大量殺戮。そして、Sランクとの闘い
キリヤはアリスの頼み通りに双子の姉を助ける事を決める。
「確認したいことがあるんだが、いいか?」
気まずそうにキリヤは訊ねる。
「はい、何でしょうか? 私に答えられる事ならどうぞ」
「アリスとお姉さんを攫った連中って殺しても問題ないか? 生かすのは難しいと思うし、数が数だからな」
少しの間が空くが、彼女はすぐに首を縦に振い返答する。
「ええ、問題ありません。ですが、主犯格は騎士団に引き渡したいと思うので、出来れば生かして欲しいですけど」
その言葉を聞いてキリヤは安心する。殺しても問題は無さそうだと。流石に殺さずに戦闘不能にするのは骨が折れるからだ。
(アレ? 俺って……人を殺すのに躊躇わないような奴だったけ? 異世界なら、当然なのか? 日本人としてどうなんだろうか……)
その直後に自身の心の変化に気付く。
「とりあえず、アリスの首に付いている『魔封じの首輪』を外すから。ちょっと、動くなよ」
アリスの首元まで飛んでいき、自身の小さな手を首輪に当てて首輪だけを切り裂く。
「ありがとうございます。それでは本題に入りましょうか」
「ああ、アリスはここで待っててくれよ。すぐに終わらせるし」
アリスが鋭い視線をキリヤに向ける。
「キリヤさんを一人で行かせません! 私も行きます! 私達の問題ですから、キリヤさんだけに任せれませんからね」
キリヤはアリスの勢いに負けて頷いてしまう。
「あ、はい」
「そ、それに……」
急にアリスが不安げに語る。
「相手には元Sランク冒険者が二名いるそうですし。下手したら、キリヤさんも危ないですから」
(―――えっ!? 今、何て言った!? 冒険者ってファンタジーの定番の職業じゃないのか! この世界にも冒険者ってあるのか。街に着いたら、登録しよっと)
冒険者登録するぞ! っと、自身の心のメモ帳に刻む。
「あのさ、Sランク冒険者ってどれくらい強いの? 下級魔人を倒せる?」
相手の強さの基準を聞く。戦闘において情報は重要である。
「個体によってバラつきはありますけど……倒せない事はないと思いますよ」
その返答によって、キリヤの表情には小さな焦りが伺える。失敗したら死ぬ可能性があるからだ。今までは楽勝で倒せると思っていたので、楽観していたが、急に現実味が帯びてきたのだ。自分の中では勝てると思っていたるが、もしもって事があるカモしれない。それに、相手は数も多い。
「そういえば、この洞窟の広い部分に多くの人達が集まってるけど、何してんの? ……邪神降臨の儀式だったり?」
キリヤは自身の不安を何処かに吹き飛ばす意味も込めて最後の言葉は冗談っぽく言うが、その冗談が事実である事をすぐに伝えられ、驚愕するのだった。
「アレぇ? よく、わかりましたね。だから、早くしないと姉さんがどっかの邪神の依り代に邪神が召喚されると思います」
(えっ!? 何でマイペースなんだよ。少しは慌てろよ)
「それなら急がないと、不味いだろッ! 呑気に会話なんてしてる暇はねぇな。急いで助けに行くぞ」
キリヤは慌てながらアリスが閉じ込められている牢屋の鉄格子を切り裂いた。
「ハイ、それでは行きましょうか。でも、邪神降臨みたいな馬鹿げた儀式なんて成功しないと思われますよ? 例え、成功するとしてもかなりの時間が掛かると思われますし」
アリス自身も成功するとは思っていない。それ程、容易な儀式ではないのだ。
(だから、焦ったり、慌てたりしてなかったのか)
キリヤはアリスの言葉に「なるほど」と返して奥の広い場所を目指して移動を開始する。すぐにキリヤ達は邪神降臨の儀式を執行していると思われる集団を発見した。数にして、約百人程だ。こんな大人数で怪しげな儀式している人達を実際に目撃すると、凄くシュールであった。儀式に参加している者達は全員が真剣な表情だからだ。洞窟の奥には祭壇がある。その祭壇の前にいるオッサンが教祖と推察される。
キリヤはアリスと小声で話し合う。
「なぁ、あそこの祭壇に居るのが親玉なのか? アイツ以外は消すけど、問題ないか?」
