更なる進化。そして、反撃
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アリスの言った言葉を聞きキリヤは絶句する。
「すまないが、もう一度言ってくれないか?」
キリヤは聞き間違いであると信じ、もう一度訊ねる。今のが冗談だと言ってくれる事を信じて。
「はい。キリヤさんは見ず知らずの私と姉さんの為に命懸けで戦ってくれました。優しい方だと感じたのでお願いしてみました。それに、キリヤさんを信じていますから 」
キリヤは黙り込む。いや、アリスに応える事が出来なかった。
「……」
自分の想いを伝えようとするが、言葉が出ない。これは先程のミカエルのジャッジメント・スピアを受けたからだけではない。アリスは純粋にキリヤを信じている。自分の命を懸けるまでにも。それに対して、キリヤは申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうになる。
(俺はそんな人間じゃない……異世界で力を手に入れた事に歓喜し、試してみたかっただけだ。俺はラノベの主人公みたいに成れると思い、戦ったに過ぎない……確かに、助けたいという思いもあった。それでも、自分の事しか考えていなかった。ちょっと危機になっても、ラノベの主人公達の様に新たな能力とかに目覚めてから勝利すると思い込んでいた。そんな、自分勝手な俺に自分の命を捨ててまで頼み込むなんて……)
キリヤの表情は暗い。アリスは真剣だったのに、対し自分は己の事しか考えていなかったのだから。自分自身を叱責してやりたい気分に陥る。キリヤは決心する。自分の想いを打ち明ける事を。
「……あのさ、俺はアリスが信じている様な良い人じゃないんだ。アリス達を助けようとしたのだって、利己的な考えもあったからだし。善意だけで決めたことではないんだ……すまん」
キリヤは痛みを顧みずに頭を下げる。無論、頭を下げる前から激痛を感じていたが、キリヤは気にしなかった。
「そう、ですか。でも、私はそんな事を自分から告白する人だから、キリヤさんを信じたんですよ。勿論、善意だけで動ける人は素晴らしいですけど、そんな人間はごく一部だけです。それが、普通なんです」
アリスはキリヤに微笑みかける。その間も治療は続けている。時間稼ぎには十分な効力がある。
「ありがとう、少し楽になったよ。アリスの力を吸収しても奴に勝てるとは限らないから、アリスだけでも生きてくれ。俺はこの生命が尽きるまで足掻いてみるさ。もしかしたら、一死報いれるカモしれないしな」
キリヤは立ち上がり、短剣を作成する。アリスの御蔭で少しぐらい能力を発動する余裕が生まれたのだ。そのまま、洞窟を目指し歩き始めるが、足取りは覚束ない。
「待ってください! そんな身体では無理ですよ。勝機なら、ありますので、話だけでも聞いてください!」
アリスの必死な説得で一旦中止するキリヤ。勝機があるのなら、ここは話を聞いておくのが得策と判断する。
「それで、勝機とは本当にあるのか?」
アリスに治療を再開してもらっているキリヤは訊ねる。
「はい。天使は悪魔と同様に元々は肉体を持たない魂体という分類です。しかし、肉体を持たねば力は限られます。その為に、肉体を得る方法が大きく分類して二つあります。一つ目は自身の魂を媒体とし魔力で身体を構成する方法です。この方法はある程度の上位な存在でしか使えません。もう一つは、他者の肉体に受肉する事です。受肉するには、その肉体と魂の波長が合わなくては無理ですが、波長さえ合えば、上位の存在は身体を乗っ取る事が出来ます。まぁ色々と条件があるらしいですけど。そして、ミカエルが行使しているのは二つ目です」
アリスは最初に天使について説明する。
「方法が分かったからって、どうすんだ?」
「魂体の部分を切り離す事が出来れば、ミカエル自身は弱体化しますし、姉さんも多分ですが、助かると思います。この方法を実行するにはキリヤさんの力が必要なんです。ミカエル自身を弱らす事が出来れば、姉さんがミカエルを身体から追い出す事も可能な筈です」
キリヤはアリスの話を聞き、確かに勝機が少し見えくる。それでも、届かない。純粋な戦闘力がだ。
「アリスの話は理解した―――――が、ミカエルを弱らせれる程の力は俺には無いぞ。さっき、少し戦っただけで敗けたんだからな」
