鬼との決闘
今月3回目の投稿になります。
感想のページに「今までのスキルの説明が欲しい」とありましたので、載せたいと思うんですが、八月の中旬(テストの為)ぐらいに載せると思います。
キリヤは周囲を一瞥する。周囲には徐々に鬼が集まって来る。しかも、頂上付近に生息しているという事は、それだけで一定以上の実力を所持している事を意味する。無論、全員がそうとは限らない。雑用とかの用事で弱い鬼も居る筈だ。
(……さすがにこの数は厄介だな)
キリヤは内心では焦っていた。それでも、ポーカーフェイスを崩さない。倒す事は難しくはないが、殺さずにこの数を無力化するのは骨が折れると感じていた。
「誰が最初に相手する?」
「ジュキじゃね」
「そうだったな」
鬼の魔人達の会話を聞いてキリヤは理解した事があった。
「では、先ずはお手並み拝見といきますか」
ジュキと呼ばれた魔人が一歩踏み出す。
「一対一でいいのか? 全員で掛かってきた方が得策だと思うぞ」
キリヤは最初は多対一を想定していたが、鬼共は一対一での戦闘を始めようとしていた。
「全員で一斉に戦えば意味なんてないでしょう。僕たちは強い相手との真剣勝負がしたいんですからね」
鬼は魔竜と同じぐらいの戦闘種族であった。
「その結果で、死んでも文句はないんだな?」
ジュキは頷く。ジュキは鬼にしたら小柄であった。魔人に進化した時の影響の可能性もあるが、他の三体の魔人は大きい。ジュキの見た目はほぼ人間と変わらない。頭部に二本の角が存在する事を除けば。その角でさえ、周りの鬼よりも小さい。さすがに160センチ程のキリヤよりは頭一つ分は高い。
「構いませんよ。鬼らしく死ねるならねッ」
ジュキの魔力が黒色に変質した。その黒色の魔力が一直線に放たれる。
「光よ、我が身を守れ 《ホーリーシールド》 これが呪術か、初めて見たな」
光魔法でキリヤは攻撃を防ぐ。そして、ジュキの放った攻撃の正体を言い当てる、これにはジュキだけではなく、残りの魔人も驚きの表情をみせる。実際にキリヤに呪術の知識なんてない。それでも、相手の『ステータス』を視れるので、手の内は丸わかりであった。
「まさか……光魔法も使えて呪術の事も知ってるなんて、相性最悪ですが、これならどうですか!」
黒色の禍々しい魔力がジュキの身体に纏い始める。元々は170センチぐらいで細身だったジュキの身体が徐々に膨れ上がる。魔法を発動したキリヤを見てジュキは術師タイプだと思い、強化した身体で接近戦を挑むべく接近する。
キリヤとジュキの距離が残り僅かになる。ジュキの身体には呪術が纏ってあり強化された拳を振るう。キリヤも迎え撃つ形で拳を繰り出す。その手には聖気が纏ってあった。互いの拳が激突する―――――が、押し負けたのはジュキの方であった。
「なッ!? 何故だ……」
現在のキリヤとジュキの体格差は優に倍以上の差がある。それでも、キリヤの方が勝っている。ジュキは信じられないとの表情を浮かべているが、キリヤからすれば、当然の結末だった。
「お前は戦士タイプじゃなくて術師だろ。何故、接近戦で挑んできた?」
キリヤは彼のステータスを把握していて術師だと知っていた。そして、キリヤは今まで生粋の術師との戦闘経験が皆無だったから、今回は後衛同士の対決が出来ると楽しみにしていたのだ。だが、結果は術ではなくて力で挑んできた。虚をついての行動だったのかもしれないが、それにしたらお粗末過ぎる。
「馬鹿なのか? お前の長所は後衛職だろうが」
キリヤの言葉を受けてジュキは豹変した。
「―――――ッさい! 五月蠅いぁぃぃ!! お前みたいに当然の様に高い身体能力を身に着けている奴に僕の気持ちなんて理解できないでしょうねッ! 鬼の上級魔人でありながら、純粋な膂力が通常の鬼にすら届かない僕の気持ちなんてねッ!! 」
ジュキは叫び散らす。今まで冷静で一人だけ周りの鬼に比べて綺麗な言葉遣いだっただけに印象のギャップを感じた。
「非力な僕が周囲からどの様な目で見られてきたか、お前に分かるかッ!? 鬼でありながら、非力過ぎた僕への蔑む視線や中傷の数々を! そんな時に僕はこの呪術を手に入れたんだ。それからは、周囲の視線も変わったさ……力を手にしたからね」
ジュキは自身の身体能力に強いコンプレックスを感じていたらしい。それを呪術で強引に強化して補っていたのだ。
