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06夢:異変の始まり

 俺は今、清々しくワクワクと嬉しい気分でいっぱいだ。理由は、明日から夏休みに突入するからである。

夏休みを嬉しいと感じる人物は、恐らく宿題がない人物か宿題を苦と思わない人物であろう。逆に夏休みを嬉しく思わない人物は、宿題を苦に思ったり、休みが少なかったり、休みなのに自主的に課題を取り組まないといけない場合などであろう。俺の場合、宿題が多くて苦に思うけれども、嬉しいと感じるタイプである。要するに夏休みという言葉だけで嬉しさを感じる訳だ。


「ふわぁ、何か……今日はえらく眠いな。終業式での校長の話が退屈すぎたせいか? それとも、あの話に実は何かしらの呪文が含まれていて、凶暴な睡魔に襲われる様になっているとか?」


そんな事を思わず独りごちってしまう始末だ。ちなみに、既に寝る準備は万端だ。ベッドにダイブするだけで寝れる自信がある。


「あれ、きゅ、急に凄まじい眠気が――」


 視界がぐらつき、目の前に広がる世界がひっくり返るような感覚に襲われる。例えるなら眩暈のような感じだろうか? とにかく気分が悪い。

そして、俺は倒れた。




――◇◆◇――




「うッ……こ、ここは?」


 ふと眩い光に襲われ、俺は目を覚ました。視界いっぱいに映る青空。涼しい風が体を舐め、何かが俺の腕や足、顔をくすぐる。体はどうやら横になっているらしい。顔を横に向けると、体をくすぐっていたのは草だった。そして、ようやく俺は体を起こす。


「何だ、ここ? ……俺、部屋にいたよな? ていうか、寝てたはずだ。そんなに寝た感覚もない……けど、すっかり眠気はなくなってる。いや待て……俺、ここを知ってる?」


 傍から見たら、俺はさぞかしおかしなやつだろう。何せ、ずっと独り言を口走っているのだから。でも、この違和感とデジャヴ感は何だろう? どこかでここを見た気がするんだよな……。何かのアニメだろうか? でも、それにしてはすごく身近に体験した気がする。


「とりあえず、歩いてみるか」


 もしかしたら、見知った場所へ出るかもしれない。でも、起きてから外へ出た記憶が一切ないんだよな……。

と、そこで俺は一歩進んで違和感を感じ、自分の格好を見て驚愕した。


「これ、俺の服じゃねぇぞ!?」


 しかも、これは俺の知っている洋服ではない。なんというか、ゲームとかで見るファンタジックな洋服である。え、ゲームの中にダイブ? それって最近流行ってるアレか? 転生……的な? いやでも、俺死んだ覚えないし。ま、まさか……あんなに眠かったのは、誰かに睡眠薬を大量に盛られたからで、そのまま死んだ……的な!? いやいやいやいや、でも一体誰に!? ま、まさか……真夢か!? だが、さすがのあいつでもそこまではしないだろう……と、願いたい。う~ん、考えれば考えるほど分からなくなってきた。


「くそ……ここがどこかも分からないし」


 軽く伸びをした俺は、腕を回して歩き出した。そして、数歩前に歩いて足を止める。それは進行方向先に広がる大きな王国を目にしたからである。それも、とても見覚えのある王国である。

ちなみに、先に言っておこう。俺は純粋な日本人で、王国などが存在する国には籍を置いていない。そもそも家も存在しない。

 では、何故見覚えがあるのか、それは……。


「ゆ、夢の……中の、世界……?」


 そう、ここは俺が産まれた時から見続けていた夢の中の世界だったのである。そりゃあ見覚えがあってもおかしくない。では、この格好は……ユーマの? いやでも、今まで俺はあいつの体の中に意識を置きながらも、体を動かす事はおろか、その存在さえも本人に知られていなかった。じゃあ、今のこれは何なんだ? それに、今回は誰かを通して見ているような感じもない。本当に自分自身で世界を見渡している感覚だ。いつもの夢じゃないって事か? それに、いつもなら一緒にいるユウヤやレイナさんはどうしたんだろう? 王国騎士団の仲間もいないみたいだし……。この格好だって、騎士団の格好じゃない。一体、どうなってるんだ?

とりあえずここがどこなのかは分かった。が、逆に疑問もそれ以上に増えた。まず、第一に何故ユーマがこんな草原にいるのか。第二に、騎士団と何故一緒にいないのか。その他にもいろいろあるのだが、とりあえず一番気になるのはこの二つだな。確かにこれが夢なのかどうかの真偽も気になるが、起きれば戻っているだろうと、そう考える事にした。


「まぁ、飲み屋とかに行けば皆に会えるだろう」


 そう軽く考えた俺は、目的地へと急いだ。何だか異様な胸騒ぎがするのである。

王国に近づくにつれて、だんだんと賑やかな人の声が聞こえてきた。だが、皆俺を見つけるなり、どこか警戒の眼差しを向けてくる。一体、俺が何をしたというのだろう? むしろ、皆の安全と平和を守っているはずだ。王国騎士団とはそういう物だと思うのだが、もしかすると何か原因があるのだろうか?