「えっ!? あ、はい……多分」
急に話し掛けられ、アリスが慌てたように返事をする。そして、最後の辺りは何て言っていたか、小声だったので言葉が聞こえなかったが、キリヤは気にしない事にした。
「Sランクの冒険者はどこだろう?」
その二人は警戒しておかなくてはならない。アリスも周りを見渡してから探してみたが、わからないそうだ。少し見ただけだから、あまり覚えてないそうだ。それに、人数が多いからな。
「まぁいいや。とりあえず、教祖みたいな奴以外を仕留めるかな」
キリヤは作戦通りに猛毒を作成し、洞窟内に散布する。その毒が教祖とアリスのお姉さんの方に影響を与えない様に『風流操作』で毒を祭壇に近づけないように細心の注意を払う。
どんどんと人が倒れる。実力の無い奴から死に至る。数十人が倒れ、儀式を執り行っていたオッサンも異変に気付き慌て始めるが既に遅い。
「さて、終わらせるとしようか」
キリヤは大量の風の刃を無造作に放つ。その攻撃は狙いもキチンとせずに大雑把であったが、標的である邪教徒達の人数も多くを切り裂いた。一カ所に固まっていたことも幸いし、多くの人間の命が淡々と失われた。一撃で絶命しなかった者も腕や脚が切り落とされ、状況確認も満足に出来ない様子である。
「敵襲だ!」
「総員、襲撃に備えろ」
攻撃の被害に合わなかった者達が叫び出す。その時に多くの邪心の信者の骸が地面に横たわっていた。場を鎮めるべく、教祖が声を荒げながら叫ぶ。
「聞け! 皆の者よ、儀式はもうじき完成するのだ。敵を食い止めろのだ」!」
その言葉で生き残り、戦闘を続行できる信者達が一斉に武器を構え始める。だが、キリヤの放つ風の刃は止まらない。キリヤの攻撃の度に人が地面に倒れ込む。真っ赤な花を咲かせて。床は真紅のカーペットのような紅色に染まる。そんな中で祭壇付近に待機していた十名程の聖職者の様な恰好をした人々が結界の作成するに取り掛かる。
「先生! ドルガン先生とゴルゾー先生の出番ですよ」
「早く、襲撃者を仕留めて下さいよ」
結界を作成しつつ、神官風の者達は近くに居る二人の男性に声を掛ける。
「面倒だが、仕事だからな」
「ドルガンよ、そう言うな。報酬が高いんだし」
そんな会話をしながらも二人の男は結界の前に現れる。
「おい、襲撃者って妖精かよ」
「妖精は平和主義者だろ? 何故、攻撃してんだ!」
二人組はキリヤの姿を視てから妖精と勘違いする。その時に背後に隠れていたアリスから声を掛けられる。
「キリヤさん、気を付けて下さい! その二人組がSランク冒険者です」
(マジか。ここからが本番か、油断できないな)
キリヤはアリスの言葉を聞き、気を引き締める。
「わかった。ありがとう。アリスは隠れていてね」
残りの信者達も結界の中に逃げ込んでしまう。結界の外に居るのは例のSランクの二人だけ。
「妖精は高く売れるから殺すなよ」
「わかってるさ。しかも、あの妖精は上玉みたいだな」
キリヤは二人組の発言に苛つきを隠せない。売るとか、調子に乗り過ぎだろと。
(嘗めてるな。その報いを喰らわせてやるぜ)
「今すぐ、武器を捨てて降参しな! そうすれば、命だけは助けてやるよ」
キリヤは警告を出す。ただし、命だけしか保証はしない。これは優しさである。
「アハハ、オレ達に降参しろ? だって」
「逆だろうが! 助けて下さいと言えば、命だけは助けてやるぞ?」
しかし、二人は聞き入れる様子は無い。
「じゃぁ、死にな―――ッ!」
キリヤは邪教徒達にした時と同じで数十を軽く超える数の風の刃を放つ。
「岩よ、壁となれ 《ストーンウォール》 」
男が呪文を言葉を口にする。次の瞬間には二人の前に分厚い石の壁が出来上がる。その壁に拒まれて風の刃がアイツらに届くことは無かった。
「炎よ、敵を撃て 《ファイヤーショット》 」
石の壁を造った奴じゃない方の男も呪文を唱える。すると、炎の塊がキリヤに目掛けて放たれる。その攻撃をキリヤは風で壁を発生させて炎の軌道をずらす。
(さっきからアイツ等が使っているのって魔法だよな、カッコいい)
魔法に憧れてしまうのは日本男児の性である。