自傷気味にキリヤは伝える。
「はい、分かってます。今のままでは100%勝てません。それでも、私の力を吸収したキリヤさんなら勝てます」
自信満々に応えるアリス。
「まぁ勝てると仮定してだが、俺が素直に戦うと思うのか? 先程、全く歯が立たなかった相手にさ」
キリヤの問いにアリスは即答する。
「はい。先ほども言いましたが、キリヤさんの事を信じていますし、信頼もしてますから」
キリヤの瞳をアリスは真っ直ぐに見つめる。キリヤは挙動不審に視線を逸らす。
「わかったよ。俺も死にたくないしな……それよりも、純粋にアリスの願いを叶えてやりたいと思うし」
キリヤは承諾する。その言葉を聞いたアリスはお礼を言う。その後の言葉にキリヤは少し途惑う。
「ありがとうございます。それでは、契約を結びますか」
「契約って何のだよ。契約書でも書かすのか?」
さっきまで、ドンヨリとしていたキリヤも契約という知らないワードが出た途端に平常運転に戻る。
「契約とは魂に直接、約束事や取決めを刻んで破れなくする術です。普通は魔物を使い魔にする時に使用したりしますけど……キリヤさんは私と『魂之契約』を結んでもらいたいです。どうでしょうか?」
キリヤに期待の眼差しで見つめてくるアリス。まぁ契約しないと始まらないので、断れない。
「分かった。契約しよう。『魂之契約』でも何でも良いぜ。そして、約束する! お姉さんを必ず救うってな」
キリヤは一呼吸置き、返答した。その言葉を聞いて、アリスは輝く様な笑顔を零した。
「我、アリス・バーミリオンは汝、キリヤと盟約を結ぶ者! 対価は、我が血肉なり! 盟約に応じるなら、了解の意を示したまえ!」
アリスは深呼吸をしてから、契約の言葉を述べた。
「我、霧咲霧夜は汝と契約を結ぶ! 契約に従い、エリス・バーミリオンを救う事を誓う! 」
キリヤはアリスの契約に了承の意を示した。
「この最後の行為を以て、契約を完了とする! 」
そういい終わると同時にアリスはキリヤに口づけを交わす。
「あ、あわわ。アリス、何してんのっ!?」
キリヤは慌てて、叫んだ。
「これにて魂の契約を完了とする 《魂之契約》 」
アリスとキリヤの身体が一瞬だけ光る。
《魂之契約を完了しました》
頭の中に無機質な不思議な声が響いた。能力の取得の時と同じである。
(これで、契約完了って事か。……それより、アリスにさっきの行為の説明を求めなくてはな)
「アリス、無事に契約は完了したよ。そして、一つ聞きたいんだけどさ」
キリヤはそこで一旦区切り、深呼吸。
「最後の行為は何?」
アリスは顔を真っ赤にしながら答える。
「だって……魂之契約の場合には最後に口づけが必要らしいから」
だんだん、声が小さくなってきている。
(可愛い子とキス出来たら、俺も嬉しいかな?……多分)
この身体には、食欲,性欲といった欲求が無いみたいだしわかんないな。
「もしかして、私とじゃ嫌だった?」
アリスが心配そうに上目使いで聞いてきた。
その仕草は反則だろっ! 性欲すら感じないのに、キュン!ときた。思わず、抱き着きそうになってしまったキリヤ。理性が何とか働き、ギリギリ何もなかった。
(今のはヤバい……流石は俺の自制心だ)
「そんな事は無いさ」
キリヤはポーカーフェイスを気取り、さり気無く応えておいた。
「じゃぁ、対価を支払いますね。姉さんの事をお願いします」
「わかった、アリスのお姉さんであるエリスは俺が必ず助けるから」
キリヤは言い終わると、アリスを抱き寄せてから首筋に牙を突き立てる。俺は吸血鬼か! と突っ込みを入れたくなる様な動作だ。第三者が今のキリヤ達を見たら、キリヤの事を吸血鬼だと思うだろうな。そんなアホな事を考えていると、アリスの魂っぽいのを吸収できた。その瞬間、アリスの身体は光の粒子となって消えてしまった。
アリスの身体が光の粒子になって消え、キリヤの頭の中には無機質な声が響いく。
《固有能力『癒しの光』,『天賦の才・智』を取得しました》
《伝説能力『神眼』を取得しました》
《『下級魔人』が『上級魔人』に進化が完了しました》
『進化が完了しました』と言われた直後から身体が光りに包まれる。次第に光は弱まり、最後には消えてしまった。前回に進化した時と同じ感覚だ。