「力って何だ? 敵を倒せれば、良いんじゃないのか? 自身の肉体で倒さないと鬼はダメなのか? その呪術もお前の力だろ。その力を使って俺を倒してみろよ。それとも、お前の陳腐な近接戦闘術でも披露するのか? そんな攻撃では俺は倒せないのは目に見えてるがな」
キリヤの挑発めいた発言にイラつきはしたものも、彼自身もその事に気付いていた。自分には近接用の能力を一つも所持していなかった。基礎中の『身体強化』すら所持していない。普通なら接近戦はしない。それでも、ジュキは近接戦で挑む。
キリヤの拳でジュキが地面に沈む。既に勝負が始まってから何度も見慣れた光景と化していた。あれからも何度もジュキは接近戦を挑んでいたのだ。その度にキリヤが軽くあしらう。キリヤ本人は生粋な術師との戦闘を求めている。その為にこの状態の彼を倒す訳にはいかない。
「おい、いい加減にしろッ! 自分の本分を理解しろ」
キリヤも何度も真っ向から挑んでくるジュキに怒気を含める言葉を送る。それでも、彼は頑なに術師としてのスタイルで戦おうとしない。
キリヤは捕食して能力を吸収するだけではダメだと、ハプドヴァースとオクゾールとの戦闘で学んでいた。その能力で何が可能なのかをしっかりと把握させてもらおうと考えていた。どうせ、生命を奪うのならば、少しでも成長したいとキリヤは想っている。それが、殺された者達の【死】が無駄ではないと胸を張って言える為に。
フラフラとジュキが立ち上がる。千鳥足でキリヤの方に近付き、拳を振るうが……最初の頃とは比べる影ももない。快調の状態でさえ、当たらなかったのに現在の状況では無理に決まっていた。そこにカウンターでキリヤは拳を振るい、ジュキを吹き飛ばす。地面を削りながら10数メートルもの距離も転がる。
「ジュキ、もういい!」
「後はオレ等がするから休め!」
「お前の想いは分かったから」
倒れたジュキの前に三体の魔人が駆け寄る。
「あんた等ってさ、力の無い奴には興味が無かったんじゃないのか? まぁソイツが本気で戦わないのならお前達を先に倒せばいいんだけどな」
キリヤはふと、思ったことを訊ねてから標的を三体に変更する。
「確かに、弱い奴に興味なんてないさ。だが、ここまで鬼達の誇りの為に戦った奴を無下には出来んッ! もう既にジュキは仲間なんだよ!!」
ジュキを隅の方に運び治療を周りの鬼に任せてから魔人達が戻って来た。
「次は誰が相手だ? それとも全員で来るか?」
三体の魔人を一瞥し、キリヤは挑発を仕掛ける。コイツ等が全員で来ないと分かっているからの挑発であった。さすがのキリヤも三対一は厳しいと考えていた。
「お前の相手はオレだ」
ジュキの次に大きい魔人が一歩前に踏み出してきた。この魔人も他の鬼と比べて少し小柄だった。小柄と言っても190センチは優に存在する。ジュキとは違い細身ながらも鍛え上げられた筋肉が付着してある。細マッチョである。
「シュンキよ、油断すんなよ」
「お前の速度でぶっ倒してやれ!」
シュンキと呼ばれた魔人も右腕を挙げて応える。キリヤは今までとは違い真剣な表情になる。キリヤは彼のステータスを把握しているから分かる。シュンキは速い、と。その為に今の段階で竜炎武装で武器を作成する。今回は短剣と呼べるほどの短い剣であった。これは小回りが利く様にと考えた結果であった。その短剣が左右の手に一本ずつ握られている。
「では、行くぜッ!」
クラウチングスタートの様に地面に両手をつき、構えていたシュンキ。一瞬でキリヤとの間合いに入る。他の者達からすれば、彼は消えたと表現するだろう。キリヤは神眼のお蔭でシュンキの神速とも云える速度を目で追えていた。
そこで、カウンターの要領で右手の短剣を横に一閃する―――――と、その場に、血飛沫が舞う。だが、それはシュンキの血では無かった。キリヤの右腕と脇腹に負った傷が原因だった。
「ビックリだぜ。まさか、オレの速度に反応してくるとはな」
彼は本当に驚いていた。初見で反応出来た奴なんて今までに居なかったからだ。
「そうか……次は当てるさ」
出血カ所の傷を癒しながら、キリヤは応える。
(視えていたが、身体が追いつかなかったのか……縮地よりは遅いんだろうが)
キリヤもステータスも速度重視のものが多い。それでも、シュンキには追いつけなかった。
「傷が治っているのか。だったら、それよりも早く仕留めれば問題ないな!」
円を描く様にシュンキはキリヤの周囲を高速で走る。動きを止めるべく、キリヤは風圧操作を発動した。その結果、シュンキの動きが一瞬、止まる。そこを狙いキリヤは一気に肉薄し、短剣を縦横と同時に振るう。