二人との戦闘から十分弱。互いに致命傷を与えられない。思いのほかに二人が強い。キリヤの攻撃を魔法で防ぐか回避する。更に二人の連携もかなり厄介である。岩使いが防御を担当し、炎使いが攻撃を担うのだ。単純だが、効果的であった。
(俺が憧れている魔法を当たり前のように使いやがって)
二人が使う魔法がかなり面倒であった。その所為で中々に倒せない。
「ドルガン、あの妖精は思ったより強いな」
「ああ、油断せずにいくぞ」
相手の攻撃を風流操作で防ぐか急加速にて避けながらキリヤは考えていた。アイツ等は毒の影響を殆んど受けていない。その為に決定打に欠ける。風の攻撃が当たれば、話が速いのだが、それが当たれば誰も苦労はしないのだ。
(せめて、さっき倒した信者達から能力を奪えれば、何とかなると思うのに。どんな、能力を持っているか知らんが)
能力を奪うには喰らう必要がある。戦闘中にそんな余裕がある筈がない。その為に現状のままで戦わなくては、いけないのだ。
「大技を行くぞ!」
「わかったぜ」
冒険者の二人は大技を使うべく集中する。その為に魔力が跳ね上がるのをキリヤは感じる。
「岩よ、敵を捉えよ 《ストーンバインド》 」
「炎よ、敵を焼き尽くせ 《ヴォルケーノ》 」
岩で出来た腕が無数にキリヤに向けて伸びてくる。その腕を全て躱すべく動いていると、岩の腕ごと燃やし尽くす程の大量の炎が放たれる。躱すことは不可能な規模である。故に、風流操作で自身の周囲を風の膜で覆う。それと同時に聖気を身体に纏わせた。これで、防御力も底上げできる。
その直後にキリヤは大量の炎に飲み込まれた。風の膜で覆っていたお蔭か威力がある程度か落ちたの致命傷にはならなかった。
聖気の能力は、読んで字の如く、聖なる気を操る能力だ。魔力を纏うと身体強化される事はキリヤもサバイバル生活で理解していた。聖気はそれの上位版だと、考えられる。誰にも教えてもらっていないから確証はないが、キリヤも自身で使い実証したのだ。この状態で攻撃を喰らうのは初めての経験の為に効果がどの程度かは実証されていない。
聖気を纏って尚、多大なダメージを受けてしまう。魔法を喰らったキリヤは地面に落下する。火魔法の影響で全身の表面だけが黒焦げになっていた。内側は既に治療済みの為に見た目ほどの傷ではない。その事を踏まえて死んだふりを行う。
(油断したところで首を切り落としてやるぜ)
「ドルガンよ、結局殺してしまったのか」
「でもよ、アイツは強敵だったから仕方ないだろう?」
キリヤを殺したと思っている二人が話をしていると、洞窟の奥に隠れていたアリスが飛び出してくる。
「キリヤさんッ! 無事ですか!?」
アリスの登場で驚いた二人だったが、すぐに冷静になる。
「おいおい、聖女様が逃げ出してるぜ」
「さっきの妖精は聖女様の差し金って事か?」
「まぁ、どうでもいいか。さっさと捕まえるぞ」
二人がアリスの方に走り出す。キリヤは身体を再構成してから急加速でドルガンと呼ばれていた火魔法を使っていた男の背後に移動してから身体変化の能力で腕から先を鎌に変化させてから首を両断する。
別に蟷螂時代の鎌でも問題はないが、気分的に普通の鉄製っぽいの鎌にしてある。キリヤの憶測だが、鉄ではない未知の物質である。固くて鋭いので気にはしないが。
続けて、二人目の首も刎ね飛ばそうと行動に移るが、相方に攻撃した事で異常に気付き回避される。一瞬で戦闘態勢に戻る土使いの男。
(流石はSランク冒険者だな)
キリヤは敵ながら感心する。
「誰だッ!? どこに居やがる!?」
ゴルゾーと呼ばれていた土魔法を使っていた男は周囲を警戒して叫ぶ。アリスは驚いた様子が無い。そこで、アリスと視線が合う。ウィンクを返された。つまり、アリスはキリヤが死んでいない事に気付いていたのだ。そして、自分が姿を現す事でゴルゾー達に隙を作らせたのだ。
キリヤはゴルゾーの前に姿を現す。不意打ちで倒しても良かったのだが、一人だったら手こずる事もないと戦ってみてキリヤは理解していた。だからこその余裕である。
