムにうるさいんだなぁと思って」


少し高い少年の声を聞いた彼はピクリと耳を反応させて、横目でその人物をキッと鋭く睨んだ。普段の爽やかな彼の姿からは想像もできないほどの殺気を放っている事から、背後の少年とは余程の因縁があると、シナモン博士は考えた。

フレンチはいつもより僅かながら低いトーンの声で呟いた。


「なぜ――きみが、ここにいるんです?ヨハネス=シュークリーム君」

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