 と、そこで俺はふと気づいた事があった。やけに人の数が少ない気がするのだ。特に女子供の数が極端に……。


「おい見ろよ、間抜けで馬鹿な王国騎士団の一人だぜ?」


「ホントだな、ったく……俺の妻を返せよ」


「オジさん、パパとママはどこなの?」


「ゴメンよ、パパとママはあいつらに殺されたんだ」


 ……どういう事だ? 俺達、何かしたのか? 王国騎士団の評判は、あちこちからヒソヒソ声で聞こえる限り悪い物ばかりだ。でも、この間の夢では何も悪い事なんてしてないし……俺が起きている間に、夢の世界で何か起こったのか? 確か、夢の中の世界では、現実世界と違って時間の進みが物凄く長かったはずだ。朝目が覚めて夜寝ると、夢の中の世界では次の日になっていたり……なんてのは、ザラにあった。

けど、一日で王国騎士団の評判をここまで下げるなんて、原因は何なんだろう?


「よぅ、ユーマ! てめぇ、よくも見捨ててくれやがったな!!」


「な、何の事だ!?」


 いきなり後ろから肩を掴まれ、俺はビックリした。しかも、物凄い形相だ。今にも暴行されそうな雰囲気さえする。見れば、周囲の人物もジワジワ近づいてきている気がする。


「てめぇ、あの惨劇をもう忘れたってのか!?」


 さ、惨劇? 一体、何があったんだ?


「この臆病者!! 騎士団なんて、所詮こんなもんかよ!! ぜってぇ、許さねぇ!! うらぁッ!!」


 とうとう殴りかかってきた。それをなんとか俺はギリギリ躱し、その場から一目散に逃げ出した。


「くそ、逃げやがった!! 追えぇえええええ!!」


 俺に殴りかかってきた男がそう叫ぶと、彼を筆頭にドドドッ! と大勢の男達が波のように……とまではいかないものの、押し寄せてきた。


「な、何なんだよぉ!!」


 俺は訳も分からず、とにかく駆けた。しかし、特に体を鍛えている訳でもないので体が思うように動かなかった。おかしい、ユーマは騎士団にいてたくさんレイナさん達と経験を積んできたはずだ。それなのに、どうしてこうも体が思うように動かないんだ? まさか、この体は俺の体そのもの? いや、今はそんな事を考える暇はない。とにかく、どこかに隠れないと!!

そうして走りながら周囲を見渡すが、どこもかしこも隠れられるような場所はない。

と、その時!


「こっちです、ユーマ殿!!」


 誰かに名を呼ばれ、そっちへ俺は全力疾走で駆けた。少し狭い路地裏に入り込んだ俺は、そこで息を潜めて男達をやり過ごした。


「くっそ、どこ行きやがった!! 逃がさねぇぞ!!」


 枯れんばかりに叫ぶ男達。まるで、獰猛な獣のようなその形相に、俺は息を呑んだ。それも、一人や二人ではすまない人数だ。

これは、一刻も早く理由を聞かなければ納得がいかない。


「どうにかまけましたね」


 背中に声をかけられる。振り向けば、そこには俺を救ってくれた恩人の顔が。この姿は見覚えがある……確か、城内にいる人達だ。


「あ、あの……あなたは?」


「あ、申し遅れました!! 私は王国警備隊の者です! ユーマ・ライティリティ殿ですね? よくぞご無事で! 私が来たからにはもう安心ですので、どうぞご安心下さい!」


 そう言って男性が歩き出す。俺は自ずと足を動かして後をついていっていた。


「ええと、どうして俺の事を?」


「何を仰います、ユーマ殿は王国騎士団の団長……No.1ではないですか!!」


 その言葉に、俺は目を見開いてその場に立ち止まってしまった。


「ど、どういう事ですか!? お、俺がNo.1!? え、団長はおば――ミサキさんじゃないんですか?」


「ユーマ殿、お忘れになったのですか? ミサキ・ドロッサムンは王国の敵……裏切り者ですよ!? あの惨劇……酷いものです。王国騎士団の皆様も大変でしたでしょう、一番混乱したのはあなた方と思います。いきなり裏切られ、襲われたのですから……」


「襲われた?」


「それもお忘れに? ま、まさか……あの惨劇でどこか打たれたのですか!?」


「い、いや――」


「それは大変です!! お急ぎ下さい、城内に腕利きの医師がおりますので!! その方に診てもらいましょう!!」


 そう言って俺は王国警備隊の男性にウェスガティークル城へと連れて行かれた。

 数十分して、ようやく俺達は城内に入る事に成功した。


「ふぅ、なんとか無事にたどり着きましたね」


「あの、先ほど……警備隊って言ってましたけど、どんな仕事を?」


「はい、全く持って……我々からしてみれば、あなた方には遠く及びません。私達の仕事は、主にこの城を……王様を、女王様を、姫様をお守りする事ですので、あなた方の様に外を、王国自体を守るだなんて大きな事は出来ないんです。もちろん、情けない事は百も承知でございます。ですから、私達はあなた方には少しも頭があがらないのです」


