鬼の棲家に訪問
今月、二回目。
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かきくけ虎龍さんに感謝です。
キリヤは魔法と能力の二重行使を覚え、オクゾールにハプトヴァ―スの力だけで倒す事に成功した。その後にハーピィとオークの両種族にボスが亡くなった事を伝えるべく、動き出したキリヤ。だが、探すにも手掛かりが無さ過ぎる。この広大な森林で闇雲に探すのは、現実的ではないが、他に方法が思いつかないので、仕方なくキリヤは上空から当てもなく探す。神眼や闇夜之暗殺者のお蔭で探すのは普通よりは楽だが、手掛かりが無さすぎるので、多少の時間が掛かってしまった。だが、その甲斐もありオークの集団を発見出来た。けっこうな距離を西に進軍していた。きっと、更に西に向かえばハーピィの一団にも遭遇できるだろう。
「お前等はオクゾールの部下だよな?」
キリヤは念の為に確認を取る。簡単に見渡しただけでも数百を超えるオークが確認できる。キリヤは上空から全軍を見下ろしながら声を掛けた。
「―――――ッ誰だ!?」
ざわつく集団の中でも一際レベルの高そうなオークの魔人が武器である槍を構えてキリヤに問う。彼はオクゾールが不在の時に軍を任せられる程の者である。
「俺の名前はキリヤだ。単刀直入に言おう! お前たちのボスであるオクゾールは死んだ。正確にはハプトヴァ―スと相打ちになった」
キリヤの言葉でオークの集団には動揺が生じる。タダでさえ、いきなり現れたキリヤに驚いていたのが輪を掛けて広がった。そして、キリヤは自分が殺したが、ハプトヴァースと相打ちをしたという事にしてお互いのボスの実力が互角だった事を伝える。
「ッざけんな! オヤジが死んだだと? 嘘を吐くなら、もっとマシな嘘にするんだな!」
最初に武器を構えた奴とは、別の魔人が怒鳴り、キリヤに飛び掛かろうとするが、最初に武器を構えたオークが制す。
「よしなさい、オクカド! 奴は僕等に気付かれずに、ここまで来たんですよ! それだけでただ者ではありません。先ずは様子を伺いなさい」
オクカドと呼ばれた魔人も嫌々ながらも従う。
「分かったよ、オクマルの指示に従おう」
「それで、キリヤと云いましたね。貴女は何者ですか?」
オクマルは鋭くキリヤを睨む。
「あ、俺か? 俺の事は良いんだよ。それよりも、ボスが死んだ状態でハーピィと殺し合うのか?」
少し悩む素振りを見せて、オクマルは応える。
「そうですね。父上の居ない状態でハーピィと戦えば、勝てても僕等の被害も大きいですし、その後に控えてる鬼との戦争に響くので、停戦を求めて今度こそは本当に同盟を結ばないとヤバそうですね」
冷静にオクマルは判断する。最後に「今の話が本当でしたらね」と付け足す。
「中々冷静だな。まぁいいや、次はハーピィの連中にも同じことを伝えるから俺は行くぜ。信じるも信じないもお前たちの自由だからな」
キリヤはそれだけを伝えるとハーピィの居ると思われる方向に向かい飛び立った。現在のキリヤは二対四翼の翼を背中に生やしていた。それは、大天使ミカエルの純白な翼とドガルガルの魔竜の力強い翼だ。
高速で追いかける事ですぐにハーピィの群れにも合流出来た。視界にとらえるだけで追いつくことは簡単だった。それ程の速度でキリヤは移動をしていた。
「やっと、追いついた」
キリヤはハピネスを偶然に発見出来たので、ハピネスの傍で止まり先程とは違い本当の出来事を伝える。そして、オークの方も今度ばかりは焦っている事も教えた。しかし、ハピネスの耳にはそんな言葉は入っていない。
「う、嘘よ……そんな、お兄様が死んだなんて」
ハピネスの頬に涙が流れ落ちる。キリヤはもう一人の魔人であるハプスルにも同じ様に説明した。