シュンキも迎撃の動作に移るが、既に間に合わない距離である。普通だったら、間に合わなかった筈だが、シュンキは間に合っていた。そして、キリヤの攻撃よりも早くに下方からの逆袈裟切りを終えていた。
キリヤの右脇から左肩にかけてが裂かれる。シュンキの爪にはキリヤの鮮血を浴びて紅く染まっていた。
動揺を隠せれないキリヤ。一撃で倒せるとは考えていなかったが、反撃を受ける事は想定外だった。
「動作をスキップする能力、無拍子か……反則級だな」
改めてシュンキのステータスを確認するキリヤ。能力の説明を読むだけでは理解出来なかったが、実際に目にすると驚きが隠せない。
ステータス
名前/シュンキ
種族/上級魔人 《鬼魔人》
能力
通常 /『身体強化』,『爪術』,『察知』,『俊敏』,『ダッシュ』
希少 /『闘争本能』
固有 /『韋駄天』,『無拍子』
「オレの能力をどうやって見抜いた?」
キリヤに能力名を当てられ、動揺するシュンキは訊ねる。
「さぁ~な。企業秘密だ」
傷を回復させたいキリヤだったが、少しでも動くとシュンキが攻撃に移るので回復せずに状況を分析する。
「フーン、そうか。じゃあ、続きを始めようか」
ハプドヴァースよりも素早い速度で駆けるシュンキに対してキリヤは自身の周囲に風流操作にて気流の膜を作成する。迂闊に手を出せば、鋭い風が牙を剥く様に出来ていた。
このまま突っ込めばシュンキも危険だと察知し、踏み止まる。
「どうした、来ないのか?」
キリヤは不敵に薄ら笑いを浮かべ挑発する。自身の守りを固めた上で遠距離攻撃を仕掛ける。何十を超える風の刃がシュンキに向けて放たれるが、彼は当然の様に避ける。かすり傷一つ出来ない。
「ッチ、面倒な真似を! 」
終わりの視えない風の刃が何度も襲い掛かり、シュンキも嫌気を指していた。躱す事は容易だが、徐々に体力が奪われる。それに対してキリヤは魔力を消費する。
「どーだ? 一方的に攻められる気分は」
今までシュンキが防戦一方になる事は一度もなかった。苦戦する事はあった。今回の様に術師タイプと戦った事も少なくはない。それでも、術を仕掛ける前に潰したり、術を躱してから仕留めていた。だが、攻守を同時に展開された事はなかった。通常でそんな事をすると、すぐに魔力切れを起こすからだ。だが、キリヤの魔力量は尋常ではない程に莫大であった。
「面白い! オレの体力が先か貴様の魔力が先に切れるか勝負といこうぜッ!」
あれから数時間が経過する。徐々に凡ミスが目立つ様になってきたシュンキ。体力が減り過ぎて注意力が散漫になってきたのが原因だった。キリヤはそれに対して魔力量の七割をも消耗していたが、今までと同じ様に風を操っていた。
(そろそろ、いいか)
キリヤはシュンキの様子を確認してから動き出す。風に気を取られていた一瞬の隙を突いて縮地で一気に肉薄する。これにはシュンキも反応出来ずに左右の脚に短剣を一本ずつ刺される。
「グっ!」
シュンキの痛みに耐える声が一瞬だけ漏れる。すぐに腕を振るいキリヤに反撃に移る。それを後方に跳び退いてキリヤは躱した。
「これで足に負担の掛かる事は出来ないな」
シュンキの走法は足に掛かる負担が大きい。その為、足を負傷しただけで愕然とパフォーマンスが低下する。
「ふざけんなッ! そんな事でオレの走りは止まらねぇぇぇぞ」
後方に飛び退いたキリヤに追撃をするべく、シュンキは地面を蹴り、一気に距離を詰める――――――が、途中で地面に盛大にダイブする。足がしっかりと衝撃を吸収出来なかったからだ。
「悪いな、これで終わりだ」
キリヤは竜炎武装で作成した長剣を振り下ろす。すると、鈍い音が響いた。明らかに普通の生物を斬り付けた音ではない事は確かであった。
「残りは我輩が相手だぁ!」
キリヤの長剣を見守っていた大柄な魔人が左腕を挙げて受け止めていた。
「まだ、勝負は済んでないんだがな」
キリヤはトドメを刺すまで、他の魔人は待つと思っていたが、そうではなかった。ピンチの仲間の為に自身の身体を張ってまで助けに来ていた。
キリヤは既に鬼のボスの半分を倒した。残り二体の魔人が残っているが、キリヤは余裕の表情だった。少々、魔力を使い過ぎたことは反省しているが。
(まぁ全員を倒してからまとめて喰らえば良いだろう)
この時の考えが後に、悲惨で残酷な結末を迎える事になる事を彼は、気付いていなかった。