 道中そんな事を話され、俺は何だか照れくさくなってしまった。とにかく彼は俺達をよく思ってくれているようだ。どうやら、この王国内にもまだ俺のいた王国騎士団をよく思ってくれている人はいるらしい。


「ここで一体何が起き、何があったのかは、姫様が直々にお話になってくださいますので……。こちらへ、どうぞ」


 先に扉を開けた男性が、軽く会釈して俺を中へ案内してくれた。それにお礼の意味を込め軽く一礼した俺は、怖ず怖ずと室内を進んでいく。すると、高級そうなソファに座った誰かの頭部が映った。

恐らく、この王国の姫様だろう。そういえば、女王様には会った事があったが、まだ王女様には会った事がないな。一体、どんな顔をしているんだろう? まぁ、姫様っていうくらいだから可愛いんだろうな……。

そんな事を思いながら、俺は既に座っている姫様の近くへ。


「ようこそ、お出で下さいましたユーマ様、お待ちしていましたよ? 私はウェスガティークル王国第七王女『リリアンナ・ビュー・サイーク・ウェスガティークル』です」


「あ、どうも……」


 少し名前の事について言いたい事があったが、とりあえず軽く一礼する俺。しかし、まだどうにも照れてしまって顔が見られない。

と、顔を俯かせているところに、視界に映る綺麗な手。あ、確かこれって挨拶みたいなもんなんだっけ?

よく意味も分からず、とりあえず映画やアニメなんかで目にするアレを、曖昧ながらも思い出しつつ模倣してみる。

姫様の目の前に片膝をつき、お手を拝借してその手の甲に軽く口付けをした。

 ……これで、いいんだよな?


「うふふ、よくされますけど、なかなか慣れないものですね」


 俺の少々ぎこちない行為がおかしかったか、姫様が小さく笑った。

そして、俺はようやく顔をあげた。あくまで恐る恐る、ゆっくりと――驚愕した。


「せ、せせせせせせせせせ生徒会長ッ!?」


 壊れたテープのように同じ言葉を口にし、それからようやく単語一つ分を大声で言い終える。


「ど、どうかなさいました?」


 驚いて目を丸くする生徒会長――もとい、姫様。

と、その俺の取り乱しように、近くにいた衛兵と思しき男性が駆けつける。


「おい、貴様!! 何のつもりだ、そのセートカイチョーとやらが何かは知らんが、姫様に無礼であるぞッ!!」


「あ、いや……えと」


「グレゴリス! 私は今ユーマ様と話しているのです。少し二人きりにさせて下さい」


 ふ、ふふふふ二人きり!?

 思わず内心で変な声をあげてしまう俺。

一方で、グレゴリスと呼ばれたガタイのいい男は、慌てた様子で声を荒げた。


「し、しかし! ドロッサムンの様に、またもや裏切られる可能性も!!」


 と、そこで姫様の怒りに触れたのだろう。姫様がすぅーっと息を吸って大声を発した。


「グレゴリスっ!! それ以上は、ユーマ様達を侮辱しているようなものです。ウェスガティークルに仕える者として、捨て置けませんよ? その言葉……」


「も、申し訳ありません……リリアンナ姫」


 やはり怒らせると怖いのは、現実世界の生徒会長と同じのようだ。しかし、面影は残っているものの髪の毛といい、性格といい、全然違うな。口調もそうだし……。


「分かったらさっさと下がりなさい」


「かしこまりました。……ユーマ・ライティリティッ!! 姫様に指一本でも触れてみろ、必ずその首根っこ切り落としてくれるからなッ!!」


「は、はい」


 ぶっとい人差し指を鼻先に突きつけられたまま警告を受けた俺は、息を呑んで返事をした。

すると、俺の意思表明に満足したのか、グレゴリスなる大男は、退室していった。


「……っはぁ」


 詰まりそうな感覚から開放された俺は、一旦息を吐いてもう一度新鮮な酸素を肺へと送り込んだ。


「申し訳ありません、ユーマ様。彼は私が産まれた時からお世話になっているので、特に心配されているんです」


「はは、いい事じゃないですか。あ、先ほどはすみません。少し取り乱しちゃって……」


 こちらの世界の住人には、生徒会長なんて言っても分からないよな。


「あ、いえ。まだ混乱なされているのでしょう? 無理もありません……報告によれば、住民から暴行を受けそうになった上、追いかけられたそうですね? 重ね重ねお詫び申し上げます」


 まるで自分が悪いのだと、姫様は深く頭を下げて俺に謝罪した。


「そ、そんな! ひ、姫様が謝る事じゃないですから! あ、頭を上げて下さい!!」


 俺みたいな一国民に、王国の顔とも言える姫様が頭を下げるのがあまりにも恐れ多かった俺は、慌てて姫様に顔を上げてもらう。

「……しかし」


「それより、ここで何があったんですか? ミサキさんが裏切ったって……俺、未だに信じられないんですけど」


「そうですね、お話しましょう。全ては、今からおよそ七ヶ月程前の事です」


 な、七ヶ月!? そ、そんな……もう七ヶ月もの時が流れていたのか!? でも、そう言われてみれば、ここ最近七日ほど夢の内容を覚えていないな……。けど、夢を見ていても覚えていない可能性だってあるし……。まぁ、とにもかくにもこっちでは七ヶ月も時が経っていたのか。