「情報提供は感謝します……が、ワタクシは貴女を許しません。貴女との戦闘が無ければ、ハーヴァス様は敗けませんでした。貴女の所為で死んだんですッ!」
極めて冷静だと思われたハプスルもハプドヴァースの死に対しては冷静に割り切る事は出来なかった。最後には声を荒げて泣き叫ぶ始末だ。
(俺の所為とはいえ……精神的にまいるな……)
キリヤは自分の選択が間違えだったのでは? と考えてしまい気分も暗くなる。恨まれる覚悟もあった。それでも、実際には覚悟が足りなかった。
半刻程の時間が進んだ頃には、ハピネス達も動き出した。空元気だとは分かるが、他のハーピィも何も言わない。キリヤはハプドヴァースを吸収してから人語を会得していないハーピィの会話も理解できる様になっていた。推測だが、オークの言葉も理解できるだろう。
ハーピィ達の今後の方針が決定した。オーク達の様子を探り、同盟を結べるようなら連合軍を結成し、鬼を仕留める算段らしい。その後にオークも潰す目論見があるようだ。それは、オークも同じなのだろうが。皮肉なものである。お互いのボスの敵と一時的とはいえ、同盟を結ばなければならないのだから。
キリヤはそっとその場を離れた。伝える事は十分に伝えたのに、ハプドヴァースの死の原因の一人である自分が長い間、ここに留まるのは彼女達の精神的にもよろしくないと判断したからだ。
直に日が暮れる。その為、キリヤは身体を休める場所を探す。翌日には鬼のボスを仕留める為に身体を休めるのが得策と判断したからだ。キリヤが寝床に出来そうな場所を見つけた頃には陽が沈み、辺りを静寂と闇が支配する。キリヤは一本の大木の枝に腰を下ろし、大木の幹に背をもたれ掛かり休息に移る。周囲には結界を張ってあるので、万一の時にはすぐに気付ける。そして、今夜は夕食はない。
キリヤは眠る前に思考に陥っていた。どこかの街で平穏に暮らせば、ベルゼブブに見つかる事はないのではないだろうか? もし、そうすれば、これ以上の捕食を行う必要もないのではないか。しかし、ここで諦めれば、これまでに捕食した相手の死が無意味になってしまう。結局、キリヤはベルゼブブを倒す為に魔人を狩ることを選ぶ。ハプドヴァースの代わりには成れないけど、せめて、鬼の問題は何とかしようと決心した。
(これが、せめてもの罪滅ぼしではないが、鬼のボスは俺が仕留めよう……)
キリヤは思考をリセットする為に深呼吸をし、就寝に入る。本日に消費した分の魔力は既にオクゾールの捕食で魔力量自体が増加してある。それでも、疲労感は拭えない。その為に睡眠は必要であった。魔人には眠らないタイプも存在するが、キリヤはそうではない。
太陽が昇り始めてからキリヤは目を覚ました。既に街の方では多くの住民が活動を開始している時間帯だろう。キリヤも早起きに慣れてきた。
「さてと、行きますか」
軽く屈伸運動を済ませながら、キリヤは一人呟く。確か、鬼は北のエリアを縄張りにしていたよな、と記憶を手繰りながら移動を開始する。
二対四翼の翼で北を目指すキリヤ。北に向かうとゴツイ岩肌の山が見えてくる。山には多くの洞窟が見え隠れしてある。手頃の距離の洞窟の前に降り立つ。
「鬼か? もし、そうなら出てきてくれ」
索敵によってこの洞窟に生命体が存在している事を把握しているキリヤは問う。ボスにしか興味が無いので、他は殺さない為に平和的に交渉する事を選ぶ。
「グギギ、何モ、ノダ?」
「ニンゲンでは、ナいな」
「ブチコロス、ケッテイ、だ」
洞窟からはゾロゾロと二十を超える数の鬼が現れる。何体かの鬼は片言だが、人語を発する個体も観測された。残りの鬼は残念ながら、何を言っているのかキリヤには理解出来なかった。
