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剣と拳

皆様、お久しぶりです。

カマキリがHJ大賞の一次選考を通過しました。

皆様のお陰です。

 徐々に怪物キョウキの身体を削ぎ、捕食する事によってキリヤの完璧な勝利は揺るがない……筈だった。だが、現実は違う。その未来に変化が生じた。


 無情にも数多の生物を吸収し、醜悪にも強大な姿に成長をしていた怪物の姿は、更に変化を続けた。先刻までの醜い化物の姿からは元の形態に近しい人型を模している。全身を黒一色で塗り尽くしたが如くの二本角の黒鬼だ。顔の輪郭は朧気で深紅な目と口が存在するだけ。漆黒の人影に真赤の目と口を描いただけの子供の落書きの様な鬼。身体を構成している材質は生物のモノとは思えない程に黒光りしている。


「俺の事が分かるか?」

 進化を終えたキョウキは二メートル程の身長に縮小しているが、油断なく言葉を掛ける。正気なのかの確認の為に問いかける。結果は解り切っている事だが、微かな可能性に期待しての言葉。



「……倒す、べき……敵だ」

「結局、そーなんのか」

 かすれた声だが、確かな返答を聞き、さらに集中する。いつ戦闘が続行しても動けるように。





 暴走状態から意識を取り戻したばかりのキョウキはキリヤと相対している。だが、完全に意識が覚醒している訳ではなかったが、己の状況は微かだが理解していた。

 同族なかまや数多の生物を喰らい、手にした禍々しいチカラが通用しない強敵が目の前に存在することに。




「ウ、グガァァァァァァ」

 突如、発狂したかの様に奇声。

 強くなりたい、仲間に認めてもらいたいと想えば、想うほどに仲間を喰らいたくなる衝動に駆られる。一度でも手を汚してしまえば、後戻りは出来なかった。ここで中途半端で留まれば、命を奪った者の犠牲が無意味に終わると考えたからだ。故に、免罪符には成らないかも知れないが、最強を目指す。最強になって価値を示せば、犠牲にした者達の命が無駄ではなかったという証明にも繋がるのだから。

 そして、殺戮の限りを尽くす。だが、そこまでして手に入れたチカラを以ってしても、敵わない相手が現れた。






 先程までは深く暗い闇に囚われていた感覚に陥っていたが、今では不思議とと気分は高揚していて清々しくもあった。それは、病魔王カースド・ウィルスによる呪縛から脱却できた証ともいえるが、病魔王による呪縛から逃れられた事により、殺戮や暴食といった衝動に駆られる事もなくなったが、次第に己が犯した罪の意識に苛まれ始める。


「ウルゥァァァァッ!!」

 無謀にも叫びながら突撃を繰り出す鬼。速度も力も十分に脅威と成り得るだけの威力を秘めているが、数多の生物を殺し入手したチカラの大半は既にキリヤに奪われた後なのだから、それだけで勝負の決着が着くようなことには成らない。両腕を正面に向けて真正面からキョウキの突撃タックルを受け止めたのだから。さすがに楽々と止める程の実力差がある訳ではなく、数歩分は後退してしまった。


「どうやら、チカラも速度も追い越してしまったみたいだな。さて、反撃といかせてもらうぜッ!」

 互いの肉体性能を確認し終えたキリヤは、すぐさま膝蹴りを見舞う。「ウゥッ」と呻き声が一瞬だけ零れるが、キョウキも負けずと両の手からキリヤの頸椎に手刀打ちを返す。その結果、キリヤは膝から地面に叩き付けられる様な形になり、そんな隙だらけな恰好のキリヤは蹴り飛ばされる。なんとか、両腕を十字クロスさせたお陰で決定打には成り得ない。

 しばしの間、防御も回避も碌に行わずに拳で語り合う二人。まさに肉体言語とも言えるであろう。だが、それも長くは続かない。何故なら、キリヤが後退して距離を取ったからだ。