 それからしばらく、姫様が七ヶ月前に起きた出来事についての説明をくれた。

何でも話によれば、七ヶ月前にこの城で会議が開かれたとの事。それは一つの噂によるものだった。噂の内容は、この大陸とは別の、もう一つの巨大な大陸で一つの強大な国が動き出しているというもの。それも、人為らざる者が多く棲み付く魔物の帝国だ。それらを率いる魔王の名が使われた帝国――それがブムトフワー大魔帝国だそうだ。

しかし、王国の歴史や文献によれば、この帝国はウェスガティークルを含む多くの国が一致団結し、連合軍となって戦争をした際に敗北し、もう何千年も前に滅びているらしい。魔物の死肉からは瘴気が発生し、血はあらゆる植物を腐らせて荒廃した大地と化した。その結果、この大陸には人は住めないという事で、七人の凄腕能力者(スキラー)――『七賢人(ヘプワイズ)』によって、帝国を大陸から切り取り、今の状態になったそうだ。


「その帝国が……復活した?」


「あくまでも噂です……七ヶ月前までは、そう思っていました。しかし、会議を開いた時に事件は起きました。会議の最中(さなか)、突然ミサキ様が立ち上がり召喚術を行ったのです。そして、そこからは大量の魔物が出現しました」


「ま、まさか……ミサキさんは確か、召喚術は使えないはずじゃ……」


 確か、俺の記憶が正しければ、ミサキさんは体術とかを極めてて、召喚術とかそう言った物には知識的にも疎かったはずなんだが……。


「ええ、私も当初はそう思っていました。ですが、あれは間違いなく召喚術です。魔法陣にも、ちゃんと召喚印が刻まれていました。この目で見ています」


「そう、ですか……」


 やはり、どうにも信じ難い。別に、姫様を疑っている訳ではない。だが、どうしても引っかかるのだ。まるで、何者かによる罠のような……。


「あの、一つ確認してもいいですか?」


「はい、何でしょう?」


 俺の真剣さに同調するように、姫様も真剣な面持ちとなる。


「本当に、それってミサキさんだったんですか? もしかしたら、ミサキさんに化けた誰かだった……って事はありえませんか?」


「……絶対という確証はありませんが、十中八九あれはミサキ様で間違いないと思います」


 キリッとした表情で、姫様はそう答えた。ここまで言うのだ、何かしらの証拠でもない限り、ミサキさんの疑いは晴れないだろうな。


「それで、ミサキさんは結局どこへ?」


「分かりません、私たちは魔物から逃げる事で精一杯でしたので……」


 余程怖い目に遭ったのだろう、姫様の体は僅かながらに震えていた。


「魔物は召喚によって呼ばれただけなんですか?」


「いえ、王国の外からも数千体が……そのせいで、国民が」


「……それで、あんなに」


「ええ、王国騎士団の皆様も懸命に戦ったのですが……なにぶん数が多く、その上ミサキ様の件で調子が悪かったようで。酷いものでした……あの時の国民の悲鳴は今でも耳にこびりついています」


 おのれの耳に手を添え、瞑目する姫様。それは、失われた国民の命へ向けた黙祷でもあるのかもしれない。

姫様は目を開けると、しばし俺から視線を逸らしてもう一度こちらを一瞥した。


「ユーマ様。王国騎士団の皆様はどこへ行かれたのですか?」


「え!?」


「……あなた方は、ミサキ様を中心として一つの軍団と化していました。その強固なる戦意と強さは、私達に希望を与えてくれる光であり、水晶――いえ、ダイヤモンドの様な輝きを放っていました。ですが、戦意喪失したあなた方は、まるでそれが砕け散ったかのようにあちこちへと散らばり、光を失ってしまった……希望は失われてしまったのです」


 確かに、俺達はこの王国のために精一杯頑張っていた。もちろん、それはミサキさんが俺達を引っ張ってくれていたのもあるし、何よりも祖国のために頑張りたいという気持ちがあったからだ。

しかし、俺達が慕っていた存在が裏切った事によって、それは容易く失せてしまった。

姫様は続ける。


「そのせいで、民は不安な気持ちに押しつぶされようとしています。このままではいつ暴動が起きてもおかしくありません。恐らく、ユーマ様が先ほど国民に襲われたのも、その予兆でしょう」


 なるほど、確かにこのまま放っておくのはマズイな。だが、どうすればいい?