「俺はお前たちのボスに話が合って、来たんだ。ボスの所まで案内を頼みたいんだが、いいか?」
キリヤは片言の人語を発していた個体に向けて要件を伝える。
「弱いヤツなんて、シルカ!」
「シルカ、キエナ!」
「コロス」
鬼共はキリヤの周囲を円状に囲み、逃がさないと見せつける様に武器を構えた。
「……弱くなければ、良いんだな?」
鬼は強さを重要視する種族である。その為に、弱い奴には厳しい弱肉強食の世界を生きる者達である。
「跪くんだなっ!」
キリヤは自身の居る場所を除く周囲を風圧操作を発動し、気圧で押し潰す。急に強力な重力に襲われ、鬼は地に膝を着く者が続出した。踏ん張る個体も僅かながら存在するが、攻撃をする余力までは残っていないみたいだ。
「さぁ、これで文句ないか?」
キリヤの視線の先にはギリギリ耐えている鬼達が居るが、沈黙。鬼共は口を開かない。更に風圧操作の威力を高めるキリヤ。その所為で最初に地に膝を着いていた者達はうつ伏せの状態にまで成り下がった。そして、耐えていた者達も膝を着く。
「もう一度、問おう。俺を案内するか?」
有無を言わさないキリヤの圧力に敗けて、鬼は口を開いた。
「……ワカッタ、案内、スル」
その言葉を聞いたキリヤは風圧操作を解除する。そして、山を登り始める。現在は山の中腹に位置する洞窟だったが、更に上に登る。
どうやら、ボスは頂上に居るらしい。ここでは、実力の高い者程、頂上に近付けるシステムみたいだ。
標高1000メートル程の山を中腹からとは云え、数十分で登りきれたのは、キリヤ達の身体能力が高いお蔭だろう。
(ハイキングみたいだったな。周りには自然なんて全然、存在していないが)
キリヤは飛ばずに徒歩で山を登った。勿論、先程の鬼達も一緒である。片言で喋っていた三体だけだが。
「オイ、貴様等!! そこで、なにしてる?」
頂上に近しいところで鬼の魔人に呼び止められる。ここに来るまでの間にも何度も合った出来事である。
「ボスさんに会いにきたんだ。そこを通してくれないか?」
「ふざけ――――グッ!」
鬼の魔人が怒鳴ろうとした瞬間にキリヤは風圧操作を発動する。先程からずっと、これの繰り返しである。徐々に威力は上がってきているが。
「下級魔人に用は無いんだよ」
キリヤは進む。下級魔人を黙らせたキリヤは案内役の鬼達には帰ってもらった。もう十分だと判断したからだ。それと、裏切り者だと判断されたら可哀想だったという理由もあった。
「そこを止まれ!」
「何者だ? 名を名乗れ!」
「女だろうと容赦はしません」
「ぶっとばすぞ!」
キリヤの行軍を遮る四体の魔人。
「上級魔人のお出ましか。ボスはどいつだ?」
キリヤは歩を止め、四体の上級魔人を視る。
(なっ!? この四体は……)
ステータスを確認したキリヤは絶句する。四体とも能力の構成がバラバラだった。今まではボスの下位互換の能力構成だったが、こいつらはバラバラで統一性がない。多少は被っているが……この四体は同等の実力とキリヤは推測した。誰がボスかが分からないのだ。
「先ずはアンタの実力を測らせてもらおう」
「弱い奴なんて興味ないからな」
「付いて来い」
「真剣勝負だ!」
キリヤの問いには応えずに四体の魔人は話す。仕方ないと思いながらもキリヤは付いて行く。
少し歩いた場所に少し広めの平坦な場所が存在していた。周囲には大小様々な沢山の岩も存在してある。
「ここで」「我らと」「死合を」「してもらうぞ!」
四体の魔人は言葉を四等分にして順番に話してくる。
「別に構わない。いや、むしろ上等だ」
この四体がボスとキリヤは認識した。つまり、全員を捕食する事を決める。キリヤは四対一で殺し合っても勝利する自信があった。