「やぁ、こんにちわ。さっきはよくもやってくれたな。お礼参りにきたよ」
キリヤはニッコリを微笑む。
「貴様、生きていたのか!? 岩よ、形を変え武器となれ 《ストーンウェポン》 」
岩の形がみるみる変化し一つの巨大な鎌になる。
「あれ? 武器が鎌なのか。俺とお揃いだな」
キリヤの方を見ていたゴルゾーは驚きながら、声を荒げながら叫んだ。
「なんだ!? その腕は……貴様、本当に妖精なのか?」
「さぁ~どうでしょうね。まぁ、俺は一言も自分が妖精なんて言ってないけどね」
ゴルゾーはキリヤの言葉が言い終わるのと同時に鎌を振り回す。全ての攻撃を躱すか防御しているが、鎌の扱いが上手い。キリヤは強引に扱っているのに対して、ゴルゾーには技術も経験もあり純粋な剣技では勝てない。まぁ体格差があり過ぎるせいでゴルゾーも狙いがつけづらくて、大半の攻撃が空を斬る。
「へぇ~、思ってたより良い動きするね」
「たっりめーだ! 稀少能力の『鎌の担い手』があるんだからな!」
キリヤの言葉にゴルゾーは得意げに答える。
「あまり時間を掛けるのも良くないので、そろそろ死にな」
キリヤは身体変化で腕の鎌を巨大化させる。そのまま巨大な鎌で横に一閃。巨大化した大鎌はゴルゾーの扱っている鎌よりも一回り以上に大きい。
「うわっ! 岩よ、壁となれ 《ストーンウォール》 」
ゴルゾーは慌てて魔法で壁を造り出すが、壁ごと両断される。上半身が下半身と分断されて地面に崩れ落ちる。
キリヤは周井に散乱している奴等から能力を奪うことにした。一人ずつするのは面倒だから、出来るが分からないがあることを試みる。
まずは、落ち着いてから深呼吸の要領で魂っぽいのを吸い込むイメージだ。
「すぅー、はぁー」
頭の中に大量の不思議な声が聞こえてくる。狙い通り、成功したみたいだ。色々と大量にゲットした所為で何を手に入れたがイマイチ理解できなかった。そのことは後で『ステータス』を確認すれば済むと思い放置する。
この日、初めてキリヤは人を殺した。しかも、大勢の人間を殺害したのだ。だが、自然と嫌悪感が湧かなかった。
(まぁどうでもいいか。それより『ステータス』を確認しよっ)
ステータス
名前/霧咲霧夜(仮)
種族/下級魔人《ユニーク魔人》
能力スキル
通常/『隠密』,『気配察知』,『不意打ち』,『飛行』,『俊敏』,『擬態』,『剛力』,『忍び足』,『遠吠え』,『麻痺耐性』,『毒耐性』,『熱察知』,『幻覚耐性』,『魔力隠蔽』,『超音波』,『嗅覚』,『隠形』,『幻術』,『索敵』,『鎌鼬』,『分裂』,『吸収』,『形状変化』,『身体変化』,『逃げ足』,『蜘蛛の糸』,『罠師』,『跳躍』,『飛 翔』,『急加速』,『鑑定』,『夜目』,『壁歩き』,『身軽』,『直勘』,『盾術』,『アラーム』,『裁縫』,『暗算』,『杖術』,『槍術』,『身体強化』,『話術』,
稀少/『喰らう者』,『切り裂く者』,『麻痺を操る者』,『毒を操る者』,『食物連鎖』,『潜む者』,『隠れる者』,『刈り取る者』,『風流操作』,『聖気』,『神聖術』,『鎌の担い手』,『水魔法』,『光魔法』,『火魔法』,『土魔法』
固有/『弱肉強食』,『能力進化』
それなりに増えある。てか、裁縫や暗算って何に使えば良いのかが分からない微妙な能力もいくつか存在した。
(一番気になる点は能力の配置が取得順な事だ。せめて、魔法や武術とかに分類して欲しい)
キリヤはA型で妙なとこが几帳面であった。
「……ヤさん、キリヤさんってば、聞いていますか?」
ステータスに気を取られていたら、アリスの呼びかけに気づかなかった。
「え、あ、悪い。どうしたの?」
「急に真剣な表情をされましたけど、どうかなさりましたか?」
(ステータスを分類したいと考えていたなんて言えないな)
「それじゃぁ、お姉さんを助けるとしようか」
キリヤは祭壇の方に向かって手を翳す。魔法を発動しようと心掛ける。しかし、手に入れた火魔法を使って攻撃をしようとしたが、何も起こらなかった。キリヤの魔法は不発に終わった。
(何故だ!? 能力は手に入れてあるぞ。まさか、練習が要るのか?)