 そんな事を考えていると、姫様が口を開く。


「そこで提案があります、ユーマ様」


「はい?」


「……再び、王国騎士団を復活させてください! 私達の希望の光を復活させてください!!」


 その切なる願いの一言に、俺は目を見開き閉口した。やがて、口を開いて声をあげる。


「それはつまり……散り散りになった彼らを、再召集する……という事ですか?」


「はい。情報によれば、幸い騎士団の中でも上位クラスにいた者の死体は見つかっていないそうですから、まだ生きている可能性は十二分にあります。ですから、どこかにいる彼らを探し出し、復活した王国騎士団で私達に希望を与えてもらいたいのです」


「で、でも……どうして俺なんです?」


「……当たり前ではないですか。ユーマ様、あなたは王国騎士団――ウェスガルディアのNo.1なのですから」


 その言葉に、俺は思い出す。そうだった、ミサキさん無き今、俺は王国騎士団のNo.1になったんだ……。実力的な順位ではないが、仕方が無い。それに、国民のみんなのあんな顔見たら……放ってはおけないよな。


「……分かりました、姫様。俺、皆を探しに行きます。そして、もう一度王国騎士団ウェスガルディアを復活させてみせます!!」


「――っ! ほ、本当ですか!? ありがとうございます、ユーマ様!!」


 俺が胸を張って自身の胸を叩き決意を伝えると、姫様は両手を組み合わせて表情を明るくさせた直後、俺に抱きついてきた。


「ちょ、ひ、姫様!?」


 こんな所、誰かに見られたら殺される!! と、特にあのグレゴリスとかいう巨漢にだけは見つかりたくないッ!!

と、捜索寸前に死にそうな雰囲気を感じる俺。


「あ、申し訳ありません……私とした事が、はしたない姿をお見せしてしまいました……」


 顔を赤くしてシュンとなる姫様。


「いいえ、大丈夫ですよ」


 そう言って、俺は彼女を安心させようとその頭を優しく撫でた。


「ゆ、ユーマ様……」


 と、そこで俺はハッとなって慌ててその手をどけた。


「す、すみません! つ、ツイ……」


「いえ、お気になさらず。それよりも、探し出してほしいメンバーですが、全部で十一人です」


「じゅ、十一人……ですか」


 そんなに上位クラスがいたのか……え~っと、俺全員は知らないんだよな。ユウヤとレイナさんと……確か、タケちゃ――タケシさんは分かる。残りは……よく覚えていない。


「その十一人を集めれば、騎士団が復活出来るんですね?」


「はい。彼らは全員能力者(スキラー)ですから、それだけの人数がいれば大分戦力になると思います。もちろん、私達も団員の人員確保を行っていくつもりですので、そちらの心配はなさらないでください! とにかく、ユーマ様には能力者(スキラー)である上位クラスの団員達を探してきてもらいたいのです」


「分かりました、なるべく早く見つけて戻ってきたいと思います!」


 コクリ頷いた俺は、その場に立ち上がり部屋を後にしようとした。


「それと、まだ王国の外には魔物が多くいます。先に鍛冶職人のイブシさんに会って下さい。彼は、王国騎士団の防具や刀などの生成を請け負っていますので、そこで装備一式を揃えて下さい。騎士団の制服はこちらで用意しておきますので」


 そう言いつけられた俺は、再度頷いて鍛冶職人のイブシさんがいる鍛冶屋へ向かった。

 徒歩で数十分をかけて鍛冶屋を訪れた俺。扉を開いた瞬間、物凄い熱気が俺の顔面を襲った。それも無理はない。なぜなら、ここは鍛冶屋だ。主に俺達みたいな騎士団や、冒険者の武器を作っているらしい。姫様の知り合いらしく、今回俺が訪れたのも、姫様に言われての事だ。

しかし、こんな所に鍛冶屋があったのは驚きだったな。姫様に言われなければ、一生ここへ訪れる事はなかったかもしれない。


「す、すみませ~ん」


 恐る恐る声をあげる俺。しかし、返事は返ってこない。と、カンカンという鉄を打っている音が聞こえてきた。そちらに近づいてみれば、一人の中老の男性の姿が見えた。首の後ろを刈り上げ、ノースリーブのシャツを着たその男性は、俺の気配に気づいたのか、ハンマーを振り下ろして作業を続けながら声をかけてきた。


「何の用だ……坊主」


 恐らく、この男性がイブシさんだろう。


「あ、あの……姫様に言われて来たんですけど。装備一式を用意してもらいたくて……」


「ああ、リリア姫か。ったく……あの嬢ちゃんも人使いが荒いぜ。ちょいと待ちな……もう終わる」


 そう言うと、イブシさんと思われる男性はペンチのような物で真っ赤な鉄を掴み、水にジュッとつけた。ジュワ~という音がして、男性は水からそれを取り出し、台の上に置いた。


「ふむ……ちと違うな」


 かけていた専用のメガネを上にずらした男性は、何か満足がいかない事があるようで、腕組をして首を傾げると、決心したのかそれを研磨機にかけた。火花が散り、男性の足元に散らばる。