前回の進化の時ほどの変化は見られないが、怪我も塞がって完全回復である。キリヤは現在は身体変化の能力を魔力を消耗して160センチの身体を維持していたが、素の常態でこの大きさに変化していた。それに、魔力の総量が莫大に増えている様な気がする。それと、アリスの記憶と思われる情報が頭の中に流れ込んできた。
ここで『ステータス』を確認してみた。
ステータス
名前/霧咲霧夜(仮)
種族/上級魔人《ユニーク魔人》
能力スキル
通常/『隠密』,『気配察知』,『不意打ち』,『飛行』,『俊敏』,『擬態』,『剛力』,『忍び足』,『遠吠え』,『麻痺耐性』,『毒耐性』,『熱察知』,『幻覚耐性』,『魔力隠蔽』,『超音波』,『嗅覚』,『隠形』,『幻術』,『索敵』,『鎌鼬』,『分裂』,『吸収』,『形状変化』,『身体変化』,『逃げ足』,『蜘蛛の糸』,『罠師』,『跳躍』,『飛翔』,『急加速』,『鑑定』,『夜目』,『壁歩き』,『身軽』,『直感』,『盾術』,『アラーム』,『裁縫』,『暗算』,『杖術』,『槍術』,『身体強化』,『話術』,
稀少/『喰らう者』,『切り裂く者』,『麻痺を操る者』,『毒を操る者』,『食物連鎖』,『潜む者』,『隠れる者』,『刈り取る者』,『風流操作』,『聖気』,『神聖術』,『鎌の担い手』,『水魔法』,『光魔法』,『火魔法』,『土魔法』
固有/『弱肉強食』,【能力進化】,『癒しの光』,『天賦の才・智』
伝説/『神眼』
アリスの力を吸収したキリヤは自分でも分かるほどに強くなっていた。
下級魔人→中級魔人→上級魔人のランクだと思っていたが、中級魔人ってない事も知る。
(……ん? 固有能力の【能力進化】が点滅しているぞ)
キリヤは自身のステータスを視て、今までと違うところに気が付いた。そして、クッリクでは無いが、意識を『能力進化』に集中してみた。
『能力進化』を使用しますか?
――――Yes,No の選択肢が出ていた。
勿論、Yesを選択する。
《能力進化を発動します》
一瞬、激しい頭痛に襲われた。そして、眩暈と激しい吐き気がする……
《『隠密』,『気配察知』,『不意打ち』,『俊敏』,『擬態』,『熱察知』』,『魔力隠蔽』,『超音波』,『魔力隠蔽』,『嗅覚』,『隠形』,『幻術』,『幻覚耐性』,『索敵』,『逃げ足』,『跳躍』,『急加速』,『夜目』,『壁歩き』,『身軽』,『直感』,『身体強化』,『潜む者』,『隠れる者』,『切り裂く者』,『刈り取る者』の28の能力の結合に成功しました 》
一瞬の間が空く。
《伝説能力『闇夜之暗殺者を取得しました》
キリヤが激しい頭痛に襲われていた一瞬で、能力の結合進化したらしい。普通に能力だけを進化できないのかよ。結合させたから能力の数が減ってしまった。そのお蔭で整理も出来て、スッキリしたから問題無いとキリヤは思っていた。
ステータスを見てみると【能力進化】がまだ点滅していたので、もう一度発動する。
『能力進化』を使用しますか?
――――Yes,No の選択肢が出ていた。
もう一度Yesを選択する。
《能力進化を発動します》
もう一度、キリヤが頭痛や吐き気に襲われたのは言うまでもない。
《『吸収』,『喰らう者』,『食物連鎖』,『弱肉強食』の4つの能力を結合進化に成功しました》
《伝説能力『捕食者』を取得しました》
実は、この行動を後二回もする事になるとは、この時のキリヤは気付いていなかった。
『捕食者』を取得した後にもう一度ステータスを確認したら、【能力進化】が点滅している。
結果、更に二回行ったのだ。合計四回だ。頭痛と吐き気で気持ち悪い……死にそうな思いだった。
おっと、手に入れた能力を確認しておかないとな。
固有能力/『身体変換』と『猛毒魔法』の二つだ。
『身体変換』は『分裂』,『身体変化』,『形状変化』の三つが結合進化した固有能力だ。
『猛毒魔法』は『毒耐性』,『麻痺耐性』,『毒を操る者』,『麻痺を操る者』の4つの能力が結合進化した固有能力だ。
一気にパワーアップを終えたキリヤはミカエルの居場所を探る。
さっきの洞窟に居るみたいだった。キリヤは洞窟に居るミカエルに気づかれない様に洞窟まで移動する。『闇夜之暗殺者』の能力は中々に便利だった。
簡単に説明するとこんな能力だ。