「キリヤさん、何してんですか?」
唖然としてるキリヤに対してアリスが首を傾げながら質問がくる。キリヤは恥じを凌いで魔法の使い方を聞く事にする。聞くは一瞬の恥じで聞かぬは一生の恥じだ。
「魔法ってどうやって使うんだ?」
キリヤはアリスに簡単に魔法について軽く講義を受ける。その結果、分かった事が四つほどある。一つ、属性魔法は魔法名が決まっているらしい。二つ、魔法のランクは下級、中級、上級、天級の4つに分類されているらしい。三つ、詠唱は自分のオリジナルでも可能。詠唱破棄や無詠唱も可。無詠唱は要練習らしい。四つ、魔法の種類は火、水、風、土、雷、闇、光の七属性ある。
「成るほど、わかったよ。ありがとう。炎よ、敵を焼き尽くせ 《ヴォルケーノ》 」
もう一度、腕を結界の方に向けて火魔法を発動する。凄い勢いの炎が結界を飲み込んだ。今度は成功の様だ。しかし、残念ながら、結界は破壊出来なかった。
「凄いです、火の上級魔法の《ヴォルケーノ》を一瞬で使える様になるなんて」
アリスが驚く。しかし、結界を破壊出来なければ意味が無い。
(詠唱も魔法もパクリだけど、いいか)
威力はドルガンのより圧倒的に強い。大量の魔力を注ぎ込んでたから当然ではあるけど。
「チッ! 結界は無事みたいだな。やっぱり、直接切り裂くしかないか!」
キリヤは無事な結界に対して舌打ちし、身体変化を用いて160センチぐらいの大きさに変化する。
(出来ると思っていたが、出来たな)
意外と魔力を使うみたいだ。そのまま身体変化で自分の身体よりも大きい大鎌をもう一度造り出す。そして、急加速で一瞬で結界の前に移動してから、大鎌で結界を切り裂く。
結界の中に避難していた信者達は顔に絶望を浮かべていた。
「い、命だけは、お助け~」
命乞いを始めた信者達を大鎌で一刀両断する。残りは十数名だけだ。その中には教祖も含まれている。
「ええぃ! 神聖な儀式の邪魔をしおって! いくらだ!? いくらで我らに従う?」
残りの手が金しか残っていないみたいだ。てか、邪神降臨が神聖なのか?
「金で動く訳ないだろ」
キリヤは即答で断る。そして、鎌を振り回す。近くに居た数人の首が宙を舞う。
「ひぃー」
「殺される! 化け物じゃ!」
「あわわわ!! 死神が我らの粛清に来られたんじゃ」
教祖と数人の信者以外は逃げ出そうと走り出したが、逃げれなかった。無防備に背中を向けて走っている輩には風の刃をプレゼントするキリヤ。化け物や死神と言われて少しだけ傷つくキリヤだったが、正確に標的を始末する。
アリスのお姉さんの居る祭壇の周りにも結界が張ってあった。その結界に思いっきり鎌で斬りつける。しかし、傷一つ無かった。
今のキリヤでは壊せないのだろう。
(壊せないなら、止めさせてやるまでか)
「残りは四人だ! 今すぐ儀式を中止しな」
キリヤは生き残りの四人に鎌の刃を向けて言い放つ。
「ガハハハハ! 我等を殺しても、もう儀式は止められんわ! もうじき、完成じゃ!!」
教祖が哂いながら、叫んだ。
(何だと!?)
「残念だったな」
「我等を殺しても無駄じゃい」
「さっさと消えるがいいわ!」
キリヤは即座に鎌を振り回して、教祖以外を始末する。教祖以外の残りの三人が五月蠅かったから殺しておく。元々、生かしておくつもりはなかったので問題もない。
「最後のチャンスをやるよ! 今すぐその少女を開放しな。そうすれば、騎士団に突き出すだけで勘弁してやるぞ」
キリヤは鎌の先を突きつけて命令する。その瞬間、祭壇が輝き始めた。
「遂に降臨されたぞ! ガハハハ、死神か何か知らんが、我らの邪魔をした事を後悔しながら死ぬんじゃな!」
教祖は勝利を確信したように高笑いをする。
(間に合わなかったのか!?)
これは、異世界転生が始まってから僅かな期間しか経過していないのに死神と呼ばれてしまった魔人の物語である。