何だか話しかけてはいけない気配がするので、俺はしばらく様子を窺う事にした。

それから数十分が経過した頃、ようやく男性が立ち上がってこちらにやってきた。近くで見てようやく分かった。この人、只者じゃない……まるで、今までに幾つもの修羅場を乗り越えてきたような感じだ。男性は、たっぷりと口髭を生やし、顎鬚をちょっとだけ蓄えている。背筋はしゃんとしていて、やや筋肉質な体つきをしている。浅黒く焼けた肌には、うっすらと汗がにじんでいる。


「よく来たな、坊主……いや、ユーマ・ライティリティ」


「――ッ!? お、俺の名前を知ってるんですか?」


 この男性とは初対面のはずだ。それなのに彼が俺を知っているという事は、何かしらの理由があると思ったのだ。

男性は顎に手をやり言った。


「んなもん、リリア姫に聞いたに決まってんだろ? んな事より、装備一式つってたな……王国騎士団の時のでいいんだよな?」


 腰に手を添えた男性が、背の低い俺を見下ろして問う。


「はい。……でも、そんなにすぐ作れるんですか?」


「フンッ、俺をナメてもらっちゃあ困るな……。こう見えても、俺の腕っ節は誰もが認めてる。何せ、この王国には鍛冶職人は俺しかいねぇしよ!」


 そ、それって比べる相手がいないって事じゃないですか……。

そう内心で思いつつ、俺は男性にずっと確認しなければならない事を尋ねた。


「あの、そういえばまだお名前を聞いていませんでした……」


「ん? あぁ、言ってなかったか? 俺の名前はイブシー……いや、『イブシ・フミゲイト・ハンティーク』。鍛冶職人をやってる……よろしくな」


 やはり、この人がイブシさんであっていたようだ。


「……あ、こちらこそ」


 握手を求めてくるイブシさんの手を握り、俺は握手し返す。と、そこで俺はふと疑問に思った事があった。今一瞬、イブシさんが自分の名前を言う時に、躊躇った気がしたのだ。

理由は分からないが、もしかすると彼にも何かしら訳があるのかもしれない。

とにもかくにも、装備一式を用意してもらわない事には、先に進まない。


「装備一式って、いつくらいに完成するんですか?」


 予定日を聞いておかないと、他の準備が出来ないからな。と、イブシさんはきょとんとした顔をすると、サラリとこう言った。


「明日には出来るぜ?」


「え!?」


 あまりにも驚きだった。もう少し時間がかかるものと思っていたのだが……。


「っと、その前に……」


 何かを思い出したように、イブシさんがさらに俺に肉薄する。な、何だ?

と、俺が少し警戒して身構えていると、いきなりイブシさんが俺に抱きついてきた。そのまま抱き締めて、体をベタベタと大きな手で触ってくる。

ま、まままままさか……イブシさんはこう見えてそっちの気があるとか!? そんな!! ぜ、絶対にいやだッ!!

どうあってもそれだけは回避したい俺は、必死の思いでイブシさんがそうでない事を祈った。


「あの、一体何をしてるんですか?」


「ん? あぁ、こいつはサイズの確認だ」


「普通、メジャーとかで計るんじゃ……」


 半眼の眼差しでそう尋ねると、イブシさんはニッと笑みを浮かべてこう答えた。


「俺はメジャーなんてメンドイもんは使わねぇ。(じか)に触って計った方が正確だかんな」


 そう言ってイブシさんに測定される事数分後、俺はすっかりイブシさんの熱気をうつされていた。そもそもこの場所が暑いのもあるのだろうが、異様な気恥ずかしさに似た物を感じたせいか、凄く体温が上がっているのである。


「そ、そうですか……」


「うし、もういいぞ」


 観念して俺が諦めて数分後、ようやくイブシさんが俺の体を離してくれる。

と、そこに、第三者の声が聞こえてきた。


「ユーマ様」


「あ、ひ、姫様!? ど、どうしてここに?」


 よもや一国の姫君が、こんな場所にやってくるとは思わなかった俺は、少し驚いて動揺してしまう。まぁ、もう一つの理由は男同士が抱き合って勘違いされやしないかと思ったからだ。


「フッ、来やがったな……嬢ちゃん――いんや、リリア姫」


「お久しぶりですね、イブシさん」


「どうして姫様達がここに?」


「王国騎士団の制服を持ってきたのです」


 そう言って姫様が俺に何かを手渡す。それは、白地に碧い線が入った洋服だった。生地はしっかりしているようだ。手触りもいいし、着心地はそこそこよさそうである。


「まだ上着を用意出来ていませんが、とりあえずそれだけで勘弁してください」


「あ、いいえ、構いませんよ。どちらにせよ、出発はまだですし」


 申し訳なさそうな顔をする姫様に、俺は手を振り言った。


「イブシ、例のやつは完成したのか?」


 リリアンナ姫と同行していたグレゴリスがそう尋ねる。すると、イブシさんは親指を立ててニッと笑みを浮かべた。


「おう!」


「では、出来上がったのですね!」


 イブシさんの大きな声での返事に、リリアンナ姫は両手を合わせて歓喜の表情を浮かべる。


「ほれ、持ってみな!」

 