 肉体性能では上を往く筈のキリヤの方が見るからに受けているダメージが多い。それには勿論、理由ワケがある。多少の実力差なんて押し返すだけの要因をキョウキは秘めていたのだから。


 その理由とは二つある。一つ目は純粋な『体格』である。まさに、大人と子供の様な二人。体格の違いによって、一番に生じるモノとは間合い。リーチの範囲だ。


「武器を使うが、悪く思うなよ」

 天使槍エンジェル・スピアを顕現させ、リーチの差を挽回する。そのお陰でこちらの攻撃の頻度が増加して勝負が有利になる様に思われたが、天使槍エンジェル・スピアの単体での攻撃では致命傷には至らない。固有能力ユニークスキルである『天使武器エンジェル・ウェポン』では上級魔人を超えし存在にと進化を果たした魔王級キョウキには役不足感が拭えない。


 第二の理由ワケは摩訶不思議な藍色の魔力オーラの存在。魔王級に進化した時の副産物なのか、原因は不明だが絶大な防御性能を誇っている。キリヤの必殺の絶対切断を以ってしても薄皮を裂く程の外傷にしか届かない。魔法も案の定、効く事はない。圧倒的に不利な状況だが、完全に勝機が無い訳ではない。

 この絶大な防御性能を誇る藍色の魔力オーラを獲得して間が無い為に操作性に難が見受けられる。簡単に言えば、常に全身に纏う事が現段階では不可能。藍色の魔力オーラにもムラも多くて均等に纏っている訳でもない。無論、キリヤが狙うべきポイントもここである。



「炎よ、敵を焼き尽くせ 《ヴォルケーノ》 」

 視界を覆い尽す如くの莫大な炎。しかも、竜炎との相乗効果にて威力の方も高い。だが、キョウキが纏っている藍色の魔力オーラにて一切のダメージはないが、狙いは別に存在する。目くらましである。先日のキョウキとの戦闘時にも活用した戦法。


 ダメージを受けない事を良い事に炎の波の中をグングンと直進するキョウキ。そして、自身の間合いにまで詰め寄り拳を振り抜く。その拳がキリヤの顔を見事に捉えるが、それは分身体であり、アッサリ魔力光と化して消失する。

 攻撃の隙を狙うべく肉薄してくるキョウキの後方に跳び、音もなく天使槍エンジェル・スピアを一閃。キョウキは拳を振り切った直後という事もあり、防御も回避も間に合わずに後頭部に鋭い一撃を受ける。前回の戦闘時と同様のではあるが、暴走状態で知能も著しく低下していたりと、様々な要因にて記憶の混濁や正常な判断が出来ないであろうとキリヤは予測して作戦であった。たとえ、正常な相手でも攻撃による一瞬の硬直を狙うのだから物理的に反応する事は出来ない。



 だが、予測を反してキョウキは対応してみせる。藍色の魔力オーラにてガッチリと頭部を覆い、完全に防御していた。そして、逆にキリヤが攻撃時の一瞬の硬直で反応が遅れるであろうタイミングでのカウンター。天使槍を掴み、自身に引き寄せる。咄嗟に槍を手放すキリヤだが、それにてさらに次の手に遅れが生じて蹴り飛ばされる。瞬時に起き上がるが、キョウキは既に肉薄しており拳を振るっている。回避をするだけの余裕もなく、防御の態勢にて連打を受ける。

 二人の体格差によってキリヤは上からの攻撃に曝されていた。故に上半身にばかり意識が向いており、突如として下半身への蹴りを瞬時に対応できるものではなく、ほぼ無防備にて右脚にローキックが炸裂する。その一撃にてキリヤの脚を破壊するぐらいの威力であり、左手側から倒れ込む。その後からは拳ではなく蹴りが嵐の様に叩き込まれる。


 転倒している状態のターゲットには反撃される心配もないからなのか、攻撃はどんどん単調になりつつある。故に蹴り出されてくる足を受け止める。直後に足払いを行う。片足でしか重心を支えれていない状態のキョウキは転倒する。その隙に立ち上がり、反撃に移ろうとするが……