・隠密,俊敏,索敵,身体能力,五感に大幅補正。
・《空間把握》,《縮地》,《空中歩行》,《幻術》,《影化》,《分身》,《絶対切断》
こんな感じだ。今までと同じ様なものもあるが、全ての性能が上がっている。【伝説】は伊達ではない。
しかし、アサシンって言うより忍者っぽい。細かい事は気にしなくていいか。
洞窟の中ではミカエルとオッサンが何かを話している。今までのキリヤだったら、会話を聞き終わってから仕掛けていただろうが、今のキリヤは不意打ちや奇襲といった卑怯な事をする事に躊躇う事が無くなったのだ。
ミカエルはキリヤの存在に気づく気配はない。仕掛ける前に闇夜之暗殺者の《分身》を使い、分身体を十体造り、その場に待機させる。
キリヤは《空中歩行》を発動してから空中を移動出来る様にする。次に《縮地》で一気に距離を詰める。キリヤはミカエルに背後から肉薄してから『身体変換』で造った大鎌を縦に振るう。
ミカエルは咄嗟に気づいたみたいだが、回避も間に合わずに方翼を切り落とす事に成功した。流石は《絶対切断》である。
ミカエルはキリヤから距離を取り、苦虫を噛み潰した様な表情をした。
「貴方は! 生きていたののですか……正直、驚きましたよ。そして、私に気づかれる事無く接近してくるなんて。さっきの一撃で殺せなかったので、貴方に万が一にも勝機はありませんよ」
ミカエルは光の槍を出現させてから、こちらを油断なく睨みつける。天使槍ではないみたいだ。
天使槍には膨大な魔力が必要みたいで、乱用は厳しいみたいだ。
そして、エリス・バーミリオンを救う方法には、心当たりがあるのだ。アリスの記憶からの情報だけどな。
キリヤの伝説能力の『捕食者』を使い、ミカエルだけを喰らえばいいのだ。捕食者の力を使えば、魂体である天使も食える。
食えると言っても、弱らせなくてはならない。抵抗されたら厄介でもあるし。
『捕食者』を簡単に説明すれば、喰らった相手の能力と容姿を自分の物にする事だ。それと、捕食をすると魔力や傷が回復するのだ……ここまでは『弱肉強食』や『喰らう者』と同じだ。ここからが新しくなった能力だ。魔力そのものを喰えるようになった。魔法だろうが魂体だろうとお構い無しだ。
つまり、上手くミカエルだけを喰らえばエリス・バーミリオンを救える。成功させるにはミカエルの残りの片翼も切り落とし弱らせる必要がある。
天使の翼は天使の力の源らしい。つまり、それを破壊すると弱体化すると思われる。今度は《縮地》を使用せずに、真正面から切り掛かった。ミカエルは光の槍で大鎌を受け止めたが、キリヤは「ニィ」と笑みを零す。そこに周囲に潜んでいたキリヤの分身達が一斉にミカエルに襲いかかる。ミカエルは瞬時に、全身を光の球体で覆い防御した。
やはり、分身は本物には遠く及ばないようだ。本物だったら、防御される前に攻撃出来た自信がある。
例え、防御されても《絶対切断》を使えば、破れるだろう。
「残念でしたね。やはり、貴方には出し惜しみ無しで本気で行きます! 我がミカエルの名の元に顕現せよ、天使槍!」
ミカエルが天使槍を出現させ、猛スピードで接近し、天使槍を横に一閃。その攻撃をキリヤは紙一重で避ける。
現在のキリヤは神眼で攻撃を正確に見極め、闇夜之暗殺者の素早さがあるので、容易に躱せる様になった。
ミカエルは信じられないとばかりに天使槍を振るう。結果は同じで、キリヤは全ての攻撃を紙一重で躱した。
「その程度の速さの攻撃が当たると思ってんの? 本気出すんじゃなかったんですか? 」
キリヤはミカエルを挑発する。
「速さを宿したまえ 《クイック・スピア》 」
ミカエルの素早さが急に上がり、槍がキリヤの身を貫く――――貫かれた体は光の粒子になって、消え去る。
「残念でした! ハズレです」
キリヤはミカエルの背後を取り、残った片翼を切り落とす。
「天使の力の源である翼を削ぎ落としてやったぜ。貴様に勝ち目は無い! さっさと、終わらせてやるぜ」
ミカエルの様子が可笑しい。
「貴方は天使の翼が何か解っていなかったんですね。天使の翼は力の源ではありませんよ……力のコントロールを司る部位ですから、それを破壊したら制御が効きません……つまり、身体が保ちませんけど、100%以上の力が出せます」
ミカエルの身体から神々しい光が漏れ始めている。