そう言ってリリアンナ姫に先ほどの剣を渡したイブシさん。黒々としたそれは、リリアンナ姫の手の上に乗せられた。彼女は、最初少しびっくりしていたようだ。


「これ……物凄く軽いですね」


「ああ、そいつの使用者は随分なよっちい上に、ちぃっとも鍛えてねぇようだからな……わざわざ調節してやったんだ」


 誰かは知らないが、その人のために剣を調節してあげるなんて、凄く優しいんだな……。パイプでタバコを噴かすイブシさんは、紫煙を燻らせて自慢気な様子だ。

だが、ちょっと待て……剣を使用する人間は、大抵体を鍛えていて重い剣をなんなく振るう猛者ばかりのはずだ。なのに、この剣は軽くしてある? ま、まさか……。


「あの、……イブシさん。もしかしてこの剣って……」


「ようやく気づきやがったか……こいつは坊主、お前さんの剣だ」


「じゃあ、さっきちょっと違うって言ってたのは……」


「ああ、坊主が俺の想像よりもなよっちかったからな……もうちっとばかし軽くしたのよ」


 小馬鹿にされて少しムッと来たが、確かに真実だ。どうにも、俺の体はユーマの体ではなく、俺自身の体になっているらしい。現に、あんなにモンスターと戦っていたはずの体にはキズ一つ無く、筋肉も然程ついていないしな。


「試し切りしてみるかい? 外にウロチョロしているザコ共がいるだろ? そいつらをスカッとするまで斬り殺せばいい!」


「え? いや、でも……」


 外ってどういう意味なのだろう? この鍛冶屋の外だろうか? もしくは王国の外という意味だろうか?

前者の場合、イブシさんが言っているザコ共とは王国に住む住民の事になり、後者の場合、魔物……モンスターになる。前者と後者で大きく意味合いは変わる。

すると、姫様がいつにない怒った顔でイブシさんを見た。


「イブシさんっ!! いくら冗談でもそればかりは一国の姫として許しておけませんよ!」


「フンッ、その一国の姫さんに一つ言わせてもらうぜ? こんなクソッタレ野郎共の味方する必要なんかあんのか? 知ってんだろ、王国騎士団の連中の批評……。あんだけ守ってもらっておいて、いざとなったら凄まじいまでの手の平返しだ。ユーマだって襲われそうになったそうじゃねぇか」


 俺が襲われそうになった事まで知ってるのか。意外にもイブシさんって情報通だよな……。


「確かに、今の民のあまりにもの暴挙の数々は許せるものではありません。ですが、彼らの気持ちも痛いくらいに分かるのです。……彼らにも大切な物がある。それを奪われれば怒り狂うのも致し方ありません」


「……ケッ、相変わらず寛大な心の持ち主なこって……まぁいい。坊主、その剣なら振る事くらいなら出来んだろ?」


「は、はい」


 少し苛立っている様子のイブシさんに、俺は慌てて頷き答える。


「鞘と鎧なんかの防具は明日までには用意しておく……今日は帰んな」


「……分かりました」


 そのイブシさんの背中を見た俺は、早くこの場から立ち去った方が良さそうだと感じ、そそくさとこの場を後にした。


「あの、イブシさんって住民と何かトラブルでも起こしたんですか?」


「え? いえ、そのような事はありません。ただ、彼は許せないのでしょう、力を持たぬ者が偉そうに威張るのが……。せっかく助けた人間が、手の平を返して報復してくるのが酷く許しがたいのだと思われます」