「ッテェ!!」

 右足を踏み込もうとすると、右足に鈍痛が響く。

「ッ、でもなぁぁ! 負けられっかぁぁぁ!!」


 痛みで一瞬、動き出しが遅れたが、新たに顕現させた天使槍で倒れ込んだキョウキを穿つべく突き刺す。が、その一歩手前で腕力だけ後方跳び、地面に縫い付けられるのを回避。だが、それすらも読んだ如くにキリヤも動いていた。痛みにより絶叫しながらも縮地とクイックスピアの併用にて後方に着地した瞬間にキョウキの正中線を穿ち、その勢いのまま後方の樹木にまで槍が突き刺さる。藍色の魔力オーラも間に合わない。やはり、まだ操作性に難があった事からこの状況では咄嗟に使えなくて槍に穿たれた。

 

 表面だけを見ると無機物を彷彿させるが、その皮膚の下には血の通う肉体が存在するのだ。傷口からは青紫色の血で流血している。


「ハァ、ハァ……毒で逝ってみるか?」

 魔力を猛毒に変換しながら槍を媒介に体内に流し込む。『猛毒魔法ポイズン・マジック』は固有能力ユニークスキルだが、体内に直接に流し込めば、多少は効果が伺えれると信じて行動するキリヤ。竜炎だと傷口が塞がる事もあり、毒を流し込んだが、思いのほかキョウキにも影響を及ぼしている。


 肉体性能スペックでは若干とはいえ、キリヤが勝っている事で簡単には槍の拘束から抜け出せない。拮抗状態のまま数十分の時が流れた。互いにダメージの所為で呼気が激しくなる。


「はぁ、ここで死ぬのが運命さだめなのかも、な……だが、毒では死ねないッ!」

 オーガとして死ぬなら闘いの中と決意していたキョウキは力を振り絞り、槍を引き抜こうとするが、キリヤもチカラを込めて阻止するべく動く。互いの力が拮抗するが、その刹那に槍の柄が壊れた。いや、壊されたという方が正しいのかもしれない。

 既に藍色の魔力オーラすら纏えない程に消耗していたキョウキは赫の魔力オーラを右腕に纏っていた。


(なんだ!? 藍色以外にもあるのか……様子を伺ってみるか)


 能力が不明な為に遠距離攻撃にチェンジするべく距離を開けるキリヤ。このまま放っておいても毒の影響で倒せるのだから。無難に定石通りに様子見に移る。


「風よ、我の敵を蹴散らせ 《暴風波ストームブリンガー》 」

 風魔法と風流操作での相乗効果もあり、壮絶な暴風がキョウキに襲い掛かる。風の刃にて数多の裂傷をその身に刻み込まれる。ここからは炎や風に毒やらで一方的な展開に変わる。


(既に藍色の魔力オーラにて防御も出来ないのか、このまま終わられよう)


 赫の魔力オーラは不明だが、近接時にしか使えないと推測していた。故に徹底して魔法だけで攻撃している。魔法で十分にダメージを与えに与えまくったお陰で既に脅威を感じない。

 ただの的に成り下がったキョウキにトドメを刺すべく竜炎武装にて大剣を創造して『癒しの光』にて自身の治癒を始める。


「これで、終わりだッ!」

 赫色も藍色の魔力オーラを纏う事もなく静かに後ろの樹にもたれ掛かって動けないであろうキョウキに向けて走り出す。


 全てを断ち切るという想いで大剣を振り下ろす。その斬撃を迎撃するべくキョウキも拳を振るっていた。しかも、その拳には能力不明の赫色の魔力オーラを存分に纏っている状態で。


 剣と拳のぶつかり合い。強烈な一撃同士の衝突。バチバチっと互いの魔力が反発し合う。空気が揺れ、地面が割れる。






 

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