「……リリアンナ姫」


「リリア、もしくはアンナでよろしいですよ?」


 俺が少し呼びにくそうにしている事に気づいたのか、笑顔を浮かべてリリアンナ姫が言う。


「え、でも……それはさすがに」


「構いません、ユーマ様達はこの王国を守り続けてくれている英雄の様なものなのですから、そのくらい」


「え、えと……じゃあ、アンナ姫で」


「はい、ユーマ様」


 俺に愛称で呼ばれた事が余程嬉しかったのか、アンナ姫は満面の笑みで返事をした。

瞬間、その背後にいたグレゴリスが血走った目で俺を睨めつけてきた事は言うまでも無い。




 城へ帰還した俺は、明日の出発に備えて英気を養う事になった。たくさん運ばれてきた料理を手に取り、どんどん平らげていく。


「よい食べっぷりですね、ユーマ様」


「もぐ……ええ、こっちに来てまだ何も食べていなかったので、凄くお腹が減ってたんですよ」


「それは大変でしたね、どうぞどんどんお食べください」


 こっちに来てという言葉を口にしてしまい、怪しまれるかとも思ったが、どうやら王国へ来たという意味に捉えてくれたようで、大して怪しまれる事もなかった。

結局、約二時間くらいかけて食事を終わらせた俺。それから俺は大浴場へと案内された。


「少し食いすぎたかな……」


 自分の膨れたお腹をさすりながら、俺は少々後悔した。どうにか、服を脱ぎ終えた俺は、真っ白なタオル片手に大浴場へ。

扉を開くと、大量の湯気に包まれた大浴場が姿を現した。物凄く面積が大きくて広い場所だ。足元にはタイルが敷き詰められており、お湯からはいい香りがする。

とりあえず髪や体を洗い終えた俺は、片足をゆっくり湯船に浸けた。


「あぁ~あったけぇ~」


 まるで疲れがそこから抜けていくかのように、俺の体を清めてくれる。

足先から浸けていって肩まで浸かった俺は、タオルを頭の上に畳んで置いて一息ついた。


「ふぅ~、気持ちいいなぁ。でも、こう広いと一人ってのは少し寂しい気もするな……」


 浴槽の(へり)に両腕を置いた俺は、グダ~ッとなりながら独りごちった。


「湯加減はどうですか、ユーマ様?」


「ええ、とっても気持ちいですよ。思わずずっと浸かっていたいと思うくらいです」


「ふふっ、それは良かったです。やはり、ユーマ様はこの香りがお好きなようですね」


「これ何の香りなんです?」


「私が好きな香りです。何の香りかは……ナイショです」


「そんな事言わずに教えて下さいよ、アンナ姫~……ぇ!? あ、アンナ姫ッ!?」


 予期せぬ来訪者に、俺は思わずその場に立ち上がってしまう。


「きゃああ!? ゆ、ユーマ様!? ま、前……!!」


「うわぁああああああああ!?」


 顔を真っ赤にして両手で顔を覆うアンナ姫のリアクションと言葉に、俺はようやく自分が痴態を晒している事を思い出す。慌てて隠したはいいものの、間違いなく姫様に見られてしまった……。

も、もうお嫁にいけない……って、冗談を抜かしてる場合じゃない! ど、どどどどうして姫様がここにッ!?


「あ、あの……どうして」


「もしかして、お忘れですか? この大浴場は混浴……男女共同で使う場所です。もちろん、階級なども関係ありませんので執事やメイド、警備隊……騎士団も一緒です。同じ湯船に浸かり、お互いの気持ちを知り合う事が大切だと、私のお祖父(じい)様は仰っていました」


 じ、爺さん……いや、前々代国王、グッジョブです!!

よ、よもや生徒会長――もとい、王国の姫様の裸が拝めるとか、何それヤバイんだけど!! てか、ちょっと待て! お忘れ……という事は、もう何度もユーマはこの風呂に入った事があるって事か!? 何だよそれ!! 俺、全然覚えてないぞ!! んなの酷いじゃないかッ!! しかも、団員も……って事は、ユウヤやレイナさんとも入った事があるんじゃ……!? くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお、ユーマ羨ましすぎるぅぅぅぅぅぅッ!! って、俺がそのユーマなんだけど……。まぁいいか、こうして姫様と一緒のお風呂に入るなんて夢みたいなもんなんだから、今の内に堪能しておこう。


「? どうかなさいましたか、ユーマ様?」


「あ、いえ……。あの、同じ風呂に入るって言ってましたけど、

アンナ姫はいいんですか? やっぱり、年頃の女の子ですし……プライド的にも恥ずかしいんじゃ……」


「……そうですね、確かに恥ずかしいですけど、もうずっとですし……あまり恥ずかしさみたいな物は、ないですね」


 俺の問いに対し、アンナ姫は少し思案してからそう答えた。おいおい、姫様としてそれっていいのか?


「で、でも……やっぱり異性の裸には慣れません……。つい目が行ってしまうので、なるべくそうならないように気をつけてはいるんですけど……」


 やっぱり思春期なんだから仕方ないよな……。お、俺も人の事言えないし……やっぱり、思春期にはこの制度はキツい物があるな。


「あの、ここには騎士団の皆も来たんですか?」


「いえ、全員ではありませんよ? 警備に当たらなければならない方や、与えられている任務を全うしなければならない面々も居ましたから……」


 なるほど、って事は……毎日一緒に入れる訳でもないのか。よかった、よかった。そんなうらやまけしからん状況をユーマ一人で味合わせるのは納得いかないからな。


「あ、でも……ユーマ様とはずっと一緒に入ってますね」


 サラリと笑顔でそんな事を言われた俺は、青筋をビキビキ立てて内心ユーマへの復讐心を募らせた。


「どうかなさいました、ユーマ様? あ、そうだ。少し前ですけど、覚えていらっしゃいますか? ユーマ様は、以前私とお風呂に入った時に、洗いっこをしたんですよ?」


――な、ななななにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!? き、聞き捨てならんぞそれは!!



 俺は歯噛みして拳を強く握り締めた。くそ、何だよその羨ましい体験!! いや、確かに俺も小さい頃は真夢やさや姉と風呂に入ってたけれども!! それとこれとは話が別である!

 結局、疲れは取れたものの、苛々と悶々とした気持ちが収まらず、なかなか寝付けないハメになった俺なのであった……。

というわけで、第一章が始まりました。ようやくですね、とここでマズイ事に8月末までに10万文字いかないかもしれない事態が!!

なるべく早く書いているつもりですが、学校などで忙しくてなかなか進みません。

なるだけ早く更新したいと思います。それではまた次回。

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